第77話 スタンピード4
目の前にる不気味な男が笑う。
その姿はどこか現実味がない気薄さがあった。
「アリナリーゼさんお仲間ですか?」
「妾たちはべつに、徒党を組んでいるわけではない。だが、お主の言うところの意味では、そうじゃの……同じ雇い主ではあるかのう」
それはつまり。この男がローズこと、シャーロット王女の暗殺を企てる者からの刺客だとうことを指す。
これまで何度も差し向けられその都度、打ち倒してきただが。
まだ、完全には諦めてはいなかったようだ。
しかし、今度の襲撃は今までとは違い、迷宮都市を巻き込んだ大規模なものである。
いよいよもって、シャーロット王女の腹違いの姉である依頼主も本気なのかもしれない。
「……なるほど、それは逃がすわけにいきませんね」
『 彼を知り己を知れば百戦
ますはそう、ステータスウィンドウさんかもん!
名前:アンドル・コロネーネ
性別:男
種族:
ジョブ: ――
レベル:24
HP:247
MP:493
STR:155
VIT:0
INT:295
DEX:115
AGI:268
ざっとステータスを眺めてみて、それほど強敵でもないように思える。
これがゲームであれば、まず負けはしないだろう。
だからといって、油断していてはどこで足元を掬われるかわからない。
ここは異世界とはいえ、生死が現実として存在する世界なのだから。
ただ、ステータスは脅威じゃないにしても、一つ気になる部分は種族に書かれている。
『種族:
今までやっていたゲームでは、毒や呪いのデバフを与えてくるモンスターの定番だった。
それもステータスの壁を越えて直接的にドットダメージを与えてくるものや、ステータスの大幅低下など厄介な
もしかしたら、この世界でもあるのかもしれない。
なるべく、直接ダメージは避けたほうがいいだろう。
「
なにげなく発したやまださんの言葉に、アリナリーゼさんが目を見開く。
そして、開いた目を細くして、
「ほう……遠目からだけでも、わかるのかえ?」
と、少し驚きの色がのった声で答えた。
「ええ、このくらいであれば多少」
などと、偉そうに言ってのけたが、まったくの大嘘である。
ステータスウィンドウさんに、書いてあったからわかっただけで。
肉眼では多少不気味な感じの男としてしか、映ってはいなかった。
しかし、あえて言う必要もないので飲み込むことにした。
やまださんのミステリーさが際立って、少しかっこよさが増した気がする。
「ふんっ。あれは、不死を望んだ者の成れの果てじゃ」
酷くつまらなそうに、言葉を吐き捨てるアリナリーゼさん。
アンデットに対してなにか思うところでもあるのだろうか。
しかし、我々の空気とは他所に、
「くうっあっははは……我が恐ろしいか! 無理もない高位アンデッドを目にする機会などそうそうあるものではないからなぁっ! 存分に恐れ、慄くがいい!!」
両手を大きく広げ、自信満々に叫ぶアンドルさん。
悲しいかな、ステータスには
きっと、自己評価がものすごく高い人なのだろう。
「……こいつは阿呆なのか? なぁ、お主の目にはあやつが高位アンデッドなどと大層な者に見えるか?」
「さっきも言ったように、
「うむ、安心した。一瞬、妾の目が曇ったのかと思ったわ」
「あと、アリナリーゼさん。先日、お受けした依頼は無事に済みました」
「お、おおう……この間で言うことかえ? お主も大概肝が据わっておるわ。まぁ、よいわ後で詳しく聞くとするかのう」
と言い終えたアリナリーゼさんの目が鋭くなる。
ピリピリと肌を刺激する空気感、これは漫画やアニメなどでよく耳にする。
有名なアレ、つまるところの殺気というやつなのだろうか。
ついにやまださんも、殺気を感じることが出来るようになっちゃたのか。
「さて、こやつの相手は妾がしてもええかえ? お主に負けて以来、体が鈍ってしかたない」
