第95話 受身は義務教育の範疇だから安心して投げ飛ばしてね
「おはようみーちゃん! 搾精の時間だよ! 脱げ!」
「朝からそのノリ重くない!? 寝起きにキング牛丼食えないよ俺!」
「キング牛丼に失礼だよみーちゃん」
「それはそうなんだがお前が言う事ではないだろ」
彩夏達とのお泊まりから一日が経った。昨日は学校だと言うのに朝から大変だったな……。
今日も今日とて今日が始める。ところで零。
「なあに?」
「ほんとお前顔は良いんだよな……いきなり美少女顔を向けないでくれ。心臓に悪い」
「え? ぶっかけたくなる?」
「言ってない言ってない」
耳どうなってるんだろうな。いや、脳への伝達信号的な奴が狂ってるのか。
一旦それは置いといて。
「アレはなんだ?」
「あーちゃんだよ。亀甲縛りにされて猿ぐつわを噛まされた」
「いや、それは見て分かる……見て分かる自分になってしまったのが嫌だ」
しかし意味が分からんだろ。朝起きたら妹が亀甲縛りをされてるって。しかも全裸だぞ。
「なにがあったんだよ」
「いつも通りあーちゃんがみーちゃんを犯そうとして星ちゃんに縛られたんだよ」
「情報量。あとお前も服を着ろ」
「えいっ」
「
「あへるな!? でもみーちゃんってアヘ顔がす「言っとらん!」」
零に乳で窒息死させられそうになったが、どうにか退避。
というか色々あれだな。ちょっと整理しよう。
「まず新が毎日犯しに来てるって本当か?」
「……? うん」
「知ってるなら止めてくれよ」
「星ちゃんが縛ってくかみーちゃんが気づいて起きるか巴投げするからね」
「起きるか巴投げってどうなってんだよ俺」
「受身は義務教育の範疇だから安心して投げ飛ばしてね」
「俺の知ってる義務教育さんを返してくれ」
義務教育さんはそのうち取り返すとして。次の質問に移ろう。
「星は?」
「帰ったよ。ちょっと眠そうだったから、昨日はみーちゃんで夜更かししてたんだと思うよ」
「生々しいオブザイヤー優勝候補。普通に漫画とか読んで夜更かししてたんだろ」
「えっちな?」
「頭の中えっちに支配……されてたわ。めちゃくちゃされてたわこの子」
「性欲は三大欲求の一つだからね。マシマシで行くよ」
「来るな」
後で星にはお礼をしなければ。なにかあるかな。
「みーちゃんを縛ってあげよう」
「だめです」
それも後で考えるとして。……全部後回しにしてるな俺。
そこでふと目を新へと向けた。うわぁ。
「『お兄ちゃんに掃き溜めを見られるような目で見られるの気持ちいい』って言ってるね」
「見て分かるわ。……分かってしまった自分が辛い」
そうして今日も一日が始まった。
頼むから一日くらい普通にアラームで起こさせて欲しい。
◆◆◆
「なんか校門に人が多いな」
「開発中かな」
「突っ込まないからな」
「突っ込まないと開発できないよ」
「ねえ、高校生らしい会話しない?」
今日は珍しく零と二人で登校である。いつもは誰かしら居るんだけどな。
「本当にどうしたんだろうな」
「とりあえず行ってみようよ」
「お前は全て知り尽くしてそうだが」
「またまたそんな。私が
「ややこしいな俺の名前。あとふと名前を呼ばれるとドキってする」
「ムラってする!?」
「しない」
と、形だけでも言っておかねばならない。
「くっころのないヒロイン陵辱なんてカレーの入ってないカレーパンも同然だもんね」
「ただの揚げパンじゃねえかそれは。それでも需要はあるだろ」
そんな会話をしながら校門に近づく。その中心に居たのは――
「日向?」
「あ、未来! 良かったー!」
その騒動の中心に居たのは日向であった。ただし――
「そっち、着て来たんだな」
男子向けの制服ではなく、女子向けの制服である。セーラー服にスカート。その姿はとても日向に似合っていた。
「うん! 昨日はちょっと、まだ心の準備が出来てなくて。ど、どうかな。似合うかな?」
「そうだったのか。制服もめちゃくちゃ似合ってるぞ」
「そ、そっか。えへへ」
うん、めちゃくちゃ可愛い。
「勇気を出してみたんだ。どっちの僕も僕だから、ね」
「ああ。凄く良いと思う」
ニコリと笑う日向は非常に可愛らしい。その瞳もキラキラと輝いていて、とてもイキイキとしていた。
何にせよ、日向が楽しそうで良かった。
と、心がポカポカしていた時である。
「あ、みくくんだ! みくくーん!」
「背後乳プレス!?」
背中に
「わ、悪い。日向。ありがとう」
日向が居なければ倒れてしまう所であった。
しかし、それはそれとしてめちゃくちゃいい匂いがする。非常にまずい。なんで俺は男にドキドキしているんだ。
いや、日向という性別だから問題ないのか?
