第25話 送還2

『残り時間がなくなりました。これより、送還を開始します――』



『3……2……1……』



 ピッ。




 ログが流れ、アナウンスされた通りに元の世界、あの公園の隅に戻っていた。


 目の前にあるダンジョンの入り口は、未だ消えておらず、送還された理由に到ってはさっぱりわからない。


 視覚にマスクされたステータス表示も、当初のままのように思える。


 ……いや、変ったことが、一つだけあった。



 【境界の回廊】 

 

 難易度: ☆☆

 

 推奨レベル: レベル15~


 クリア報酬: 550ポイント


 残り時間: 112:55:11



  残り受付・・時間が、残り時間に変っていること。



「ご、ご主人様。これは、一体……?」



 振り返れば、クリスティーナの姿見えた。


 どうやら、一緒に戻されたようだ。


 正直、わけがわからない。

だからといって、考えるのをやめて放置するのは、いささか抵抗がある。



「……俺にも、どうして戻ってきたのか見当がつかない」


 本音、まるっと、そのままお伝えする。



 俺が持つ、常識で考えてはダメな気がする。


 ここはもっと、ゲーム的な思考で考えてみればどうだ。

ステータスにマップ、レベルなんてものは、まるでゲームそのものじゃないか。

だとすれば、そう考えるほうが正解な気がする。


 そして、自分が行なったことを順に思い出してみる。


 すると、一つの考えが浮かびあがった。



「クリスティーナ、ちょっと確認したいことがある」



 リュックに入ったクリスティーナを背負い、向かった先は【始まりの洞窟RE】があった場所。


 俺が考えていた通り、その洞窟ダンジョンは完全に消えていた。


 入り口があった場所は、なんの変哲もないビルの壁。


 さわってみても、見たまんまコンクリートの冷たい感触が伝わってくる。


 なるほど……これは、わかってしまったかもしれない。


 洞窟ダンジョンに表示されている残り時間とは、そのまま洞窟ダンジョンがこちらの世界に存在しづつけていられる時間を表している。


 つまり、その時間がゼロになると、洞窟ダンジョンその物がこの世界から消えてしまい、そこを通って異世界に行った俺達もまた、強制的に元の世界へと戻されてしまうのではないだろうか。


 そして、残り受付時間は文字通りに受けとれば、洞窟ダンジョン攻略開始までの猶予だと思う。

クリスティーナが一緒に戻されたことも、システム的にパーティーを組んだ状態になっているのかもしれない。


 何がトリガーで、パーティーメンバーになるかはわからないが。

まぁ、その辺はふわっとしてても良い気がする。


 直接的な害は、なさそうだしな。


 真相はわからないけど、物証が足りない今の状況で考え続けたところで。

俺の頭では、これ以上の仮説が思いつくとも思えない。


 とりあえずは、アレだ。帰るか。


 レベルアップでその都度、体力は全快になってはいるが。


 丸一日以上、動きっぱなしある。


 精神的に、休息がほしいところだ。


 帰る途中、俺が考えついた仮説をクリスティーナに説明する。


 もちろん、洞窟ダンジョンのステータスについてもだ。

共に行動する以上、共有しておきたい情報である。



「さすがはご主人様。洞窟ダンジョンの情報まで読み取れるのですねっ」



 と、感心をしていたのだから。


 きっと、俺の説明を理解してくれたことだろう。


 などと、説明も終えた頃。


 我が家が見えてきた、築35年の日本家屋。


 もちろんこれは、俺の持ち物ではない。

厳密に言えば、祖母の所有物である。


 いい歳なっても、未だフリーターをしている俺に、管理を任せられているのだ。

簡単にいえば、いい加減に実家から自立して世間の風を知れとのこと。


 これは年末の親族会議で決まったのだが、俺に拒否権なんてなかった。

まぁ、家賃なしで住めるのだから、文句はないのだけど。


 ただ、その中でも一番心配してくれていた叔父さ……もとい、よしえさんが親戚会議の場まで、女装で来たことが一番の心配だった。


 フリーターの甥っ子に心配されるって、どうなのよ。



 鍵を開けて、いつも使っている部屋へ。


 リュックを降ろすと、中からクリスティーナ出てきた。



「ここが、ご主人様の家……」



「何もないけど、くつろいでくれ」



 ここで一つ、思い出す。



「そうだ、これ渡すのを忘れていた」



 そうそう、これだ。


 アイテムパックから、ある物を取り出してクリスティーナの首に巻く。



「これは……ご主人様?」



 俺がクリスティーナの首に巻いたのは、屋台で買ったピンク色のリボンだ。


 決して、高価なものではないけれど、

その可愛らしさに、ついつい買ってしまったものだ。


 それにもし、他のスケルトンに出くわしたときも、これがあれば一目で見分けがつくと思うんだ。



「クリスティーナには世話になったからな、プレゼントだよ」



「あ、ありがとうございます……ずっと、大切にします」



 巻かれたリボンを、まるで宝物のように触れるクリスティーナ。


 すると、突然クリスティーナが輝きだす――


 眩いほどの光を放ったかと思うと、


 スケルトンだったはずの、クリスティーナが元の姿、


 聖女・・様の姿に戻っていた。

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