第44話 ローズのお願い5
「シャーロット王女。アンタには恨みはねぇが、ここで死んでもらうぜ」
リーダーらしき男が、腰の剣を引き抜く。
それに応じて、周りを取り囲む男達も武器を構える。
しかし、これだけの人数を用意するとは、どれだけ、ローズに消えてもらいたいと思っているんだろう。
ちょっとだけ、特権階級の闇を覗いた気分。
兎にも角にも、ステータスだ、ステータス。
相手のレベル次第では、逃げることも考えないといけない。
名前:ケロノア
種族:人間
性別:男
ジョブ:傭兵団リーダー
レベル:18
HP:265
MP:81
STR:74
VIT:88
INT:36
DEX:44
AGI:67
リーダーっぽい男のステータスを表示させる。
見れば、冒険者ギルドで戦った『黒鷹』と、あまり変らない。
さっと、他の男達も流し見たが、どれも似たり寄ったり。
リーダーよりも、高レベルは見当たらなかった。
で、自身はどうなのよ、とステータスの再確認だ。
名前:ヤマダ タケシ
種族:人間
性別:男
ジョブ:冒険者
レベル:40
HP:1020
MP:854
STR:330
VIT:340
INT:315
DEX:290
AGI:425
ストックHP:10
スキルポイント:20
おお、ついにHPが4桁に。
しかも、レベル40になってスキルの大幅上昇している気がするぞ。
もしかすると、このレベル40は一種の節目なのかもしれないな。
拡張パックで、レベルキャップが開放! 大幅ステータスアップ!
みたいなのってあるじゃんね。
よし、これで情報は揃った。
目の前の敵に、意識を集中させよう。
(クリスティーナ、ローズとクレアさんを頼む)
(は、はい、わかりましたっ!)
これだけいれば、とり逃がしも有り得る。
後衛にクリスティーナがいれば、万が一の事故にも対応できるはずだ。
アイテムパックから、『始まりの剣』と言う名のバットを取り出して構える。
「おいおい、兄ちゃん。これだけの人数を前にしてやる気かよ?」
ニヤリと笑いながら、 ケロノアが言う。
強面がそうやるのだから、ちょっと迫力がある。
「何事も、やってみないとわかりませんよ」
何気ない会話でも、ジリジリと距離を詰めてくる様が、場慣れを感じさせる。
鎧の上からもわかる屈強な筋肉。それに、着込んでいる鎧にも、細かな傷がついており、醸しだす雰囲気は歴戦の戦士のそれ。
だからと言って、負けるわけにはいかない。
俺が負けてしまえば、クリスティーナやローズのステータスでは、太刀打ちできないはずだ。
その後の事を考えれば……いや、考えたくないな。
今、絶対に守るって、覚悟を決めただろ。
と、思ったところで、バットが光輝き始める。
あまりの眩しさに、思わず、手放してしまいそうになるほど。
ピッ。
『実績が解除されました。』
ピッ。
『一部、制限解除。形態が変化します。』
と、ログが流れたかと思うのも束の間。
バットから、片刃の戦斧へと形が変化する。
おう、マジか。
【始まりの剣:Lv2】
持ち主と共に、成長する武器。
その姿は、持ち主の望む姿へと変える。
ステータスに10%アップの補正。
何が、どうなってしまったのかはわからないが、パワーアップしてしまったマイウェポン。
とりあえずアレだ、考えるのは後にしよう。
「チッ、魔導具持ちか……」
バットの変化を見て、あからさまに警戒を強める ケロノア。
その仲間達も同じように、警戒をしているようだ。
よし、まずは殴ってみるか。
囲まれた場合、そのボスを倒してしまえば、何とかなるって偉い人が言ってた気がする。
俺が知っている主人公達は、そうやって危機を乗り越えてきた。
全力でいけば、きっと、何とかなるって。
戦斧を握り直して、ケロノアめがけて全力で走る。
踏み込んだ地面が大きく抉れ、土埃が立ちあがった。
おう、おう。マジか、マジか。
想像以上のスピードに焦り、急ブレーキだ。
このままでは、距離を詰めるどころの話ではない、そのまま通り過ぎてしまう。
ブレーキをかけた右足が、地面にめり込む。
ケロノアは、このスピードに驚愕の表情だ。
当然だ、俺も驚いている。
せっかくなので、そのまま戦斧を振上げると、ブォンと豪快に風を切る音が鳴った。
しまった……!
完全に目測を誤ってしまったようだ。
振った戦斧は、ケロノアに当たることはなく虚しく空を斬り、そして衝撃波を生む――
それは、地面を大きく抉った。
幅3メートル、長さ10メートルくらいの溝だ。
その溝を見て、ケロノアは顔を青くする。
「ば、化け物かよ……」
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