第15話 迷宮都市

 お礼をしたいと言うローズの提案で、連れだってダンジョンから出ることになった。


 というのも、冒険者ギルドは銀行業務も行なっているらしく、そこに寄るついでに無法者アウトローも引き渡してしまおうという考えのようだ。


 無法者アウトローもとい、モブABCを持っていた登山用ロープで縛り。


 来た道とは、違うルートで引き返す。


 こちら側のルートは行きのルートとは違い、街の近くに出口があるらしい。

その街というのは冒険者が多く集まるにぎやかな場所とのこと。


 道中、ローズの婚約者フィアンセこと、金髪イケメンが教えてくれた。


 ちなみに、名前はルシアだそうだ。

名前までイケメンしてて、やまだとしては悔しいばかりだ。


 見本に書かれたヤマダ太郎の文字を見た、

やまださんの気持ちを少しは考えてほしい。


 ちなみに、つけられるあだ名の一番人気は太郎らしい。


 えっほら、えっほら、ダンジョンを突き進む。


 無法者アウトローを捕縛している都合上、走ることができない。

そのせいか、行きよりも倍以上の時間がかかった。


 しかし、休みなく進んだ我々一行の前に。


 ようやく、出口がその姿をあらわした。


 これを抜ければ、ついに異世界。


 胸が、高鳴る。


 その気分がそうさせるのか、進む足どりが軽い。


 徐々に日の光が差し込んでくる。



「ここが、迷宮都市ローデンよっ」



 ローズが一足先に飛び出して、迎えるかのようなしぐさで手を広げる。


 目に飛び込んできたのは、活気のある屋台だった。


 ダンジョンの出口に立ち並ぶ、屋台の数々。

それも、見たことない料理が並べられている。


 その周りに賑わう人々。

服装を見てみれば、鎧を纏った者から商人風の者まで。


 異世界文化の風を感じるものばかりだ。


 そして、その中から……ついに、ついに見つけてしまったケモミミ。


 悲しいかな、それが中年男性ののケモミミだったこと。ぷっくりと下腹が出ている感じが憎い。

しかし、男のケモミミがいれば、即ち逆もしかり。


 この事実だけで、まだ戦っていける。


 希望を胸に生きていく。



「あそこに見える街の中に、ギルドがあるわ。いきましょう」



 ローズが指差す先、そこには建物が立ち並んでいた。


 その建物は石造りだったり、木造だったりと。

どれも統一性がなく、無計画に建てられた町並みだ。


 しかし、それがなんとも云えない雰囲気を醸しだしていて心をくすぐる。



「クリスティーナは、ここに来たことがあるのか?」



「いえ、名前は聞いていましたが。来るのは初めてです」



 ちなみに問題にならないように例の如く、クリスティーナはリュックにインだ。



「どんな街か、楽しみだな」



「はいっ」



 屋台が立ち並んでいた通りを抜けて、街中に入る。


 昼時なのだろうか、店舗を構えた料理屋の呼び込みが騒がしい。


 流れてくる匂いが、腹の虫を刺激する。


 どこかでスライムさんの魔石が売れたら、ご飯にしよう。


 

「なにやら、騒がしいわね」



 ローズがつぶやく。


 いつもと違う雰囲気なのだろうか。


 初めてきた街だから、こんなものかと思っていたのだけど。


 どうにも違うらしい。



「確かに、ギルドのほうから喧騒が聞こえてくるようだ」



 それに、乗っかるルシアこと金髪のイケメン。


 すると、通行人の話し声が。



「おいおい、聞いたか。冒険者ギルドが大変らしいぞ」「ああ、聞いた聞いた。反乱が起きたらしいな」「どうやら、首謀者が『黒鷹』のリーダーらしいぜ」「マジかよ、前からやばいやつとは思っていたけど」「マスターが留守の時を狙ったって話だ」「あーあ、今日の買取は無理か」



 など、など。


 なかなか、パンクな話が聞こえてきた。



「とにかく行ってみましょう」



 ローズの呼びかけに、応じて話題の冒険者ギルドへ向かう。


 着いてみれば、人だかりの山。


 皆、野次馬に来ているらしい。


 ローズを先頭に野次馬をかきわけて前に進むと。見えてきたのは木造建築の二階建て、ギルドと呼ぶに相応しい大きさだ。



 その二階の窓から、スキンヘッドのマッチョが体をのりだして叫ぶ――



「冒険者ギルドは、俺達『黒鷹』が占拠したっ!」



 噂通り、冒険者ギルドで反乱が起きた様子。


 おう、やっぱこの街パンクだわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る