心の奥にある扉が開きかけたので、日向から離れようとした。
「……」
「ひ、日向?」
離れようとしたのだが、日向が背中に回した手を離してくれなかった。
もう一度彼(?)の名を呼ぶ。いや、彼だ。彼なんだ。ちょっと怪しいが。多分彼だ。
ややあって、その口から声が漏れた。
「……ぁ。ご、ごめん、ちょっと驚いて」
「あ、ああ。大丈夫だ」
本当に男なのか疑うくらいに甘く爽やかな香りが漂ってきていた。あと女子、うるさいぞ。
「ご、ごめんね二人とも! みく君見つけてちょっと嬉しくなっちゃって」
「だ、大丈夫……ありがと」
「俺も大丈夫だ……が、いきなり後ろからは次からはやめてくれ。心臓に悪い」
「じゃあ次は前からだねっ!」
「違うそうじゃない」
と、そんなやり取りをしていると他の皆も来たようだった。
「……何してるの? また女の子引っ掛けてんの?」
「人聞きが悪すぎるな」
誤解の産まれそうな発言をする咲。星達もそんな目で見ないでくれ。
「ん? ……あれ? 日向ちゃん?」
「やっと気づいたか。日向だぞ、この子は」
「きゃっ」
「あ、悪い」
つい手頃な場所に頭があったので手を置いてしまった。距離感を見つめ直さなければ。
しかし、俺の言葉に日向がぶんぶんと首を振った。
「う、ううん。いいよ、置いても」
「ん? 良いのか?」
「うん。……いいよ」
許可を貰ったので遠慮なく手を置いてみる。なんかしっくりくるな。
「ねえ、あれ」
「やっぱ思う?」
「思います」
「むしろありなんじゃないの?」
「昔の武将とかもそうだったし大丈夫大丈夫」
「……?」
なんか向こうも向こうでアレな話をしているが。つつじさんだけ首を傾げてるのがもう……
「…………まあいいか」
その辺は無視して、一度視線を合わせた。
「な? 案外大丈夫なもんだろ?」
「うん! ありがと、未来」
「頑張ったのは日向だろ」
「それでも、頑張ろうって思ったのは未来が居たからだよ」
その言葉に自然と照れ臭くなって、校舎へと歩き始めた。
「何かあったら言えよ。絶対に俺達が守るからな」
「……うん。ありがと」
最後にそれだけ言葉を交わす。後ろから感じる生暖かい視線は無視した。
◆◆◆
「……あ。教室にプリント忘れた」
「また珍しいですね。いつもなら零ちゃんが気づくのに」
「今日は忘れたい気分かなって」
「そんな気分の奴が居るか。先に行っててくれ」
全員で戻る訳にもいかないので、一人で教室に戻る。
戻る予定だったのだが。
「なんで当然のようについてきてるんだ?」
「みーちゃん居る所に私あり。私居る所にみーちゃんありだよ」
「えへへ。みく君と一緒に居たいなぁって」
零とつつじさんが着いてきていたのだ。
まあ良いかと、教室に鍵を掛けようとしていた生徒を呼び止め。鍵は任せて先に行ってて欲しいと伝える。
そのまま中に入り、引き出しの中に目当てのものを見つけた。
それと同時の事だ。
ぴしゃり、と扉が閉められた。
――つつじさんの手によって。
「つ、つつじさん? どうされましたか?」
「違うでしょ? みく君」
とん、とん、と跳ねるように歩いてくるつつじさん。たゆんたゆんとその巨峰が揺れる。
そして、彼女は目の前まで来て。ニコリと笑った。
「『お姉ちゃん』でしょ?」
「つ、つつつつじさん」
「つが多いよみーちゃん」
「つじさん」
「別人になっちゃった」
そんな風に零と会話をして気を紛らわせるも、つつじさんがほっぺたを膨らませてしまう事になる。
「みく君」
「は、はい」
「零ちゃん。こっち」
「はーい」
零が俺の隣に並べさせられる。すっごく嫌な予感しかしない。
「あ、あの? ここ学校なんですが?」
「この教室には三人しか居ないよ」
「いや外に居るんですが」
「見えないもん」
もんが可愛すぎるが?
