第10話 一時帰還

「あれ、先輩。こんなところで、何しているんですか?」



 そう声をかけてきたのは、ショートカットが良く似合う少女。

制服を着た彼女と、すれ違った男なら十人に九人は、振り返るであろう美しい容姿。


 そんな彼女が、俺に対して『先輩』と呼ぶ理由はバイト先が同じ、それに尽きる。

しかし、他のバイト仲間には、『さん』つけで呼ぶのに。


 なぜ、俺にだけは、『先輩』なのだろうか。

やはり、顔面偏差値か。少しばかり壁を感じてしまう。


 俺も、女子高生から『さん』つけで呼ばれたい。


 できれば、呼び捨て。



(クリスティーナ、驚かせてしまうから喋るなよ)



 背負ったリュックに向かって、小声で話す。



(はいっ、わかりました)



 物分りの良いスケルトンさんで助かる。



「ササキか、何ってサバゲーの帰りだよ」



 アイテムパックのおかげで今は、バットや手斧などは持っていないが。

よくよく考えれば、通報されても仕方ない格好だったと、今になって気づく。


 ダンジョンを目の前にして、そこまで考えがまわっていなかった。


 それこそ、職質でもされていたら完全にアウトだったわ。

問答無用で市場に売れれる子牛のごとく、連行されてしまう。



「え、先輩サバゲーやっているんですか? 私、前から興味あったんですよね。今度、連れて行ってくださいよ」



 予想外に食いつかれた予感。


 しかし、俺がやっていたのはサバゲーではなく、ダンジョン攻略なのだよ。

ササキ、わるいけど。お前の願いは叶いそうにないわ。



「お、おう。今度な、今度」



「約束ですよ? それでは、これからバイトなので行きますね」



「気をつけて行けよ、またな」



 笑顔で手を振るササキにつられて、俺もまた手を振って応える。


 サバゲーか。


 女子高生の間で、流行っていたりするのだろうか

始めてみるのも、わるくないかもな。


 ピッ。



『近くに未踏破ダンジョンがあります。』



 なんだ、なんだ。


 突然、ログが流れたかと思ったら、マップが表示される。

そこには、マーキングらしきアイコンが赤く光っていた。


 そこから予測するに、新しいダンジョンを見つけたようだ。


 お、近いな。帰る前に、見に行ってみるか。




「見えるか、クリスティーナ?」



 歩くこと、10分。

少し大きめな公園の端に、新しいダンジョンの入り口があった。


 やはり、洞窟ダンジョンステータス情報の表示つきだ。



 【境界の回廊】 

 

 難易度: ☆☆

 

 推奨レベル: レベル15~


 クリア報酬: 550ポイント


 残り受付時間: 95:55:29



「はい、これはダンジョンですか?」



 リュックの隙間から、器用に覗きながら答える。



「ああ。明日あたり、このダンジョンにアタックしようと思うのだが。クリスティーナはどうする?」



「もちろん、ついていきますっ」



 即答で返ってきた返事が、ちょっと嬉しい。

帰ったら、線香の一つでも焚いてやろう。


 スケルトンだから、きっと喜んでくれるはずだ。



「そうか、ありがとう」



「いえ、従者なら当然のことです。しかし、ご主人様……」



「ん、どうした?」



「ご主人様の住む街は、私がいたところと全然違いますね。見た事がないものばかりです」



 街が違うと言うよりは、世界が違うのだけれどな。


 などと、考えていたら。


 ダンジョンの中から、音が聞こえてきた。

これはアレだ、人が走っている音。


 音が近くになるにつれ、ハアハァと息づかいも聞こえてくる。


 ただならない雰囲気。


 そして、ダンジョンの中から飛びだす人影。


 それは、金髪をポニーテルにした、美しい少女だった。

全力で走ってきたのだろう、肩を揺らし、息が荒い。


 それも、少し落ち着いたのか。


 キョロキョロと、辺りを一頻り見回し後、


 少女がその蒼い目で、俺を睨む――




「――アンタ、誰よっ!」



 いや、お前が誰だよ。

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