Ⅲ 2

「キースって名前聞いたことがある」

 真紀は独り言でも言うようにタクヤの前でそう言った。

「一人で仕事している」

「連絡先は」

「わからない」

 真紀は相変わらずどこを見てるでもなく無表情。そこに美佐が割り込むように入ってきてタクヤの視線を遮った。真紀は美佐に押し出されるように壁際に追い込まれる。

「また依頼なんだけど」

 真紀はおびえたような目で美佐を見ている。

「また、ここの常連さんですか」

 タクヤがそう言うと美佐は微笑みながらタクヤの顔を見た。タクヤは真紀のほうをチラッと見たあと「それじゃ、事務所のほうに」と言って席を立つ。

「いつも通りしててね」

 美佐は真紀にそう言うとタクヤを追うように店を出ていく。タクヤが事務所のドアを開けると中には誰もいない。夢見は調査に出ているようだ。

「不用心じゃないの」

「まあ盗まれるものもないんだろうけど」

「個人情報だってあるわけだし」

「そうですね」タクヤはあっさりと答える。

「留守番でも雇ったら。電話ぐらいかかってくるんでしょう」

「皆無ですけど」

「それよりも依頼の話ですけれど」

「依頼主は」

「あたしかな」

 美佐がソファーにすわりながらそう答える。

「人探し」

 タクヤの言葉に美佐がうなずく。

「最近来ないのよ。ちょっと心配になって」

「僕の知ってる人ですか」

「あなたは知らない。最後に来たのはあなたたちがここに来る前だから」

「お金貸したのが良くなかったのかなあ」

「それっきりだから」

 タクヤはじっと美佐の顔を見た。

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