第37話・告白
「しかし、他に手はない」
エルは首を横に振る。
「
「何でしょう、エル様」
父ではなく名を呼んだことで、エルが覚悟を決めたことをプロムスは悟った。だから、プロムスも義父ではなく臣下として答えた。
「あの二人を留める方法を考えてくれ。あの二人をブールに連れて行きたくはない。いっそ物理的に拘束をしても構わない」
「ジレ様はそれでいいとしても、アル殿は難しいですね」
プロムスは渋い顔をする。
「あの二人に何か仕事を与えては」
リッターが提案した。
「仕事?」
「あの二人だって立派な冒険者です。指名の依頼があってもおかしくはないでしょう?」
「なるほどな……依頼にかこつけて俺たちを引き離すのか」
「どのような依頼がいいでしょう」
「このオラシに留まらせるのが一番でしょう。ここならブールの報は届かない」
「でも、何と言って……?」
セルヴァントの言葉にプロムスが口を開こうとした時。
「森の魔物狩りでいいんじゃないの?」
聞きなれた声が割って入った。
「アル……?」
「何妙な顔してんの」
何者も入ってこられないはずの結界に、アルは平然と入ってきた。
「この結界は僕の魔法力で作ったものだよ。僕が入れないわけないじゃない」
「……だが、アル」
「ごめんなさい」
アルは神妙な顔で謝った。
「僕、本当は、思い出してたんだ。……魔法猫だってこと」
「一体、いつから……」
エルの震える声に、アル……アルプは申し訳なさそうに答えた。
「三年ほど前から」
「何故、言ってくれなかったの?」
セルヴァントの言葉に、アルプは本当に気まずそうに言った。
「みんなが一生懸命守っている秘密を、僕の一言で終わらせるのが……申し訳なかったんだ」
「……アルくん」
「……ごめんね。魔法猫だった頃にリッター兄とは顔を合わせてた。でも、それを覚えてるって言ったらみんなが僕が記憶を取り戻しているって気付くから……初対面の振りをするしかなかった。ごめん」
「いや……謝る必要はないよ。あの頃の私は魔法猫を信じてはいなかった。奇妙な人間が奇妙な行いをしている、そのおまけとして見ていたんだから、初対面で自分があの時の猫だと名乗られても信じはしなかっただろう……」
それより、とリッターはアルプを見た。
「魔法猫であることを思い出して、何か変化はあったのかい……?」
「ない」
アルプは首を横に振る。
「ヴィエーディアさんのくれた懐中時計がなければ魔法は使えないし、猫の姿にも戻れない。僕は人間の魔法使い、それでしかない」
アルプは俯いて、言った。
「確かに魔法力は普通の魔法使いより大きくて出来ることは多いかもしれないけど、魔法猫じゃあない。この目に『虫』がある限り、僕が怒りに捕らわれたなら暴走するだろうけど」
真剣にアルプは言った。
「リッター兄……リッターさんやルイーツァリさんがこうなったのは僕のせいでもあるんだ。僕が何か役に立たないといけない」
「アルプ。……お前のせいじゃない。フィリウスというヤツのせいでこうなっただけだ。誰もこの事態がお前のせいだと思っていない」
「でも……」
「リッター兄でいいよ、アルプくん。……子を作りすぎた愚王が暴君にその座を奪われただけ。君には何の責任もない」
「なら、言い方を直す」
アルプの琥珀の瞳には涙が浮かんでいた。
「僕は、みんなが好きだから」
「アル」
「みんなの為になりたいんだ」
「……アル」
「アルプくん……」
「……だが、それでお前が虫に取り込まれたら、みんなが悲しむぞ。ここにいる俺たちも、ジレも、フィーリア殿とヴィエーディア殿。みんなが悲しい思いをする」
「分かってる。僕がどれだけ愛されているか、どれだけみんなが僕のことを大事に思ってくれているか、よくわかる。金のハートがない今でも、それがわかる」
アルプは猫が顔を洗うように涙を拭って、顔を上げた。
「でも、だからこそ、ここで僕が動かないとならないんだ、僕がブールに乗り込まなくても、できることはある」
「例えば?」
「この場でエル兄とリッター兄をブールの王宮に送り込むとか」
プロムスは息をのみ、セルヴァントは卒倒しそうなほど目を見開いた。
「……そうか」
エルは腕を組んで唸った。
「雪解けを待てば、フィリウスは国を支配し終えてレクスを殺しているだろう。行動は……早い方がいい」
「エル殿」
リッターは青ざめた顔のまま、エルに声をかけた。
「どちらにせよ襲われるなら、早い方がいい」
「覚悟を決めたのか?」
「決めなきゃいけないでしょう」
「リッター兄」
「私と、エル殿で、王宮に乗り込んで、フィリウスを仕留める。アルプくんはこの屋敷から動かず、成功すれば即座に我々を屋敷に戻す。……この作戦でいいのですね」
「ああ」
エルは小さく頷いた。
「明日の朝一番。王宮の門が開く九の刻に、俺とリッターを王宮の前に送り込む。ここで観察し、事が成ったら俺たちを連れ戻す。いいな」
「いいよ」
アルプは頷いた。
「その間ジレには寝ててもらう。それでいいよね」
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