「もんもんもんもんもんもんもんもん」
「可愛いどころか宇宙人と交信してるようにしか見えない」
「パンモロよりパンチラの方がえっちなのと一緒?」
「違うって言いたいけど言えないもどかしさ……ちょ、つつじさん? じりじり近寄らないで、いい匂いするから!」
零との会話で脳を溶かしつつも、彼女が近づいてきた事を告げる甘い匂いに意識を取り戻した。
それと同時に、ゾクリと背筋に悪寒が走った。凄く嫌な予感がする。
「……お、お姉ちゃん?」
「ふふ! そうだよっ! お姉ちゃんだよ!」
「どっちの選択肢を選んでも詰みなパターぐっ!」
「わーいお姉ちゃん」
結局は乳で溺れてしまう事となった。男の夢ではあるが、夢は見ている時が一番……一番……
悪くないと思ってしまっている自分が辛い!
「ま、待て。授業、授業に遅れるから」
「むぅ。まだ足りないもん。日向ちゃんとはあんなに力強くぎゅーってしてたのに」
「へ?」
どうにか乳の海から抜け出してそう言うも、返された言葉に間抜けな声が漏れてしまった。
ちなみに日向をちゃん付けで呼ばないのは俺くらいである。
日向が『好きに呼んで良いよ』と言った結果、みんな『日向ちゃん』がしっくり来たらしいのでそう呼んでいるのだ。
頭が真っ白になったあまり、関係の無い事を考えてしまった。
しかしなんだ? 今の言い方だとまるで……
「まるで、じゃなくて嫉妬したって事だよ。ね、お姉ちゃん」
「嫉妬。そうかも」
「つつ……こほん。お姉ちゃん?」
名前で呼ぼうとすると抱きしめる力を強めてきたのでそう呼び直した。
めちゃくちゃ恥ずかしいが?
こちとら健全な男子高校生ぞ?
「えーと、時間がですね? そろそろ次の授業に遅れるかなと」
「……じゃあみく君からぎゅってして」
「なしてそげん事になったばい?」
動揺のあまり九州弁っぽいのが出てしまった。てか九州弁ってこれで合ってるのか?
「日向ちゃんにはぎゅってしたのに……」
「スルースキルたっかいな。いや、あれは事故で……」
「でも! ずるいよ! お姉ちゃんにもぎゅってしてよ!」
「やばいな。思春期の弟に拗らせたブラコンの姉みたいになってきた」
「だけどみーちゃん好きだよね、そういうの」
「ノーコメントで」
正直大好物です。この手のおねショタ。
弟も姉に向かう好意の矢印大きかったら良いよな。
「……ん!」
「助けて零さん初恋の人の娘にこんな事されたら歪んでしまいます色々」
「もう歪んでるよ。水面に波が立ってるプールの中にある線くらい歪んでるよ」
「上から見たらぐにゃぐにゃになってるやつ」
でもやばいって。普通の美少女ならまだ……どうにかなるか? ならない気もするが。
だが、これでも初恋は割と思い出に残ってしまっているのだ。
もちろん蓮美さんとは別なのだと分かっている。分かっているが。
それでも手が。手が動いてしまう。
「……!」
結局彼女の背中に手を回してしまっていた。めちゃくちゃいい匂いがする。あと零、ニヤニヤするな。股間に手を伸ばすな。
そして、俺達は無事に遅刻をしたのだった。
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