第92話 えっちだよお兄ちゃんえっちだねお兄ちゃんえっちさせろお兄ちゃん

「曲者ッッッ!」

「残像だよ! お兄ちゃん!」

「なんで当たり前のように残像出してるの我が妹ッッッ!」


 眠ろうとしたら上から妹が降ってきた。即座に避けようとしたのだが、それは残像でありベッドの下から妹が這い出てきて。ベッドに押し倒された。


 ……なんなんだよこの状況は。


 なんなんだよこの状況は!


「おかしいだろ!? これ兄妹がする会話じゃないぞ!?」

「そ、それって! 私と兄妹をやめたいって事だよね!? プロポーズ!?」

「曲解しすぎだ」

「曲げ続ければいずれ最初と同じ向きになるんだよ! お兄ちゃん!」

「意味がわからん。あと手離せ」

「え? 嫌だけど」


 無駄に力が強い新。地味に抜け出すのが難しい。


「妹でしか興奮できなくしてあげるよ! お兄ちゃん!」

「やめろ! こら! 脱がせるな! 怒るぞ!」

「怒ってくれるの!? はりつけプレイ!?」

「んなプレイはしない!」


 どうにか新の魔の手から抜け出した。


「今だよ零ちゃん!」

「任せて!」

「はぁ!? 零!? 今どっから現れた!?」

「クローゼットの中からだよ」

「俺の家のクローゼットはお前ん家にでも繋がってんのか!?」

「異世界にも繋がってるよ」

「テリ○ンかよ」


 しかし、クローゼットから出てきたのは事実である。今度から寝る前はガムテで封印しようかな。


「じゃあいただきます!」

「実の兄に向かっていただきますとか言うんじゃねえよ!? あと零! 乳でぐりぐりするな!」

「でも喜んでるじゃん!」

「そういう問題じゃない! 情操教育的な問題で……」


 いや。今更では? 今更新に情操教育など出来るのか?


