Ⅳ 2

 夢見は疲れた顔でタクヤを見ていた。一日歩きまわって何の成果もなく事務所に戻ってみると、当の本人が訪れている。

「どっちにしろ面識があるのは僕のほうだからね」

 タクヤがサラリと夢見にそう言った。

「それでどうするの」

「受けたけど、まずかったかな」

「そんなことないけど」

 夢見は席を立って事務所を出ていく。タクヤには夢見がどこに行ったかわかっていた。加奈ちゃんは帰っちゃったし、どうしようかと思いながらタクヤも事務所を出て行った。いつものことだし。

「ずいぶんこんがらがってるみたいね」

 タクヤが事務所を出ると美佐が立っていた。

「誰に聞いたの」

「加奈ちゃん。詳しい内容は聞いてないよ」

「そこ」タクヤは《ボス・テナー》を指さした。

「違う、うちの店。しばらく時間つぶしてた。約束でもあったのかな」

「そんなことない、単純だよ」

 苦手じゃなかったのか。タクヤは心の中でつぶやいた。美佐が階段の上のほうを見ている。

「ミチノシタを見かけたって。あの娘が」

「依頼と関係があるの」

「彼女はそう思っているみたい」

「そうなんだ」

 夢見は軒先から空を眺めながらタバコをふかしている。タクヤがパーカーのポケットを探っていると、夢見は持っていたタバコの箱をタクヤの前に差し出した。タクヤはその中から一本タバコを取り出す。

「認めたんだねやっと」

「そうだね」

「客の一人らしいけど」

「そういう客の扱いは上手いらしい」

 夢見がつぶやくようにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る