第2話「基地の見学」

 ピリリリーっと高い音がしたので検問所けんもんしょの方をくと先生が近づいて来るのが見えた。手に短いぼうを持っていた。

 その棒がられると白い布がヒラヒラいだした。四角いはたのようだ、黒い何かの模様もようがついている。


 旗に気を取られていたら先生が我々の目の前に立っていた。

「ようこそ皆さん。われは体験実習の引率いんそつ講師こうしつとめるミツホシです。では点呼てんこをとります『ピ』はい欠席なし」


 点呼は、実習を申し込んだ時に登録した個人名を端末どうしで照合しょうごうするだけなので一瞬いっしゅんで終わった。



先生せんせい、その旗の模様は何ですか?」

 三つの丸が三角の形にえがかれている単純な図柄ずがらだ。わざと唐突とうとつに質問したが、先生は笑顔えがおを向けてくれる。


「これは三つの星をあらわした紋様もんようです。我の名前であるミツホシと同じ意味なのですよ」

 どうも先生のお気に入りの紋らしい。予想以上に喜ばれてしまった。これで先生と呼んでね作戦さくせんは完了と。



「まず皆さんに約束します。これから体験する職場は軍隊ですが、皆さんを軍人のようあつかったり軍事ぐんじ教練きょうれんをする事もありません」


 今回の実習には船外活動など一定の訓練が義務付ぎむづけられている物も無いんだよな。文字通り宇宙を体験するのが実習の目的なのだそうだ。


「実習のしおりに暗号あんごう仕込しこんであったり、油断したところでち試験をしたり、罰として腕立うでたせや鞭打むちうちするなど絶対にありませんから安心してね」

 すいませんでした。ぜんぶ私の妄想もうそうでしたゆるしてちょー。



「次は皆さんへ質問です。送付した錠剤じょうざいは指示のとおりに飲みましたか?」

 先生は小さな箱を見せながら話している。あの薬が入っているのだろう。もちろん私はちゃんと飲んでるよ。


「ここに予備もあります。今からでも大丈夫だいじょうぶですから必ず服用ふくようすること。

 しおりの四コマ漫画は実例じつれいです!危険なので絶対マネしてはいけませんよ」

 体験実習とは言え、あんな事まで体験したくはないだろう。実習生は全員、錠剤を飲んでいた。冒険者はいないようだ。



 先生は腕を上げて旗を高くかかげた。

「では敷地しきちに入ります。検問は形式的な物ですので心配ありません。我について来なさい」


 サッサと検問を通った先生は向こうで旗を振っている。私達も後を追うが個人こじん認証にんしょうなどなかった。監視装置らしい物はあったが動いているかどうかもあやしい状態だ。


「ずいぶん以前から合理化ごうりかされているそうです」

 私の顔に出ていたのだろう、聞きもしないのに教えてくれた。これを合理化と言っていものか?と思ったが、誰も突っ込まなかった。



 私達は今、重量物を運ぶためだろう車輪が沢山たくさんついた大型台車に乗って移動している。

 広い荷台の部分にかこいとなが椅子いすが取り付けてあり、屋根も窓もないが見晴らしはいい。


「左手に見える建物が第1艦隊の基地です。ここで最も歴史がある最大の施設ですが、今は欠番けつばんあつかいで一部を倉庫として利用しているだけです」

 巨大でゴツイ箱を積み重ねた塔、と言うか山だ。


「先生、こんな大きな基地が使われてないのは何故なぜでしょう。これも合理化のせいですか?」

 聞きにくい質問を私が率先そっせんしているだけで皮肉ひにくではないぞ。もったいないとは思うけどね。


「その答えは実際に見た方が分かりやすいでしょう。

 次に姿を現したのが第2艦隊基地です。第1艦隊の倍近い規模きぼの艦隊を運営する為に造られたそうです」

 デカイ箱を積んでいる造りは同じだが、大きさは先ほどの半分もない。まだまだ大きな建物には違いないけど。



「この辺りから人工じんこうが見え始めるのですが、今はかすみが濃いですね。次は第3艦隊基地です」

 またさらに基地が小さくなった。あれれ?目線が高くなってきたような。


 先生が囲いから乗り出す勢いで、手にした旗で指し示す。

「基地の真上まうえあたりに注目!軌道きどう搬送塔エレベエタ目視もくしできます。

 この角度に虚像装置きょぞうそうちのすき間があるのですよ」


 どわわ、いつの間にか私達が乗っている荷台が上昇じょうしょうしているじゃないか。

 ちょっ、高いよ揺れてるよー。私は必死にさけんだ。

「先生!止めてー。怖わ!死ぬー」



 台車の速度が徐々じょじょに落ちて停車する、揺れも収まった。心臓に悪いわー。まだバクバクしてる。

「皆さんに謝罪します。我が不用意でした。高速こうそく昇降しょうこう台車だいしゃ挙動きょどう配慮はいりょした運用を約束します」


 先生がションボリしちゃったよ。皆はどんな感じかな、私は周りを見回した。・・・はいい?私が悪いのー、えー。


「ちょっと高い所が苦手にがてあわてただけなんです、もう平気です。もちろん先生を信頼してますよ安心してます。ほらほら、アレの解説を続けてくださいみんなも知りたいよねー」

 パチパチパチパチ全員で拍手はくしゅして盛り上げる。


「軌道に上がる際に利用しますが、保安上ほあんじょうの理由で外観は偽装ぎそうされています。ここで実物を楽しんでもらえたらうれしいです。

 これからも皆さんの意見を聞かせてね、い体験実習にしましょう」


 塔の中を大量の光の粒が登って行く風景はまぼろしで、現物げんぶつは黒っぽい網目あみめ模様のつつにしか見えない。かなり地味だった。



「では発進します」

 荷台の高さを下げてから台車が走り出した。ぐおっ!

「軌道に上がる時の加速はこんなものではないですよ。今から覚悟かくごを決めておいてね」


 先生、立ち直りが早いのはいいんですけど、安全運転でお願いしますよー。あれれ?皆は大丈夫なの・・・もしかして、私だけダメダメな子なのー。



 ついに基地は、大型の箱が数個だけという程度になった。

「我れら第15艦隊基地に到着です。艦隊の自動化が進んだ結果、必要な乗員や機材も物資も減りました。今はこれで十分なので、巨大な基地は需要じゅようが無いのです」


 私は第1艦隊基地の方に向かって黙祷もくとうした。何時いつか、あの超デカイ基地が役に立ちますように・・・。



 あれ、耳元で箱をシャカシャカ振るような音がしだした。

「気分が悪いのですか?ここにい止めが有りますよ」

 先生ってこのポーズが好きなのかな前にもこんな、いかんいかん見惚みとれてしまった。


「いえいえ、何でもないですよ」

 ほうけた分だけ返事がおくれてしまった。これは変に思われたに違いないぞ。

「はいくちを開けなさい。アーン」

 素敵すてきな先生のくちびるられたスキにピュンっと薬が飛び込んでくる、ごっくん。



「皆さん、こちらから基地に入ります。ここは認証作業がありますので指示にしたがうように」


 私は先生に魅了みりょうされたダケであって、決して薬にたよったのでは無いと断言だんげんする本当なんだよ!

 誰も聞いちゃいないだろうけど。


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