第4話「戦艦で練習」 

 暗かった宇宙うちゅうの光りがすと、影とともに姿もあらわになった。星雲せいうんのようにも見える無数の戦艦せんかんれ、宇宙 艦隊かんたいだ。



 駐留ちゅうりゅう軌道きどうに到着して大量の船をまわじゅうに見ながら進んでいる。この中から先生の宇宙戦艦を探すのはムチャクチャ大変だよなーと、無駄な心配をしたのは私だけじゃないだろう。


 ちなみに今、私達が乗っている連絡艇れんらくていは体験実習の為だけに借りている観光かんこうようの宇宙船なんだそうだ。

 軍用の物は窓が小さく景色が見えにくいわ、かみ装甲そうこうの割に内部がせまくて大勢おおぜいは乗れないからと先生がこぼしていた。



「乗りうつる前に戦艦の外観を案内しましょう。標準仕様の艦なので特に偽装ぎそうしていません大公開です」

 黒っぽい戦艦に観光宇宙船がスーッと近づいていく。遠目とおめで見た感じより随分ずいぶんとデカイな。 


 戦艦の表面で多くの穴が開いたり閉じたりしだしたぞ。何かの生き物みたいでゾクゾクする生理的せいりてきにダメな感じがー。


複合装甲ふくごうそうこうの開閉している所が推進すいしんです。いっぺんに動いているのを見ると気味が悪いですね、次はひかえましょう」

 あはは、自分で言っちゃてるよ。先生にも苦手な物があるのが分かって親近感がどっといてくる気がするね。



 すいーっと横に移動して、長方形の穴の前で止まる。

「この開口かいこう部は防御ぼうぎょ力場りきばたい射出口しゃしゅつこうです。粒子砲の直撃をける壁を形成する装置と言うところです。

 力場帯は慣性かんせい運動しますので戦艦が方向 転換てんかんなど行うと追随ついずいせず離れてしまいます。

 物資の消耗しょうもうも大きいので使いどころが重要なのです」


 なるほど、そこがうでの見せ所ってことですなー。実は、さっぱりわかってないけど。



 また戦艦の表面を移動していると今しがた確かに見えたぞ。

「あれ、先生!ちょっともどってもらえますか」

「はい何かありましたか?」

 もう先生、酔い止めをかまえるのはしてください誤解ですってば。


「戦艦の表面に先生の模様もようがありますよね、見ましょうよ」

「ああ、三ツぼしもんですね。いですよ」


 するりっと回り込んで模様がよく見える位置に船をつけると、黒い装甲面に大きな白い円が三つ輝いている。


「先生、模様の下に何か書いてありますね。読めませんが」

 見慣れないが、文字か記号のように思える。

「あれは『彗星三号コメツトサン は~い』と発音するそうです。あの戦艦の識別名ですね」


 なんで先生はハーイのところで顔の前に手をかざすのだろう?可愛いからいいんだけどーなどとポカンとしていたら。


「司令からこうする様に指示を受けているのですが、やはり変でしょうか・・・」

 また悪の司令の差し金だったのか。


「いえいえ全然!えーとですね、そうだ!そうそう撮影さつえいしましょうよ。あの模様を背景にしてみんなでね」

 少々むりやり話題を変えたが、いい思いつきじゃないかな。実習生 一同いちどうも乗り気で楽しく撮影会さつえいかいだ。これは記念になるね。


 

 模様を離れてビューンと進む。これで戦艦のはしから端まで移動したことになる。

先端せんたんに棒状に突き出ているのが主力武装の粒子砲りゅうしほうです。使用すれば少なからず消耗し、作動不能になった砲は交換します。

 戦闘中に交換しているひまはありませんから、粒子砲の余命よめいは艦隊の命運に直結します」


 粒子砲が壊れる前に敵に勝つには、やっぱり数で上回る必要があるだろう。私には、それくらいしか思いつかないや。



「外回りの解説は以上です。では連絡艇を戦艦に接舷せつげんさせます。衝撃しょうげきがあるかもしれません注意しなさい」

 観光船が戦艦の横に並んで止まると、何かが組み合うような音がカシャンとひびいてからとびらが開く。


 あれ?出入り口が小さいな、乗り込んだ時の半分くらいの大きさしかないぞ。


「この狭い通路で宇宙 遊泳ゆうえいに慣れていきましょう。まずは、この先にあるひらけた所まで移動してみなさい」

 そう話すと先生は手を通路について、すいーっと行ってしまう。一歩いっぽと言うか一手いってで向こう側まで飛び、クルリと着地して手招きしている。



 私の場合どうなったか説明すると、勢いを付けて通路に突撃した結果あちこち衝突し、手で何とかしようとしたら回転がはげしくなって、最終的には先生に受け止められて、まさに手取り足取りで床に立たせてもらった。恥ずかしー。


「ヘルメツトなしでも大丈夫だったでしょ。でも無謀むぼうはダメ」

「すいませんでした」

「はい、よろしい。この通路は一方通行にします。連絡艇に戻る時はあちらの通路を使ってね。それと、あそこの扉がトイレです。適度に休憩を取りながら練習しなさい」

「がんばりまーす」



 私も通路に何回か手をつきながら壁にぶつからずに通り抜けられる位になり、私達が遊泳に満足した頃に集合の声がかる。


「皆さん宇宙での体の使い方に慣れましたね。少し休息してから艦内の説明をして回りましょう」

 ふいー。宇宙ってもっと楽に運動できるものだと思ってたけど、けっこう疲れた感じがするな。まだ慣れてないからりきみ過ぎてるのかな。


 びをしながら首をかしげていたら先生と目が合った。

「皆さんがけている皇国軍こうこくぐん標準宇宙服は、低重力環境での運動に合わせて体に負荷を掛ける仕様になっています。

 地上で運動した様な疲労感があるのは、その為です」

 なるほどねー。見た目以上に宇宙服って高機能なんだ。引っ付いたり、あと先生の一押いちおしオムツもあるし。



 私達は休憩を終えて戦艦の中を見学している。今いる区画の通路は、壁を走る取手とってつかんで移動する方式なので楽々だー。


「どこにでも便利な移動装置が配置されているとは限りません。この艦には装置の無い通路の方が多いですからね」

 ですよねー。


「この機関部は本艦に使われている構造体こうぞうたいの中で最も古い型式です。今では珍しい物も多いのでマニア垂涎すいぜんらしいですよ」

 楽した上に何だか知らないが貴重な経験にもなっていたとは、一目ひとめで二度おいしい見学コースだ。



 厳重な隔壁かくへきの最奥に、大型の装置がつらなって鎮座ちんざしていた。


「これが主機関の連続れんぞく物質ぶしつ転換てんかんです。国家機密のかたまりですので解説は難しいのですが見学は自由ですよ。偽装もほどこされていませんから」


 先生それは見ただけでは何もわからないって事じゃないですかね。今の私には、見るからに複雑そうな大きな機械としか言いようがない次第しだいです。


 この経験が将来の何時いつごろなんの役に立つのか、はたまた立たないままなのか、さっぱり見当けんとうがつかない私だった。

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