どんな気の回しかわからないが、戦いを買って出てくれるようだ。
それならばそれで、全力で乗っかってしまおうじゃないの。
だって、アンデットを切りつけたりした日には、すごく臭い液体とかが飛び散ったりするはず。間違いないって。
「いいのですか?」
「こんな不細工に出来上がったアンデットなど、妾の敵ではないわっ!」
白々しく答えるやまださんに対して、自信満々のアリナリーゼさん。
以前戦ったときに見たステータスは確か、32レベルだった。
23レベルのアンドルさんとは、大きな差があるように思える。
であれば、安心して観戦ができるのではないだろうか。
となれば、頑張れ、幼女! ぶっ飛ばせ! この世界の幼女は飛ぶんだぜ。 (※47話参照)
「くっくく……その小娘が相手か。不死の王、自らの手にかかって死ぬことを光栄に思うがよいわ! くあっ、はっははは――」
大物感を演出するアンドルさん、悲しいかなステータスが丸見えなんです。ごめんなさい。
そして、さりげなく不死の王に格上げするあたり、小物臭が最高にエモいです。
「ふんっ、ぬかせ木っ端が」
地面を蹴って飛びだすアリナリーゼさん。
傍から見るその速度は、幼女の姿も相まって何かの冗談かと思うほどだ。
「くっ、なんという早さだ! ならば、これでも喰らうがいい」
驚きを隠せないアンドルさんが、大げさに手を振るう。
すると足元にあった影が大きく膨らみ、まるで液体のように蠢いたかと思うと、その中から幾つもの分裂した影が迎え撃たんと放たれる。
しかし、悲しいかな。それはアリナリーゼさんの体を捕らえることはなかった。
「ずいぶんと、ゆっくりな攻撃じゃのう」
アンドルさんの後ろに立つ、アリナリーゼさんが言い捨てる。
その手には、千切りとられた腕が握られていた。
切り口からはドス黒い液体が滴る。きっと臭いやつ。
「なっ……なんだと!?」
驚くのも無理がない。影を操るために手を振るい終えたときにはもう、アリナリーゼさんは背後に立っていたのだから。
力量差は完全に大人と子ども、見た目は真逆なのだけれど。
「くっ……だが、我はアンデッド。腕の一本くらいなど、どうということもないわ!」
振り返ったアンドルさんが吠える。
足元の影が蠢き、先ほどよりも数の増えた影がアリナリーゼさんを襲った。
しかし、アリナリーゼさんは余裕の顔で、
「ふん」
千切りとった腕を後ろへ投げ捨て、地面を蹴る。
飛びあがった小さな体をフィギュア選手さながらくるりと回転させ、思わず見とれてしまうほどの見事な回し蹴りを影へ放った。
巻きあがる風が肌を撫で、襲いかかった影を霧散させる。
「なんだと……不死王の黒き腕が、ただの蹴りで消滅させるなど有り得んっ!!」
さっきの技は大層な名前がついていたらしい。
なるほど、アンドルさんは名前にもこだわりを持つ人物のようだ。
「名前負けも甚だしい技じゃのう、これならまだ殴りつけたほうがマシだわ」
終始、圧倒的な実力差を見せつけられたアンドルさんはジリジリと後ろへ下がる。
深く被ったフードでその顔は窺い知れないが、きっと驚愕の色に染まっていることだろう。
「なっ……なぜだっ!! それほどの力を持ちながら、我々を裏切る!!」
「元より、仲間になった覚えはない。それに受けた仕事はキッチリ果たした……もっとも、そこの男に完膚なきまでに返り討ちにあったがのう」
愉快そうに笑うアリナリーゼさん。
「くっ……!!」
それを受けて、また一歩下がるアンドルさん。
「さて、戯れも終わりじゃ」
と、言い終えたアリナリーゼさんの姿がブレる。
次の瞬間、振るわれた腕によってアンドルさんの頭部がドス黒い液体をぶちまけて弾けた。
「むっ……しまった。証人を殺してもうたわ」
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