「新よ」

「なあに? ドスケベお兄ちゃん」

「手遅れだ! この返答で手遅れだと分かった!」


 世の中にお兄ちゃんの前にドスケベを付ける妹がどれだけいるだろうか。いやいねえよ。いてたまるか。


 いや、まだだ。まだ……間に合うかもしれない。


「新よ。ちなみに本気で拒絶したらどうする?」

「え? ガチ泣きしながら本気でお兄ちゃん犯すけど」

「無理だ! 俺の方が泣く!」

「え? どっちの口から?」

「口は上にしかねえ!」


 さすがに妹にガチ泣きされながら犯される趣味はない。そこまで歪んでない。多分。


「つか明日朝早いんだよ。彩夏達のとこ行かないといけないんだよ」

「知ってるよ。ちょっとちょっかい出したいなあって思って」

「お前の基準怖ぇよ。クローゼットから出てきて拘束するのがちょっとなのかよ」


 恐怖だよ。心臓口から飛び出るかと思ったよ。


「みーちゃん。また私の新しい性癖こじ開けたね?」

「レベル高ぇよ!? 口から心臓が飛び出るのが性癖は色々心配になるよ!?」


 とんでもない事を言い出す零。そして新はズボンを脱がせようとするな。


「……まったく。何しに来たんだよお前ら」

「え? 夜這いだけど」

「うん。夜這いだけど」

「ゲーム感覚で夜這いに来るな」

「失敬な! 漫画返す感覚だよ!」

「失敬なのはお前の存在だよ」


 どうにか拘束から逃れ、衣服の乱れを直す。


「事後感あってえっち」

「えっちだよお兄ちゃんえっちだねお兄ちゃんえっちさせろお兄ちゃん」

「えっち三段活用をするな。なんだよえっち三段活用って」


 やばい。頭がおかしくなりそうだ。寝よう。


「寝る」

「今夜は寝かせないよみーちゃん」

「寝かせろ。起きれなくなる」

「ちゃんと起こすから大丈夫だよ。みーちゃんのギガントみーちゃんを」

「おかしな修飾語を付けるな」


 とりあえずベッドに寝転がり。隣をぽんぽんと叩く。

「ほら、早く来い」

「許可! 許可おりたよ零ちゃん!」

「変な事した瞬間窓から放り投げるからな」

「ご褒美じゃん」

「嫌うぞ」

「ご褒美じゃん」

「無敵すぎる」


 もういいやと。そして早く来いと二人を催促した。


「変な事はするなよ」

「しないよ!ぺろぺろくらいしか!」

「お兄ちゃんな。妹に常識がないのが怖いよ」



 そんなこんながありながらも、隣に新と零が来た。


「おやすみ、みーちゃんのギガントみーちゃん」

「おいこら。どこに挨拶してやがる」

「あれ? おはようさせた方が良い?」

「撫でるな。起こすな」


 零の首根っこを掴んで頭を上にしか持ってきながら。目を瞑る。


「何してる新」

「おにニーだけど」

「何の略称かは聞かないからな」

「お兄ちゃんで「話聞いてた?」ニーだけど」


 お兄ちゃんでニーをするな。

 ……小さい頃から一緒に暮らしてる男女は、お互いを異性として認識しにくいとかどっかで聞いたが。嘘なのだろうか。


「みーちゃん。何事にも例外は居るんだよ。目の前とかに」

「ぐうの音も出ない」


 そんな事をしていると眠気が襲ってきた。俺もよく寝れるな。腹ぺこのクマの檻の中で寝るようなもんだぞ。


「……良いか? 変な事。エロい事して来たら説教だからな」

「ふふ。分かってるよお兄ちゃん。しないでって言った方が背徳感出るもんね」

「咲と星呼ぼうかな」


 そんな事を考えつつ。


 俺は眠りについたのだった。


 ◆◆◆


 無事。俺は朝を迎えた。

 何故か俺含め三人とも全裸だったが。割といつもの事なので、何もなかったはずだ。多分。


 そして、俺はとあるマンションに来ていた。


「す、凄いな」


 高層マンション。ここの十五階に三人は住んでいる。


 カードキーを使って中に入り。エレベーターで上がっていく。


「地震とか……まあ、耐震構造だろうし大丈夫なんだろうな」


 そんな事を考えている間にエレベーターは着いて。

 三人が泊まっている部屋にカードキーを使って入る。

 ふわりと、花のように甘い香りがした。


「は、入るぞー?」


 中はめちゃくちゃ広い。それはもう、ちょっとビビるくらいに。

 しかし、三人でルームシェアとなると……支払えない金額ではないんだろうなとか邪推してしまう。


 良くないなと。俺は寝室へと向かった。


 一応部屋の構造は聞いていたので。ここが寝室だろうなという部屋にたどり着いた。


 コンコンとノックをして。しかし返事はない。


「入るぞー?」


 そう声をかけて中に入ると。


「アッッッッ」


 めちゃくちゃにいい匂いがして倒れそうになった。これが推しの匂い。推しが寝ている部屋の匂い。いや俺めちゃくちゃきもいな。死ねば?


(みーちゃん! それ以上自分の事悪く言ったら永遠にえっちな映像を流し続けるよ!)


 悪い悪い。あと怖いからやめて。


 そして、部屋はと言うと。シンプルな寝室であった。


 本棚にデスク。クローゼット。そしてベッド。


 あまり人の部屋をジロジロ見る訳には……とか思いつつ。その机の上にあった写真を見てしまった。


 これは……あの遠足の時の写真か。懐かしいな。


 それを飾っていた事を嬉しく思いつつも。俺はベッドを見た。


 ベッドは赤く、可愛らしいもの。そこには――



 天使が眠っていた。


「は? 好きだが?」


 え、何この子。え? は?



