Ⅲ 4

 タクヤが事務所に戻ると夢見がキッチンで格闘していた。キッチンと言ってもここでは簡単なものしか作れない。そもそもお湯を沸かしたりするためのものだから。

「タクがカップ麵とか良くないっていうから」

 夢見はそう言いながらフライパンを動かしている。

「野菜とか入れないの」

「ウインナーは入れたよ」

 これではカップとそれほど変わらない。タクヤは少し離れて夢見を見ていた。

「ところで、何か手掛かりはあったの」

「犬は見つけたよ」

「そうじゃなくて依頼人の」

 急に夢見がフライパンを持ったままタクヤのほうに振り返る。ウインナー入りの焼きそばはちゃんとできているようだった。

「お皿」

「あったかな」

 タクヤはつぶやきながらコーヒーカップなどが置かれた棚ほうへ。ビニール袋に入った紙皿を夢見に見せると、テーブルに置くように目で合図をする。

「僕の分も作ったの」

「三人前」

「残してもしょうがないでしょう」

「人探しの依頼らしいね。ママから」

「人探しっていうか、結局誰も素性を知らなくて」

「そこから」

 夢見は口のまわりのソースをティッシュで拭いながら焼きそばを食べる。

「人捜しと、素性を調べるのって微妙だよね」

「人捜しは善意だけれど、素性を調べるのは悪意が含まれる」

「ていうか、ほとんど悪意だよ」

 夢見は焼きそばを食べながらニヤリと笑う。

「それよりも、依頼人のほうは」

「フミマロね」

「フミマロ」

「そう、それがあいつの本名」

「パラノイアの」

 タクヤは焼きそばをつかんだまま箸を止める。

 夢見の得意げな笑い顔。

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