「さっきドアの前に立っていた男」

 ラーメン屋のおやじがラーメンを作りながら夢見に話しかける。タクヤは店に入ってからずっと漫画雑誌を読んでいた。

「少し怪しい感じだったね」

「そうでしょう」

「パラノイア的っていうか」

 タクヤは漫画を読みながらチラリとおやじのほうを見る。

「そうでしょう」そう言って夢見はタクヤのほうをチラリと見た。二人の視線が交差する。

「ラーメン上がったよ」

 二人の前のカウンターにラーメンのどんぶりが並んだ。二人はそのどんぶりを両手で持って、ほぼ同時に自分の前に置く。

「さすがに息が合ってるね」

「そう言うわりにはチャーシューの枚数が違うんじゃない」

 タクヤは夢見のどんぶりをのぞいておやじに言った。

「偏執狂ね、たしかにそんな感じだったかな。話し方も」

「でもこの人は普通だっていうのよ」

「オーディナリーピープルか。そうかもしれないね」

 おやじは腕組みをしてそう言う。

「どっちなの」

「どっちもどっち」

 夢見は一瞬呆れ顔でおやじを見たあと、ラーメンをひとすすりした。

「それよりチャーシューはどうしたの」

「量は同じだよ」

「ウチのチャーシューはかみごたえがあるだろう」

「おねえちゃんのほうは少し薄く切ってある」

「あたしも厚いほうがよかった」夢見はそう言いながらチャーシューをかじる。

「あの店がはやらないのはおやじがおしゃべりだからじゃない」

 店を出たあとタクヤが夢見に言った。夢見は今日初めてタクヤと意見が合ったと思う。

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