ようこそ我が艦隊へ!新入生の皆さん宇宙実習の時間ですよ

Azu Kian

第1話「体験しよう」

 私は体験たいけん実習じっしゅうに参加することにした。こんど宇宙うちゅう職能しょくのう学校がっこうかようので事前に準備しとくのだ。新生活がんばろー。



 一般いっぱん家庭かていで育った私にとって宇宙は縁遠えんどおい場所であり、本物の宇宙船に乗ったことが無いのも普通だった。


 でも、これからはちがう。それだとこまるかもしれない。私の将来しょうらいの職場が宇宙の何所どこかになる可能性かのうせいができたから。


 そして何よりライバル達に差をつけられたくないので、宇宙にれておく必要性ひつようせいも感じていた。


 そんな時に宇宙体験実習があると聞いて応募おうぼしない理由が無い。ササっと申し込んだら直近の実習 わくに入れた。

 これなら入学前に宇宙デビューできる。やったー。



 それで体験実習はどんな所で受けるのかな。宇宙 発電所はつでんしょとか総合そうごう研究けんきゅう衛星えいせいあとは軌道きどう管理局かんりきょくもありそうだ。


 どれどれえーと、皇家こうけ軍閥ぐんばつ?の宇宙 艦隊かんたい!だって・・・私、死んだかも。



 そして当日、私は絶対に遅れたりしないように早くから起きて準備し集合場所に向かった。


「二度と遅刻ちこくなど出来ないように根性こんじょうたたき直してやる。ウスノロは腕立うでたて100回!ビシバシ(むちでたたく音)」

 想像そうぞうするだけでこわすぎる。魔獣まじゅうみたいなムキムキの軍人にしごかれるなんて何としてもけなくては。



 皇家所有地の検問けんもんしょ前に着いた私はあたりを見回した。思っていたよりいい所だ。

 静かで緑が多いし、手入れされた公園のように清潔せいけつな感じだ。休憩きゅうけいに良さそうな屋根と長椅子ながいすもある。


「まだ誰も来てないな、さて集合時間までどうしよう」

 そうだアレを読み直そうかな。私は背負せおかばんの中から小さくてうすい本を取り出した。


「宇宙体験実習のしおり」という冊子さっしだ。うす茶色の紙に印刷されていて、小さく細い金具でじてある。


 見落としが命取りになるかもしれないので、もう何度も読んで暗記してしまいそうだけどねんを入れる。

 わざわざ軍が送ってきた冊子だ、秘密の暗号あんごうかくされているとか、もしかすると後で試験しけんがあるかもしれないし。



「あなたは、体験実習に参加する宇宙 職業しょくぎょう能力のうりょく養成ようせい学校の新入生ですね」

 顔を上げると、いつの間にか私の前に小柄こがらな人が立っていた。の光がまぶしくて相手がよく見えない。


「はい、そうです。どうして、それを」

 椅子から立ち上がると姿が見えやすくなった。小麦色の顔に短い金髪で、体にピッタリした感じの服装をしている。かなり細身に見える女の子だ。


「その冊子は、我々われわれが作成した物なのです。熱心に読んでもらえて感激かんげきです」


 自分の手元と、目の前の初々ういういしい笑顔に視線を行ったり来たりさせているとドキドキしてきた。


「えーと、このなかに『バナナは、おやつに入りません』とあるのですが、どういう意味でしょう?」

 しまったー。あせって変なこと聞いちゃったよー。


「そう書くのがなのだそうです。司令しれいの指示なので書き足したのですが、やはり消しておくべきでした。謝罪しゃざいします」

 真面目まじめに答えてくれたよー。変なヤツだと思われなかったみたいだ、いい子で助かった。そして悪いのは司令らしい。


「文句を言うつもりはなくて、あなたの所為せいでも無いと思うし気にしないで下さい」

 すると彼女は胸の前で手をぐっとにぎり、私の目を見つめる。

「いいえ、気にしないとダメなのです。他にも気が付いたことが有れば色々と教えてください。初めての実習で・・・」

 なんだか必死な様子が可愛かわいいよなー。私の心は浮き浮きし、口もなめらかになった。


「何でもしますよまかせて下さい。仕事熱心な人を応援したいですからね」

 彼女の目が大きく見開かれて、キラキラ輝いている。

「あなたの応援に期待しています」

 ほわわわーんと胸が熱くなるのが分かる。幸せだー。


「実のところ軍の事務じむいんさんって、もっと役人みたいな感じだと思ってましたー。前例とか計画を守るのがすべてみたいなー」

 それに比べて親身しんみになって考えてくれる、そのうえ可愛いキミは天使だよー。



「軍の事務員さん?」

 あれ気のせいかな、左右で目の色が変わったように見えたけど。彼女は姿勢を正して敬礼けいれいした。キリっとカッコいいー。


自己じこ紹介しょうかいが遅れたことを謝罪します」

 またあやまられてしまったー。私ってつみなヤツ?


われは、皇王家 特例とくれい第15軍閥、テイトク艦隊 所属しょぞく、副司令のコモン・ミツホシ准将じゅんしょうです。

 今回の宇宙体験実習では引率いんそつ講師こうしを担当します」


 副司令!准将?だってー。担任がマッチョな野郎じゃなかったのはラッキーだけど・・・私、恥死はずかしぬ。



 先生は私の勘違いを怒っていなかった。逆に何をあやまっているのか説明させられて困ったよ。その後も質問攻めだったけどね。

 そうそう、この時に相談して先生せんせいと呼ぶように決めたんだ。私が気安く先生と呼ぶのを他の実習生が見れば少しは安心するだろうし、先生に話しかけやすくなるはずだし。


「我々は特区の施策しさくで設立された軍事 受託じゅたく業者なのです。正規せいき軍ではありませんから、そんなに怖がる必要は無いのです」

 法律上はそうでも、実際に宇宙戦艦という大型兵器の暴力ぼうりょくを振り回してる軍隊に違いないわけで。


「私みたいな一般人は、軍の正規か正規かなんて気にしてませんよ。そんな理屈りくつをこねるより、先生は軍隊式の暴力 指導しどうなんてしないって事をっ先に知らせるべきですよ」

 私だけが軍人や宇宙艦隊なんて物を警戒けいかいしているならば、必要ない気づかいだろうけど。


「了解です。あなたの提案を採用して、実習生の不安や誤解を軽減する説明を最優先さいゆうせんとします」



 あれこれ話し込んでいるうちに集合時間が近くなってきた。

おおいに参考になりました。あなたの協力に感謝します。では後ほど、体験実習で会いましょうね」

 先生は恥し気に小さく手を振ってから、検問所の方に走り出した。うわ、足めちゃはやー。

 すいません勝手かってにドジっ子だと思ってました。



 私は長椅子から立ち上がり背伸せのびした。いい天気だな。

 あはは、これから宇宙に行くんだから地上が雨でも関係ないんだけど気持ちが晴れやかでウキウキするじゃないか。


「さーてと、楽しい宇宙体験になるといなー」

 そして私は、のんびりと集合場所の方に歩き出した。

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