第6話 ダンジョンとスライムさん
ガレキの隙間から救出したスケルトンは、元聖女様だった。
元聖女様がその対極に位置するスケルトンになってしまった背景には、様々なドラマがあったであろうことは容易に想像できる。
当初の印象は完全に逆転し、このスケルトンも苦労してきたのだなと。
同情的な気持ちになってしまった。
そのせいか、俺に仕えたいという申し出も。
「無害であればいっか」、とばかりに承諾してしまった次第である。
完全に雰囲気に流されしまっている。
「しかし、まぁ、何であんなところに挟まっていたんだ?」
庭園さながらの階層をスケルトンと二人、歩きながら問いかける。
「……実は、スケルトンになる前は、神職についていました」
クリスティーナの話をまとめるとこうだ。
クリスティーナのことを、良く思わない神官の謀略によって呪いをかけられてしまった。
その呪いは肉を溶かし骨だけの姿、つまり人をスケルトンにする禁術だったと。
スケルトンになってしまったクリスティーナは、町を追われ、追っ手から身を隠すためにダンジョンに入ったはいいが、崩れだした石材に挟まって動けなくなったようだ。
ちなみに、ダンジョンではモンスターに襲われなかったらしい。
同じモンスターという括りなのだろうか。
「そうか……なんか、まぁ。元気だせよな」
思っていたよりも、大変そうな人生を歩んでいた。
もっと、こう。未練があって、成仏できないとかポップな感じを想像してたわ。
「……はい。ありがとうございます」
当時のことを思い出してか、心なしに落ち込んで見えた。
スケルトンの表情が読めるわけじゃないけど、あからさまに肩が落ちてるからな。
しかし、この庭園みたいな階層はすごく広い。
東京ドーム、何個分って広さじゃない。
歩けど、歩けど、出口が見当たらない。
一体、どれだけ広いんだってね。
すでに、通ってきた道もわからなくなってきた。
これは、もう完全に迷子である。
アラサーが迷子とか本格的にどうしよう。
人生に絶賛迷子のやまださんにはダブルパンチだわ。
そうか、アレだ。こういうときこそマップを使えばいいのか。
マップさん開いてくださいと、念じて表示させると、今まで通ってきた道が映しだされている。
帰り道はわかった、今、知りたいのは進むべき道。
しかし、表示されている面積と、グレーにマスクされている未踏破部分を比較してみても。
未踏破部分は、その三倍以上はありそう。
この中から奥へと続く、出口を見つけるとなると。
なかなかと、骨が折れそうだ。
「ご、ご主人様。そこにスライムがいますっ!」
クリスティーナが指で示しながら叫ぶ。
ご主人様って、俺のことか。
一瞬、誰のことかわからなかったわ。
クリスティーナが指す先には、わらび餅のようなプヨプヨとしたモンスターが。
大きさは、バレーボールくらい。
目や口などなく、想像していたスライムとちょっと違う。
全体的に濁っていて、正直いって可愛らしさが足りない残念な感じだ。
これではちょっと国民的モンスターにはなれそうにもない。
「めずらしいですね。スライムなんて滅多に見つけることは、できないんですよ」
そうなのか? こっちの世界ではめずらしいモンスターじゃない。
まぁ、それもゲームの中の話だけど。
スライムはとくに動くことも、ましてや、襲ってくる気配もみせずに止まったまま。
これなら、簡単に倒せてしまいそうだ。
おもむろに近づいて、バットでえいっ。
プチッ、という感触がバット越しに伝わる。
すると、いとも簡単に潰れ液状になるスライム。
あれ、もう倒せちゃったのか?
『経験値取得にボーナスがつきます。500の経験値を獲得しました。』
倒せてしまったようだ。
それにしても、経験値すごくないか。
今まで倒してきたモンスターに比べると、十倍近い。
もしかして、スライムさん。
ものすごく、経験値が美味しいモンスターのようだ。
「ご主人様。そこにもスライムがっ」
クリスティーナが指す方へいって、えいっ。
プチッ。
「そ、そこにもいますっ」
えいっと、 プチッ。
『レベルアップ。スキルポイント5獲得しました。』
よく見れば、あちらこちらにスライムさんが。
……マジか。
これは時間を割いてでも、狩るしかないな。
おいしい狩場を前にして、ネットゲーマーの血が騒いでくる。
ひゃっはー!
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