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「本当に知りませんか」
住宅街の外れにある洒落た喫茶店。《バーントアンバー》とは大違いだな。タクヤはそう思いながら生垣の花を見ていた。
「あなたもしつこいですね」
向かいの娘はレモンスカッシュをストローで一口すする。
「炭酸入りですか」
「そうですけど」
タクヤの質問に少し戸惑いながら娘が答える。
「炭酸が入ってないとレモネードなんですよね」
「近くにものすごく甘いレモネードを出す店が合って」
「それだどうしたんですか」
「ウチの嫁が好きなんです」
だからそれがどうしたんだと思いながら百合は作り笑いをする。
状況証拠は十分なのにと、タクヤは百合の顔をじっと見た。
「あの、浮気相手って誰なんですか」
「別にどうでもいいんですが」
「どうでもいいなら、聞かないでよ」
「個人的な好奇心で」
「いいんです。答えたくなければ」
「ただの好奇心ですから」
「あなたはあの人の奥さんに依頼されたのではないの」
「当の本人に、いきなり浮気調査の話をする探偵っていると思います」
「あたしだってそのくらいわかります」
「あなたは余程へっぽこなんだなと思っただけで」
タクヤは今日は近くにミーちゃんがいなくてよかったと思った。
「私の依頼人は恋人に戻ってきて欲しいと思っているんです」
「それをあなたに伝えてほしいと」
百合の表情は、タクヤの言葉が聞こえなかったかと思えるくらい無反応だった。
「コーヒースカッシュってないんですかね」
「絶対まずいですよ」ストローをくわえて下を向いたまま百合が答える。
「でも、もういいんです」
「依頼人が消えちゃったので」
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