第46話 儀礼金貨

 ローズさんが叫んだところによると、この金貨は証拠になるらしい。


 金貨って、それなりの量が出回っていそうだけど、その辺どうなんだろうか。



「この金貨が証拠になるんですか?」



 と、素直に聞いてみることに。



「ええ、この金貨は普通の物とは違うのよっ」



 普通の金貨が、わからないやまだにはサッパリだ。



「すみせん、異国の出で。普通の金貨すらよくわかっていなのですが、

そこから教えてもらえませんか?」



「ええ、そうねっ。この国で流通してる通貨はわかるかしら?」



「ええ、そこまでは。確か、銅貨、銀貨、金貨、大金貨の四つですよね」



「さすがは博識ね、その通りだわっ」



 おう、褒められちゃったぞ。

しかし、その褒め方はちょっとムリがあると思うんだ。


 園児がオモチャを片付けをしたときに、「よくできましたね、えらいえらい」みたいな、シンパシー的なものを感じてしまう。



「普通、こちらの事を言うわ」



 腰につけていた皮袋から、もう一枚金貨とりだして見せる。


 右手には、落ちていた金貨。左手には、皮袋からとりだした金貨という感じ。


 遠目にも違いは、一目瞭然だ。


 意匠された模様が、全然違う。


 普通の金貨と呼ばれた方は、国旗のような模様に対して、さきほど拾った金貨は、王家の紋様をあしらったような手の込んだものだ。


 どちらが高価かと聞かれたら、間違いなく拾ったほうだろう。



「こっちは、あまり知られていないのだけれど。王家が発行した儀礼通貨よ」



 なんだ、新ワードがでてきた。


 儀礼と聞いて思いつくのは、どこだかの部族が、成人の儀式でやるバンジージャンプくらいだ。



「儀礼通貨ですか、それは一体どのような物ですか?」



「一般的に流通している金貨は、通貨院が発行しているのに対して、儀礼通貨は王家が発行しているのよ」



 ああ、アレか。


 日本でも、通貨は政府が発行しているわけじゃない。

発行元は、日本銀行だ。こちらも、似たような構造をしているのだろう。


 権力の一極集中をさけるとか、なんとか。



「なるほど、もしかして、その金貨は限られた・・・・者しか持っていないのでは?」



 思いついたままに、口にするとローズはハッと、いった驚きの表情を浮かべる。


 どうやら、正解らしい。



「本当にすごいわ……その通りよ。ただ一つ、言えば、この儀礼通貨はお姉様しか・・・・・持っていないものだわっ」



「というと?」



「これは、儀礼金貨と名前がついている通り、王家の儀式を記念して発行されるものなの。

そして、儀式ごとに刻まれる模様が一つ、一つ違うのよ。

この刻まれている模様は、お姉様の成人を記念して作られたもの。

だったら、すべての金貨は、お姉様に渡されているはずだわっ」



 儀礼金貨は元々、流通するものではないが、それでもまったくないわけじゃない。


 しかし、ローズの姉が成人したときに作られたこの金貨に限っては、発行された全ての金貨をローズの姉が持っていると。


 だとすれば、出回っていないはず・・の、この金貨を傭兵団が持っていたことで、その依頼主がローズの姉である証拠になるとローズは言いたいらしい。


 ここで、傭兵団リーダーである、ケロノアに振り向く。



「と言ってますが、まだ黙秘を続けますか?」



 見るに、もう既に観念した様子。



「わ、わかった……全て話す」



 と、言うとケロノアは知っていること全てを語りだした。


 その話をまとめると、こうだ。


 直接依頼にきたのは貴族の男。


 その男は、依頼内容と前金である金貨を置いていった。

金額は、金貨にして100枚だったらしい。


 ちなみに、ローズの素性は教えられていなかったようだ。


 チョロイ仕事のつもりで来てみれば、結果はこの通り、依頼は失敗に終わり、捕まって大罪人の出来上がりというわけだ。



「もしかして、その依頼に来た男というのは、左頬に火傷の跡があったのではないかしら?」



「ああ、確かに火傷の跡が……」



 ケロノアは、言葉を言い切ることはなかった。


 ポロリと、落ちた。


 それが、最初の感想だ。


 ケロノアの首に赤い線が走ったかと思ったら、その首は地面に落ちた。


 本来、首があった場所から、噴水のように血が飛び散る。



「依頼を失敗した挙句、依頼主の情報まで喋ってしまうとは、

こやつにはプロ意識と言うものが、ないのかのう……」



 咄嗟に身構えて、声の聞こえた方向へ向く。


 すると、そこには――

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