第5話 ダンジョン攻略3

「あの、すみません……」



 突然、かけられた若い女の声。


 きょろきょろと声の主を探す。


 しかし、周囲を見回してもそれらしいものはいない。


 罠だろうか、バットを持つ手に自然と力が入る。



「下です、下にいますっ」



 下って、声の主らしきものは……いたっ。


 崩れた石材の隙間に、真っ白な骸骨が。



「私ですっ、どうも……」



 確かに骸骨から声が発せられているが。


 これはあの有名なスケルトンっていうやつだろうか。


 なかなかどうして、骸骨がカタカタと喋る姿は衝撃が大きい。


 とりあえず、バットで殴ってしまおうか。


 自然回復した分のMPで、一発分くらいフルスイングは発動させられるだろう。


 よし、やるか!



「たっ、助けてほしいのですっ」



 ……そんなの困る。敵なら敵でちゃんとしてくれないと、殴れなくなってしまうだろ。



「えっ、助けてほしい……?」



「はい、挟まって動けなくなってしまって……あっ、大丈夫です。私わるいスケルトンじゃありませんっ」



 自分でわるくないとか言ってしまうと、かえって疑ってしまうよな。



「ほっ、本当です。本当に良いスケルトンなんですっ」



 心の声を察したのか、涙声で訴えてくる自称良いスケルトン。

スケルトンって、涙を流したりするのだろうか。



「ほ、本当なんです!」



 もう、やめろよ!ここまで必死に助けを求められて何もしなかったら、俺の方が完全に悪者にみえるだろ。



「……わかった。助けれるかわからないが、やってみるよ」



「ありがとうございます、 ありがとうございます。三ヶ月も抜け出せなくて、このまま朽ちてしまうのかと思っていました……」



 ここは突っ込むところだろうか。


 スケルトンだから、もう朽ちてるよね? とか。


 いや、やめておこう。さすがにブラックジョークが過ぎる。


 しかし、よく見れば……見事にカッチリと隙間に挟まったものだ。

引っぱって、抜ければいいのだけれど。



「とりあえず、引っぱってみるか」



「はい、お願いします」



 スケルトンの手……もとい、撓骨と尺骨しっかり握って引っぱる。



 ……ダメだ。ウンとも、スンともいわない。



 ここは洗剤などで滑らすのが鉄板だと思うが、残念ながら持ち合わせてはいない。

まさか、隙間に挟まったスケルトンなど想定していなかったからな。



「やはりダメでしょうか……」



「もう、少しやってみよう」



「……お手数おかけします」



 なんとも、申し訳なさそうに答える自称良いスケルトン。


 さすがに、可哀想になってきたわ。


 しかし、スケルトンって、筋肉や腱もなくてよく骨同士が繋がっていられるよな。

バラバラになったりしないものなのか。



 ん、……待てよ。思いついちゃったかも。



「ちょっといいか?」



「なんでしょう」



「一度、全身の力を抜いてくれないかな? それも、バラバラになってしまうくらいに」



 俺が言って言葉に、ハッとした表情をみせる自称良いスケルトン。



「その発想はありませんでしたっ!」



 ちゃんと、意図を理解してくれた様子。



「わかりましたっ! やってみます」



「力を抜くんだぞ、入れちゃダメだからな?」



「は、はいっ!」



 本当に大丈夫かな。逆に力んでしまいそうな勢いだけど。



「いきますっ!」



 力んでないか? と、不安になったけど。

思いとは他所に、乾いた音を立ててバラバラになった。



「よしっ、上手くいったな」



「はいっ」



 バラバラになった、自称良いスケルトンを隙間からかきだす。

上手くいってよかった。しかし、これちゃんと元にもどるのだろうか。







 「ありがとうございますっ、 ありがとうございますっ」



 元の姿を無事にとり戻したスケルトンが、土下座スタイルで何度もお礼を述べるという。

なんとも可笑しなこの状況に、完全に毒気が抜かれてしまった。


 まぁ、無事に抜け出せた事だし、よしとするか。



「もう、変な隙間にはまるなよ」



 さて、変な所で時間を喰ってしまった。先に進もう。



「ま、待ってくださいっ」



 と、思ったらスケルトンに呼び止められてしまった。


 今度は、なによ。



「ん、何だ? まだ、困ったことでも?」



「まだ、お礼ができていません」



「十分言ってもらったから、もういいよ」



「それでは恩を返せません。しかし、お渡しできる物がない以上、……この体で返しさせてください」



 えっ、やだよ。体って、もうないじゃん。

それにスケルトンとするって、色々とレベル高すぎだろ。


 さすがのやまださんも、そこまでの域にはまだ達していない。



「恩が返し終えるまで、仕えさせて下さいっ」



 なるほど、そっちか。

とりあえず、スケルトンのステータスでも見てみるか。


 カモン、セイッ!




名前:クリスティーナ・M・ブルーオーシャン

性別:女

種族:スケルトン

ジョブ: 元聖女

レベル:1

HP:27

MP:350

STR:3

VIT:3

INT:175

DEX:1

AGI:1




 おう、マジかよ。このスケルトン、元聖女様だって。

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