「また会ってくれるかな」

 タクヤは夢見の淹れてくれた水出しコーヒーを一口飲んだ。

「やさしい味だね。癒されるよ」

「時間切れだったんでしょう」

 お昼の休憩時間を利用してタクヤは百合を呼び出していた。

「もともときっかけが欲しかっただけで、一回で済むとは思っていなかったからね」

「もう一度会うのは問題ないでしょう。こんどはあたしも同席するし」

 ただあれだけ話が食い違ってしまうと。夢見は依頼者の持ってきた写真をじっと見ている。

「ちょっと感じは違っているけど、あの娘に間違いないと思う」

「今思うとその写真、盗み撮りした写真のようにも見えるんだけどね」

「盗み撮りでしょう」夢見がサラリと言う。

「ミーちゃんさあ」タクヤは水出しコーヒーをぐっと飲んだ。

「あたし調べてみるよ。依頼者のほうを」

「それじゃ僕はあの娘のほうをさりげなく」

 そう言ってタクヤは立ち上がって事務所を出ていく。

「タバコでしょう」夢見がタクヤに声をかける。

「もちろん、今からは行かないよ」

 階段の降り口に灰皿が置いてある。下の階は《ボス・テナー》の中を除いて全面禁煙になっていた。タクヤはパーカーのポケットからタバコとライターを出して火をつけた。

「相棒のおねえちゃんも吸ってるよね」

 ラーメン屋のおやじがタクヤに声をかけてきた。

「向こうのほうがヘヴィーですよ」

「そうなんだ」

「刑事さんだったらしいね」

 わかっちゃうもんだなとタクヤは思う。そして、自分のことも知られてるのだろうかと思った。ビルの向こうに夕焼けが見えた。タクヤは夢見に電話をかける。

「やっぱり今から行ってくる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る