第9話 最深部

『始まりの洞窟ダンジョンRE、最深部へようこそ。』



 優しげな女性の声が、真っ白な空間に響く。


 その声が言うところによれば、


 ここが、始まりの洞窟ダンジョンREの最深部らしい。


 中央に置かれた石碑以外、何もない空間。

ここが洞窟ダンジョンであるかも、あやしいくらいだ。


 しかし、不思議と恐怖心はない。

それが攻略を終えたという安心感か、この空間が生みだす雰囲気かはわからないが。



『始まりの洞窟ダンジョンREの、踏破者として、ヤマダタケシ、クリスティーナ・M・ブルーオーシャンを登録します。』

 


 再度、女性の声が響いたと思ったら、



「きゃああああっ!」



 背後からクリスティーナの叫び声もあがった。



「どうしたっ?」



 慌てて、クリスティーナのいる方へ振り向く。


 すると、どうだ。


 いるはずの、スケルトンが見えない。


 かわりにいたのは、白銀の艶やかな髪を揺らした、まるで女神のように美しい少女だった。


 それも、一糸纏わぬ姿で。


 正直いって、わけがわからない。

もしかして、洞窟ダンジョンのご褒美だったりするのだろうか。


 まさかそんな、嬉しい。



  紅潮した頬、潤んだ瞳、まるで桃の果肉のように瑞々しい唇。


 真近で見ると、その神々しい造詣に息を飲む。


 少女の瑞々しい唇が開く。



「みっ、見ないでください、ご主人様っ」



「ご、ごめんっ」



 反射的に、背を向ける。


 響く声は間違いなく、クリスティーナのものだ。



「えっ、あ……クリスティーナか?」



 咄嗟に、名前を呼んでしまったけど。

さっきの声も言ってたし、大丈夫だよな。



「はい、クリスティーナです。何故か、わかりませんが呪いが解けたようで……」



 なるほど、これで合点がいく。


 どういう理屈で呪いが解けたか、わからないが。

クリスティーナ本来の姿をとり戻したようだ。


 さっきまではスケルトン。当然、服なんて着ていない。

それが突然、本来の姿になれば……結果は、見ての通りというわけだ。


 しかし、なぜ呪いが解けたのか。


 考えられる理由といえば、この空間くらいだ。


 強引にゲームに合わせて考えるとしたら。もしかしたらここは、バフ・デバフを打ち消してしまうようなセーフゾーンの類なのかもしれない。



「ぜ、絶対に見ちゃダメですからねっ……」



「わかった、わかった」



 これ以上、見ていたらコッチも色々とやばい。

違う意味で、破壊力が桁違いだ。



『始まりの洞窟ダンジョンRE、攻略おめでとうございます。』



 お、おう。


 クリスティーナの姿に衝撃を受けて、完全に忘れてしまっていた。



『チュートリアルを終了します。報酬を受け取りください。』



 目の前に、柔らかい光を放つ球体があらわれる。

チラリと横目でクリスティーナを伺えば、同じように球体があった。


 球体に触れると、その形を変え始める。


 それは徐々に変形し、やがてバットの姿になった。



『始まりの剣を取得しました。』



 バットなのに剣なのかと、思ったが。

まずは、ステータスを表示させてみることに。 


【始まりの剣】


 持ち主と共に、成長する武器。

その姿は、持ち主の望む姿へと変える。

ステータスに5%アップの補正。



 なるほど、攻略報酬に相応しい武器だ。

武器を育てていく系は、嫌いじゃない。


 ネトゲではハマり過ぎて、サーバーでも数本しかない伝説の一本を作り上げたほどだ。

あのときは、やばかった。おもに、睡眠時間が。

 

 俺の報酬は武器だったけど、クリスティーナ一体なにを貰ったんだろうな。




 報酬は武器以外にも、経験値が360ポイントついた。

まだレベルアップすることはなかったが、これだけ貰えれば十分だろう。



『スタート地点に戻りますか? はい/いいえ』



 今度は、あの女性の声ではなく、ログに映しだされる。



「クリスティーナ一。俺は洞窟ダンジョンから出ようと思うけど、どうする?」



 背を向けたまま、声をかける。


 ついてくると言うなら、もう乗りかかった船だ。

クリスティーナ、一人くらい面倒をみるものわるくない。



「もちろん、ご主人様についていきますっ!」



 



 

 「はい」を選択した後、一瞬の浮遊感に包まれ景色は一転する。


 場所は、スタート地点。


 洞窟ダンジョン入って、すぐの所まで戻っていた。


 振り返れば、クリスティーナの姿はスケルトンに。

やはり、呪いが解けたのは一時的なものだったらしい。



「……スケルトンに戻ってしまいました」



 と、落ち込んだ姿をみせるクリスティーナ。



「一時的にも、呪いが解けたんだ。ダンジョンを攻略していくうちにきっと、解く方法も見つかるさ」



「そ、そうですねっ」



 さて、一度、家に帰って次のダンジョンを見つけるとするか。

きっと、ダンジョンの入り口はまだあるはずだ。



 家に戻るにあたり、一つ問題があった。

スケルトンであるクリスティーナを、そのまま歩かせるわけにはいかない。


 それこそ歩く骸骨などがいれば、大騒ぎになって警察のお世話になってしまう。


 そこで俺は登山用リュックに、クリスティーナを収納することにした。

何かと、役に立つリュックだ。


 すんなりと、リュックに収納されたクリスティーナを担いでダンジョンの外へ。


 太陽の陽が、頬をなでる。


 丸一日くらい、ダンジョンに潜っていたはずなのに、


 太陽の位置は、入った当初と変っていない気がする。


 どういうことだ?


 スマホで確認すると、ダンジョンに潜ってから10分と経っていない。

もしかすると、ダンジョンの中と外では時間の流れが違うのだろうか。



「あれ、先輩。こんなところで、何しているんですか?」

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