第93話 お兄ちゃんと同じ学年になりたいから飛び級できるように法改正してくるね!

「す、すやー。すやー」


 目の前にはぐっすりすやすや(?)と眠っている推しがいる。


 いやこれ寝てないだろ。誰がどう見ても寝てないだろ。


(合法睡眠えっちできるね)


 違法だわ。


 あともう一つ気になる事が。……どっかの誰かさんのように首までしっかり布団を被っているのだ。


(めくってみる?)

 通報されるだろ。


(脱いでる方が悪いよ)

 ……ちょっと納得しかけてしまった。だから良いという訳ではない。


 というか、全然服を着けてる可能性もあるのだ。


(シュレディンガーの全裸だね)

 猫に謝れ。

(シュレディンガーじゃないんだ)

 そうだよ。猫に謝らせてどうするんだ俺。


 もうだめだ。頭おかしくなってきた。


「す、すぅ……? すや……?」


(ほら、沙良ちゃん待ってるよ)


 せめてちゃんと寝たフリをしてくれ、沙良。逆に器用だな。


 そういえば沙良、演技は苦手だったと言っていた。とあるバラエティ番組で芝居をする事になったのだが、かなりネタにされていた記憶だ。


 正直可愛すぎてなんでこれをネタにするんだ? とか思ったが。


 なるほど。確かにこれは……


「どちゃくそ可愛いな」

「すや!?」


 うん、可愛い。演技が下手な沙良可愛い。なんだよ『すや!?』って。隠す気ないだろ。可愛い。


(みーちゃんみーちゃん。尺ないからさくっと沙良ちゃんに犯されて瑠樹ちゃんに犯されに行こ)


 当たり前のように犯されに行くな。


(起こすと犯すは一文字しか変わらないし似たようなものだよ)


 全然違うが?



 ……さて。現実逃避はこれくらいにするか。


(ちゅー! ちゅー!)


 はやすな。


(生やすな!? ふたなりは一般性癖だもん!)


 言っとらんし一般か……? いや。性癖は千差万別だからあれだな。まあ、なんでも良い。


(それよりべろちゅー! でぃーぷきす! ふれんちきす!)


 どれも意味同じじゃねえか。


「……沙良。起きないとするぞ」


 一応。念の為。これで起きてくれたら良いなと思いながら言うと。


「…………して」

「アッ」





















(みーちゃんみーちゃん。帰ってきて)

「ハッ」


 危ない危ない。ちょっと逝きかけていた。


(イきかけていた!?)


 うーん惜しい。ではなく。


 ……やるか。


(五人くらいこさえちゃおう)


 なんか増えてるな。


(五人くらいなら沙良ちゃん達の稼ぎでどうにかなるよ)


 推しには貢ぐもので貢がれるものじゃないぞ。


「す、すやー、すやー……ちら」


 ああ、だめだ。もうちらちら見てきてる。限界だ。


 ……あれ? これもしかして無視して部屋出たら勝手に起きるのでは?


(沙良ちゃんがこっそり泣くけどそれでも良いなら)


 介錯は頼む。零。


(首絞めックスって事?)


 遠そうに見えて遠い。


 ……さて。本当にそろそろ起こすか。


「沙良」

「すや」


 返事をしないでくれ。頼むから。


 一度、小さく息を吐いて。近づ顔良ッッッッッッ



 犯罪級の可愛さ。懲役300年想定だけど裁判官もにっこりして無罪判決出しちゃうよ。


(何言ってるのか分かんないかな)


 え? 説明いる?


(そろそろ沙良ちゃんが可哀想になってきたからわんちゃんみたいなちゅーしてあげて)


 トラウマなるわ。沙良が。


 しかし、これ以上尺を引き伸ばす訳にはいかない。彩夏も起きてるんだし。飯を作らねば。


 意を決して――その額に唇を押し付けた瞬間。



「隙ありさー!」

「んんぐっ!?」


 物凄い力でベッドにおっぱい!



「やめて! 沙良さん! おっぱいが! おっぱいが顔にいっぱいに!」

「ふ、ふふふ。おっぱいに弱い事は調査済みさー」

「あの時か!」


 零!


(てへぺろ♡)


 可愛い。でも許さない。


 あとやばい。なにがやばいって。


「……さ、沙良。香水付けてる?」

「き、気づいた?」


 正直めちゃくちゃ気持ち悪い質問だが。気づいてしまったのだから仕方ない……というかもう言葉に出してしまったので仕方ない。


「み、みーくー来るから。気合い入れないとなって思って、上等なやつ買ったんだよ」

「俺の推しが健気すぎて可愛い。死ぬ」


 普段の爽やかな香りに交じった、花の蜜のような匂い。あと柔らかい。


「か、可愛いって。……彩夏達に比べたらそんな事ないさー」

「お? 語るぞ? 良いのか? 語るぞ? 三日三晩語り明かしてやろうか?」

「……む。ちゃんと見るさー」

「ふんぐっぱい!」


 どうにかおっぱい気を逸らそうとしたもののおっぱいおっぱい。


 だめだ。頭が乳で染まっている。


(脳内乳染だね)

 ちょっと何言ってるのか分からないな。……いや。お互い分からなかったらそれはもう会話とは呼べないのでは?


