第45話 ローズのお願い6
「ば、化け物かよ……」
俺達を囲む傭兵団リーダー、ケロノアが驚愕の表情で言葉を漏らす。
自身もまさか、空振りをした衝撃で、こんな溝が出来るとは思ってもいなかった。
しかし、これは好機かもしれない。
驚き固まったケロノアの腹部に向けて、戦斧の柄を打ち込む。
隙だらけだったせいか、すんなりと命中する。
ドゴッと、鈍い音を立ててケロノアは、錐揉みしながら吹き飛んでいった。
10数メートルは、飛んでいったんじゃないだろうか。
それを見た、他の団員が後ずさる。
リーダーがいとも簡単に倒されるのを目の当たりにして。自分達では勝てないと、判断でもしたのだろうか。誰も彼もが、ひどく引き攣った顔だ。
もう一押しと、いったところ。
適当な方向へ向けて、もう一度、戦斧を振るう。
刃が風を斬り、その衝撃波が地面を大きく抉りとる。
そして、先程と同じように、溝が地面に生まれた。
「実力の差は、明らかだっ! 退けば、手出しはしない。それでも、やると言うのであれば、容赦はしないぞ!」
と、大声でハッタリを一つ。
どうだ……、これで退いてくれないかな。
チラリ、様子を伺えば団員同士、顔を見合わせている。
すると、ここで声があがった。
「ひ、退くぞ! た、退却だっ」
鶴の一声、誰かがそう叫ぶと、一斉に傭兵団は走りだす。
かくして、傭兵団は脱兎のごとく、視界から消えていった。
その様子を見て、ローズ達が俺の元へ近寄ってきた。
「さ、さすがは、私が見込んだ男ねっ!」
と、ローズさん。
一体いつ、見込まれてしまったのだろうか。
「ご主人様、ご無事ですか?」
「ああ、この通り何ともないよ、クリスティーナ」
「あれだけの人数をほぼ無傷で、撃退してしまうとは……さすがです、ヤマダ様」
クレアさんからも、お褒めの言葉を頂戴してしまった。
心なしか、見つめる目がキラキラとしている。
もしかして、好感度上昇のお知らせだろうか。
「ローズさん、これが言っていた
「ええ、間違いないわっ。お姉様からの刺客よ」
やはり、姉からの刺客との事。
しかし、アレだ。毎度、撃退するにも限度がある。
根本的に、解決するべきなのではないのかと思う。
異母とはいえ、血を分けた姉妹だ。その辺、話し合って円満解決できないのかな。
「話し合いで、解決しないものなのですか?」
「そんなのはムリよっ、だって証拠がないのだもの。問い詰めたところで、シラをきられるに決まっているわ」
その様子をみるに、どうやら一筋縄ではいかない人物のようである。
しかし、証拠ねぇ……証拠っと……、あったわ。
「証拠なら……、あそこに転がっていますよ」
俺が指した先に、傭兵団リーダーが泡を吹いて転がっている。
どうやら、逃げる際に置いていかれたらしい。
可哀想なケロノアさん、団員の人望はそこまで厚くなかったようだ。
失神していたケロノアに、クリスティーナが回復魔法をかける。
もちろん、登山用ロープで簀巻きにすることを忘れない。
「へぇ、クリスティーナ。回復魔法使えたのね、すごいじゃない」
その様子を見て、ローズがそんな事を言っていた。
もしかしたら、回復魔法を使える術者は少ないのだろうか。
ややあって、ケロノアの意識が戻る。
「うっ……」
さて、これから尋問をして証言を得なければいけない。
相手は仮にも、傭兵団のリーダーだ。
果たして、そう簡単に口を割ってくれるのだろうか。
「雇い主を答えなさい。素直に答えるなら、生かしておいてあげるわっ」
目覚めて早々、ローズが問い詰める。
おう、答えなきゃ殺しちゃうのかよ。
ちょっと物騒ですよ、ローズさん。
「……答えたところで、どの道殺される」
口封じってやつだな、きっと。
海外ドラマとか映画で、よく見るじゃんね。
「殺しはしないわっ、だって大事な証言者だもの」
確かに、ケロノアは大事な証言者だ。
ここで、証言を得るのと、得ないのでは結果は大きく違ってくる。
なにせ、村まるごと一つ使って、罠にはめようとしてくる相手だ。
証拠の一つでもなければ、相手にされないだろう。
と、ここで。
ある物が、目に映る。
ケロノアのすぐ横に、キラッと光るコインのようだ。
ポケットからでも、落としてしまったのだろうか。
拾い上げてみると、金貨みたい。
だけど、俺が持っている大金貨よりも、一回り小さいな。
しかし、そこに彫られた意匠は凝っていて、中々の一品だ。量産品の雰囲気ではない。
俺が持つコインに気がついたのか、ローズが声をあげる。
「そ、それは……、ちょっと、見せてもらえるかしらっ?」
コインを渡し、それを持ったローズが、
「っ……!」
驚きの表情から、確信めいた表情へと変る。
「こ、これよ! これが証拠になるわっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます