Ⅳ 1

 客が来ているとタクヤに加奈から連絡がありタクヤは急ぎ足で事務所に向かう。川は近くに流れている。ただ事務所から見えないだけ。タクヤは高くそびえる塔を横目に川に架かった橋を渡る。

「加奈ちゃん、そろそろ着くから」

 タクヤが電話を入れると明るい加奈の声が聞こえた。笑っているようだ。それほど深刻な客ではないのだろうかとタクヤは思う。夢見は何をしているのだろう。

「夢見さんはすぐに戻れないみたいで」

 タクヤは階段の降り口で止まりタバコに火をつける。電話の様子では待ちきれなくて帰ってしまうこともないだろう。タクヤが大きく煙を吐きだすと階段を上がってくる加奈が見えた。

「自販機でジュース買ってきます」

「美佐さんの店は」

「あたしちょっとあの店は苦手で」

 タクヤは加奈に小銭を渡して階段を下りていく。事務所のドアを開けると客がソファーにすわっていた。

「こんにちは」

 明るい声が事務所に響いた。聞き覚えのある声。タクヤはゆっくりと歩いて向かいのソファーに腰を下ろす。

「どうしたんですか」

「依頼に来たんです」

 以前会った時より、少し大人びた感じ。服装のせいだろうか。

「百合さんでしたよね」

「何の依頼でしょう」

「人探しです」

 落ち着いた声で百合が答える。ドアが開いて加奈が戻ってきた。

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