琥珀色のビール。アンバーエールともレッドエールとも呼ばれる上面発酵のビール。

「気品があるでしょう」《ボス・テナー》の店主がタクヤに言う。

「スタウトのほうが好きかな」

「そうですか」店主は少し残念そうな顔でタクヤに言った。

「でもどうしてそんな男と関係するんでしょうね」

「どう見ても怪しいんでしょう」

「男と女だからね。まあ、ストーカーじゃないだけましなのかも」

「ストーカーは良くないけれど、される方も非がないわけじゃない」

「マスターだって、思わず優しくしちゃったこととかあるんじゃない」

 タクヤの言葉に店主は思い出したようにニヤリと笑う。

「この店の中は別世界のはずなんですけどね」

「たまにわかってくれない人もいますね」

 タクヤは琥珀色のビールを飲んで、タバコに火をつける。

「どんな女性なんでしょうね」

「ちょっと派手目で、気が強いんじゃないかな」

「でも、そんなお姉さんが引っかかります。パラノイアに」

「引っかかったんじゃないと思う。逆に吸い寄せたんだよ」

「パラノイアを」

「あの男だって黙ってすましてればいい男に見えなくもない」

「いますよね。外見しか見ていない女」

「それで金でも持っていれば」

「馬鹿じゃないの」カウンターの奥の方から声が聞こえる。

「いらしてたんですか」

 タクヤが声の主のほうを向いてグラスをかかげる。

「早く帰りなさい」

「手付はもらったんでしょう。それで十分じゃない」

「待ってる人がいるんだから。それに守秘義務違反」

「一般論ですよ」

「どこが」

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