第11話 冒険者の少女
「アンタ、誰よっ!」
艶やかな金髪を、ポニーテルに結んだ少女が、その蒼い目で睨む。
ダンジョンの入り口から飛び出てきて早々と元気の良いお嬢さんである。
しかし、誰だと聞かれて何と答えれば良いのだろうか。
哲学かな? 哲学の質問かな。
「ヤマダタケシです」
とりあえず、本名などを答えてみる。
「クリスティーナです」
リュックの隙間から、クリスティーナも続く。
それを聞いて、ポニテ少女は少し思案顔だ。
「……あまり見ない格好だけれど、もしかして冒険者かしら?」
その辺、どうなんだろうな。
まだ、経験は圧倒的に少ないが。
ダンジョンに潜ってるわけだから、冒険者と名乗っちゃってもいい気がする。
まぁ、そう言ったほうが無難だろう。
フリーターですと、正直に言ったところで不信がられるだろうし。
それに違う意味で、俺のHPも削られてしまう。
「まぁ、そんなところだ」
「その、従者ですっ」
クリスティーナが、リュックの中から元気に答える。
しかし、良く見ればポニテ少女も冒険者のそれだ。
シルバーで飾られた軽鎧に厚めのブーツ。腰には、細めの剣を携えている。
やまださんよりも圧倒的に冒険者のそれだ。
「わたしはローズよ。怒鳴ったりして、わるかったわ……しかし、ここはどこなのかしら。ダンジョンの中とは到底、思えないけど」
「ここは、ダンジョンではありませんよ」
クリスティーナが、リュックからひょっこり顔をだして答えた。
それを見た、ポニテ少女が腰の剣に手をおく、
「ス、スケルトンッ!」
おうふ、これはちょっとまずい雰囲気。
「待って、待ってっ」
すかさず、間に入って説明をさせていただくこと。
かくかくシカジカ、まるまるウマウマ。
とくに隠す必要性を感じなかったので、まるっと正直に。
その際に、「ぬおっ」と声をあげて一番驚いていたのはクリスティーナだった。
「にわかには信じれない話ね……」
当然だろ。俺が逆の立場だったら、異世界うんぬん言われたら。
こいつ、ちょっとヤバイって思っちゃうもん。
「この際、そんな事はどうでもいいわ。あなた達、冒険者なら手を貸してもらえないかしら。お礼は、十分な額を用意するわ」
ローズが話した内容によると、
パーティーメンバーと共に、このダンジョンを探索途中、突如あらわれた冒険者崩れの
その手助けを、俺たちに求めているらしい。
さて、どうしたものか。
相手は冒険者崩れの
一角豚やゴブリンなどと、比べても危険そうだ。
しかし、助けを求める美少女に、まさか断るなんて出来るわけがない。
それにスライムさんで得た経験値でレベルもモリモリだ。きっと、なんとかなるのではないだろうか。
それに……やっぱり、男なら女の子の前ではカッコつけたいよな。
「クリスティーナ。助けに行こうと思うけど……」
「もちろんです、行きましょうっ!」
言い終える前に、快諾を得られた。
さすがは元聖女様。
人助けと聞いて、迷いはないようだ。
「なにも見えないのだけれど、本当にダンジョンの入り口があるのかしら?」
ダンジョンの入り口を前にして、ローズがつぶやく。
あれ、そうなのか?
俺とクリスティーナには見えてるのに、ローズにはコレが見えていないようだ。
この違いって、なんだろう。
だけど、今はそんなことを考えている場合ではないな。
アイテムパックから、『始まりの剣』という名のバッドを取りだして、準備はオーケーだ。
「よし、いこう!」
ダンジョンの中へと、足を踏み入れる。
ピッ。
『【境界の回廊】の攻略が開始されました。』
ピッ。
『攻略終了までの残り時間: 120:00:00』
先ほどまでいた公園から一転して、景色がぐにゃりと変る。
そこに広がっていたのは、神殿を思わせる遺跡群。
それは、白い石材で造られおり、所々朽ち落ちた跡が見られる。
俺達が立つ、石畳が中央の一際大きい建物へと続く。
石畳の両脇に等間隔で並ぶ、モンスターを象った石像が印象的だった。
時間があれば、じっくり鑑賞したい逸品だ。
「本当にダンジョンに繋がっていたのね……」
その変化に、驚きを隠せないローズ。
しかし、今は時間が惜しい。
せっかく助けると決めたのだから、間に合わせたい。
着いたら全滅してましたとか、最高に目覚めがわるいだろ。
「パーティーメンバーのところまで、案内を頼む」
そう言うと、ローズは頷き、
「あの中央の神殿から中に入るわ。ついてきて」
「ああ、わかった」
それを合図に、俺達はダンジョンに向けて走りだす――
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