第24話 送還

 クリスティーナの姿を見て、気を失った冒険者は獣人の少女だった。


 それにもめげず、回復魔法を施すクリスティーナさん。


 マジ、聖女。


 そして、倒れた獣人の少女。


 見たところ、十代半といった感じ。

青色の髪が顔を隠して、よくわからないが、美形を思わせる雰囲気だ。


 身に着けている装備は、冒険者のそれだけど。

ローズ達が身に着けていた物に比べると、お世辞にも上等な物だとは思えない。


 どういった経緯で、この少女がトレインを引き起こしたかはわからないが。

まぁ、起きてから聞いてみればわかるだろう。



 しかし、このファイアーウォールは、いつ消えるんだろうな。


 かれこれ、数分はゴウゴウと燃え続けている。


 あげた手も、そろそろダルくなってきたので、地面に座り消えるのを待っている状態だ。


 

「んっ……」



「ご、ご主人様、意識が戻ったようですっ」



 さすが、聖女様印の回復魔法である、その効果は抜群のようだ。



「ここは……はっ、トレインは、トレインはどうなったニャ」



 あたりを忙しなく、キョロキョロと見わたす獣人の少女。


 語尾からして、彼女はきっと猫系の獣人なのだろう。

もし、これで犬の獣人だったりしたら、やるせない気持ちで一杯になってしまう。



「もう大丈夫ですよ、トレインは、ご主人様の魔法で防ぎましたから、案心してください」



 と、優しく微笑んで語りかけるクリスティーナ。


 骸骨に表情なんてないんだけれど、きっと微笑んでいるはず。



「ひっ、ひっ……スケルトン!?」



 クリスティーナを見た、少女の顔が真っ青に染まる。



「だ、大丈夫だ。クリスティーナ……いや、このスケルトンは良い・・スケルトンだからっ」



 クリスティーナ、ごめん。


 出会って当初は、「良い・・スケルトン」を、バカにしてしまったけれど。

俺もついに、使ってしまったよ。


 良い・・スケルトンだからって。



「ほ、本当かニャ? 襲ったりしないかニャ?」



「ええ、襲ったりしませんよ」



 優しく答える、クリスティーナ。



「これは、油断させる罠かニャ? 後で、奴隷商に売り渡す気じゃないかニャ?」



「いいえ、罠ではありませんし。それに売ったりもしないから、大丈夫ですよ」



「……わかったニャ」



 少しの不安を残しつつも、納得した様子の少女。


 「良い・・スケルトン」で、納得してしまったのだろうか。


 自分で言っておいてアレなんだけど。

初対面で信じてしまうのは、それはそれで、どうなのよと思わなくもない。



「助けてくれて、ありがとうニャ。わたしは、エルザニャ」



「俺はヤマダで、こっちはクリスティーナだ」



「よろしくね、エルザさん」



「しかし、アレはなんニャ?」



 エルザが、ファイアーウォールを指さす。



「あんな魔法、初めて見たニャ。ずっと、燃えてるけど大丈夫かニャ?」



 どうなんだろうね、いつ消えるのか俺も知りたい。

というか、そろそろ消えてほしい。



 そして、ファイアーウォールを見つめること数分。


 ようやく、その炎は勢いを弱め、徐々に消え始めた。


 あれだけいた魔物は見る影もなく、残っているものがあるとすれば消し炭だけだ。



「それにしても、何でトレインなんか起こしたんだ?」



 俺の質問に、エルザは今までピンと、立たせていた耳を前に倒す。



「それは聞くも涙、語るも涙の話ニャ……」



 エルザの話を、簡単にまとめるとこうだ。


 仲間とダンジョンを探索している途中、誤ってゴブリンの巣に入ってしまったエリザ一行は、その場から逃げだしたはいいが、大量のゴブリンに追われることになった。


 そこからは良くある話。


 仲間から見捨てられたエルザは、追ってくる大量のゴブリンから一人逃げることに。

結果、あのトレイン騒ぎとなったわけだ。


 聞けば、ゴブリンの巣に入った原因はエルザにあったらしい。

なんとなく情景が思い浮かぶのは、なんでだろうな。



「でも、本当に助かったニャ。わたしが死なずに済んだのも、ヤマダ達のおかげニャ」




「旅は道ずれ世は情けって言うし、気にするな」



「よくわからニャいが、猫人族は、受けた必ず恩は返すニャ。迷宮都市に泊まるなら、ウチの宿に泊まるといいニャ」



「宿?」



「そうニャ、『猫のマタタビ亭』は迷宮都市でも一番の宿屋ニャッ! 自慢の料理、猫マンマを味わってほしいニャ」



「そうだな、泊まらせてもらうか……」



 と、言いかけたときだった。



 ふいに、ログが流れだす――



『残り時間がなくなりました。これより、送還を開始します――』



『3……2……1……』



 ピッ。




 意識は暗転し、気がつけば元の世界、あの公園の隅に戻っていた。

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