「ところでそろそろかいほむぐっ」


 生乳、生乳で溺れるから。


(字面だけ見たら結構普通だよね)


 生乳せいにゅうで溺れるのは普通じゃねえが?


 そうしてなんやかんやがあった。なんやかんやである。



 俺は今。沙良に抱きしめられていた。

 いや、なんやかんやがあったならもうちょいさ。変化欲しくないか?


「……沙良さん? そ、そろそろ解放して頂けると非常に助かるのですが」


(みーちゃんの対戦車砲も準備万端だもんね)


 そんな威力ねえよ。


「……いや」

「ウッッッ」


(出た!?)


 出てないから。死にかけただけだから。


「……転校しようかな」

「え?」

「みーくーと会えないの。寂しかったから」


 あっ、だめ。そんな事言わないで。好きになっちゃうから。俺はチョロインなんだぞ。既に好きにはなってるが!


(みーちゃんってあれだよね。好感度99までは上がりやすいけど100にするには特殊なイベントをこなさないといけないタイプ)


 自力で攻略しようとするけど結局分からなくて調べるやつ。


「し、しかしだな? さすがに転校とかは……」

「ごめん。ちょっと重かったさー」

「いや。そこに関しては身近にどちゃくそ重いのがいるから大丈夫だ。まじで。ガチで」


(静ちゃん、かなり重いもんね)


 お前だよ。正確にはお前と新だよ。最近新、『お兄ちゃんと同じ学年になりたいから飛び級できるように法改正してくるね!』って部屋飛び出して国会まで行こうとしたんだぞ。お兄ちゃんどんな顔すれば良いのか分かんなかったよ。


(笑えばいいと思うよ)

 押し倒されるわ。……いや妹に対してこのツッコミはどうなんだよ。


 しかし、話が脱線しすぎである。


「と、とにかく。その辺は何も気にしなくて良い」

「……受け止めてくれるってこと?」

「……」

「ふふ。意地悪な言い方だったさー」


 何も返せずに居るも。沙良は笑い、さらに強く抱きしめてアッオッパイガッ。


「みーくーなら全部受け止めてくれるって。分かってるさー」

「アッ」

「だから、今は……今だけは独り占め」


 強く。強く抱きしめられ。



 ――改めて。もうこれ覚悟決めるしかなくね? と心の中で呟いたのだった。


 ◆◆◆


 最後は瑠樹である。


「……耐えられるか、俺」


 耐えなければ。今スキャンダルで三人すっぱ抜かれるとかまじでシャレにならない。


(みーちゃんが来てる時点で今更だけどね)


 それはそうだけども!


 コンコンとノックをするも、やはり返事はない。


 中に入ると――



 女神が眠っていた。やはり【nectar】は女神の集団である。


 すやすやと眠る瑠樹。正直に言うと、先程の二人に比べれば慣れている。起こしてたからだ。


「……起こすぞ」


 それはそれとしてめちゃくちゃ緊張はするけども。


 その額に唇を触れさせようとした瞬間。



 パチッと。その目が開いた。


「隙ありですよぉ」

「うおっ!?」


 そして。そのまま背中を引き寄せられて俺はベッドに引き込まれ――



 ちゅっと。ほっぺたにキスをアッッッッッ



 アッッッッッッッッッ




 アーーーーッッッッッッッッッッ



「ふふ、やっとできましたぁ」

「る、瑠樹さん? なななななんで起きて?」

「二人にお願いしたんですよ。今日は私がちゅーしたかったもん」

「アッ」

「ぎゅー」

「アッッッッッッッッッ」


 灰になる! 灰になって飛んで言っちゃう!


(大丈夫だよ。灰からでも戻せるから)


 なんか凄く怖い事言ってない?


「ふふ。大好きですよぉ」

「アッ、アッ、アッ」


 やばい。限界突破オタクになる。ガチ恋距離ほっぺたちゅーは限界通り越して限界突破オタクになる。


 しかし、意外な事に。瑠樹はすぐに解放してくれた。



「でも、その顔が見れたなら満足ですねぇ」

「瑠樹さん!!!! 服着て!!」

「んふ……ぎゅー」

「話聞いてる!?」


 立ち上がろうとする瑠樹にそう言えば、抱きつかれる。


「やっぱり違いますねぇ。未来君は。クラスの人なら、夏服になっただけで目をギラつかせてくるのに」

「よし。そいつらを男で居られなくさせよう」


(みーちゃん千人斬り雌落ちさせ概念!?)

 新しくおぞましい概念を生み出すな。


「未来君は……やっぱり優しい目。好きな目ですよぉ」

「嬉しいけど! 服着てくれ!」

「いやかなぁ、ふふ。ぎゅー」



 結局。それから十分ほと拘束され、やっと――



 やっと。最難関ミッションを終える事が出来たのだった。

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