第34話 境界の回廊6

 玉座に鎮座する兜のない・・・・甲冑。


 本来であれば、頭部にあるはずの兜は、左腕に抱えられている。


 わざわざこんな広間に、それもさも意味ありげに鎮座しているのだから。


 間違いなく、ボスだろう。


 じゃなくても、それに準じたキーキャラクターに違いない。



【】

種族:デュラハン

性別:男

ジョブ:ダンジョンマスター

レベル:31

HP:977

MP:125

STR:195

VIT:325

INT:95

DEX:110

AGI:85



 ステータスを確認してみれば、まさにボスの貫禄。

まだ数値的に勝っているが、俺のステータスにも迫る勢いだ。



「クリスティーナ、あれがダンジョンマスターだ。

どんな攻撃が来るかわからない、十二分に注意をしてくれ」



「これが、ダンジョンマスター……、わ、わかりましたっ」



「今まで通り、俺が前衛で戦うから。何かあればフォローを頼む」



「あっ、ご主人様。戦いの前に、祝福を」



 祝福……?


 戦いの前と言うからには、バフみたいなものだろうか。

あるじゃんね一定時間、耐久をあげるみたいなやつ。


 などと、考えていると。


 詠唱を始めた、クリスティーナの体が光輝き始める。


 前にも見たことがある、神聖魔法の輝きだ。

しかし、以前これを使ったときは、クリスティーナ自身が成仏しかけた。


 なのに、使っちゃっても大丈夫なのだろうか。


 今からボス戦ですよ、 クリスティーナさん。



戦神の祝福バトル・ブレス



 詠唱が終えると、赤く淡い光が俺を包む。

それと同時に、腹の底から力が湧いてくるような、高揚感を感じる。



戦神の祝福バトル・ブレス


 戦いに赴く者に、女神からの祝福を。

一時間の間、ステータスを10%アップの効果。



 ステータスを確認すれば、思っていた通り強化系のバフだ。


 しかも、中々と心強い効果じゃないか。


 ステータス数値の低いときは心もとないパーセント増加も、

数値自体が大きくなればなるほど、その振れ幅も大きくなるからな。


 フルスイングと合わせれば、なんと当社比20%の増加だ。

それ単体で、キャンペーンなんか開いちゃうレベルだろ。


 そして、クリスティーナの方を確認してみれば、


 今回は、以前のように消えかかっていない。



「クリスティーナ、神聖魔法なんて使っちゃっても、大丈夫なのか?」



「はいっ、気をしっかり持てば大丈夫みたいですっ」



 と、元気いっぱいに答えるクリスティーナさん。


 なに、その根性論は。

練習中は、水を飲むな的な、体育会のノリを感じてしまうぞ。


 まぁ、大丈夫ならそれに越したことはないな。うん。



 さてと、準備が終えたところで。


 ダンジョンマスターである、デュラハンへ。


 数歩ほど進んだところで、反応が見えた。


 玉座の傍に置かれていた、刃の厚い大剣を右手で握ると、デュラハンは、甲冑が擦れる金属音と共に、玉座を立ち上がった。


 座っている姿では、わからなかったが、二メートルはありそうな巨躯。



『よく、ここまで辿り着いた、ぷれいやー・・・・・よ』



 重低音の効いた、よく響く声。

一体、どこから声をだしているのか、気にならなくもないが。


 それにしても、ぷれいやー・・・・・……!?


 もちろん、プレイヤーの事だと思うが。


 少しばかり、その言い方に違和感を感じてしまう。

ロールプレイをしている、そんな感じの。


 しかし、喋る魔物は初めての予感。

いや、擬態の魔物も喋ってはいたけど、あれはリピート再生みたいなものだし。


 コミュニケーションが出来るって、意味では初めてだ。


 ならば、少しばかり質問を投げかけてみてもいいだろう。



「ちょっと、聞きたいが。冒険者ではなく、ぷれいやー・・・・・と呼ぶのは何故だ?」



 直球勝負で、どうだ。



『ぷれいやーは、ぷれいやーだ。それ以外に呼び方を知らぬ』



 おうふ、全然答えになってない。

しかも、えっ何を言ってんだコイツみたいな雰囲気。



 ……まぁ、いい。

ダンジョンを攻略していけば、きっと何かしらわかるだろう。


 今は、目の前の戦闘に集中しよう。



『さぁ、こい。ぷれいやーよ、見事、我を倒して見せよ』



 そう言い終えると、デュラハンは大剣を軽々と構えてみせる。


 そして、左腕に抱えられた兜の目が赤い光を放つ――



 どうやら、準備完了のお知らせだ。


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