《バーントアンバー》

 焦げ茶色。

 喫茶店の名前にしてはかなり地味だ。

 地下の奥まったところにあることを考えるとそれほど的外れな名前ではない。

 中年の女主人。他に店員はいない。客も常にまばら。全くいない時もしばしば。

「そっちの方が多いのよ」

 女主人は笑いながらタクヤに言った。隠れ家的な場所ではある。

 メニューはコーヒーと紅茶のみ。軽食もない。女主人の気が向くと、ちょっとした菓子をサービスでつけてくれる。今日もほぼ常連がパラパラと席を埋め、本を読んだりイヤホンで音楽を聴いたりボーっとしたりしている。音楽は流れていないので、店内は恐ろしく静かだ。タクヤは常連客の顔は知っているけれど誰とも話したことはない。彼らは見るからに会話を拒絶しているように思えた。疲れた顔をして夢見が店に入ってきた。

「レモネード」

 夢見は女主人にそう言うと、空いていたソファーにどっかりと身体をうずめた。

「考え事でもするの」

 女主人がタクヤにきく。

 ミーちゃんはここではレモネードしか飲まない。知ってるはずなのにと思いながら「依頼者が消えちゃったんです」とタクヤは女主人に言う。

 依頼者だけじゃない。あの娘もわからないことばかりだ。タクヤはゆっくりと席を立った。

「どこ行くの」

「ネコ探しですよ」

 こういう依頼はミーちゃんはやらないから。

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