「クソ可愛いが? なんで寝顔も天使なの? 起きてても天使なのに? 女神なの? まつ毛なっが。はぁ(クソデカため息)は? 可愛いの化身か? 可愛いの辞書に=で彩夏とか載せないと気が済まないが? は? なんでこんなに可愛いの? 可愛すぎてキレそう(キレてる)え? この世にこんなに可愛い生物が居て良いの? なんでこんなに可愛いの? 唇ぷるっぷるすぎない? てか肌も白すぎてやばい。あとなんでそんなに可愛いの? 髪の毛サラッサラだし。え? クソ可愛いが? というか何。可愛さ全振りで生まれてきたって言われてもおかしくないのになんで他にも歌も出来るし色々出来るの? 努力してるんだろうなぁ。好き。めちゃくちゃ努力してるんだろうなぁ。大好き。可愛さを維持する為にも頑張ってるんだろうなぁ。超好き。実際努力してるもんなぁ。神好き。つか可愛すぎる。財布? 財布置いていけば良い? それともお金引き下ろしてきた方が良い? 円盤百枚買えば良い? グッズ使用と観賞用と布教用と観賞用の予備で全種揃えてるけどもう一周買った方が良い? 買うわ。絶対買うわ。つかなんでこんなに可愛いの? 神様どうしてくれてんの? 最高です。一生ついていきます。あー、好き。大好き」


(みーちゃんみーちゃん。それくらいにして。彩夏ちゃん気絶しちゃうから。あとちょっと気持ち悪いから)


 おっと。つい愛が溢れすぎてしまった。


 見れば、彩夏の顔が真っ赤になって唇がむすむずしていた。


 ……あれ? 起きてる?


「……す、すやぁ」

「良かった。寝てた」


 うん。寝てるな。寝ててくれ。聞いてたら死ねる。うん。余裕で死ねる。


(はいみーちゃん)


 やめろ! 頭の中にあの風呂に突撃された時のビキニ彩夏を写すんじゃない! 邪な目で見てしまうだろうが!


(約束を守らないみーちゃんが悪い)

 ぐぅ。


 それはそれとして、彩夏を起こそう。


「彩夏ー。朝だぞー」

「……む、むにゃ。すやぁ」

「可愛いの化身か? 録音して睡眠用八時間耐久作りたい」


 なんかどんどん彩夏の顔が赤くなっていってる気がするが。多分気のせいだ。


「彩夏ー?」

「す、すやぁ」


 起きない……本当に起きてないのか?


(ヒントあげよっか? お代は8みーちゃんになるけど)


 俺を取引の単位として扱うな。……教えてくれ。


(瑠樹ちゃんにしたのと同じこと、やってみよー!)

 は?


 ……は?


(やらないと起きないよ)


 まじで?


(それか多分えっちな事してたらそのうち起きるよ。耳元で「起きてるだろ」って言えば)


 出来る訳ねえだろ。


(じゃあやってみよー!)


 ……まじ?


(まじ)


 まじか。


(まじだよ)


 ……。


(まじだよ)


 ……まじかぁ。




 いや。普段なら笑い飛ばす所なのだが。最近の彩夏を見ていると冗談に思えない。


(冗談じゃないよ)


 ……だよなぁ。


 すやすやと眠っている(?)彩夏を見る。しっかりと首まで布団を被っていた。

 ぴくぴくと瞼が動いている気がするのは気のせい……ではないのだろう。



 やるしかないか。


(やっちゃえ! 三人ぐらいこさえちゃえ!)


 そっちの意味ではねえ。


 ふうと小さく息を吐き。顔を近づける。



 顔良ッッッッッッッ(蒸発)


 は?

 天使か?

 天使だ(確信)

 いや女神だろ(崇拝)


 まつ毛なっっが。肌すべっっっすべ。いや、触ってはいないが。触らなくても分かる。


(早くしないと後ろからどーんするよ?)

 いきなり姿を現そうとするな。質量保存の法則を守れ。


 覚悟を決めよう。


「……するぞ」


(なんかえっちだね)


 色々ぶち壊れるな。いや、助かるんだが。


(helpってhが付いてるからえっちだよね)


 どうした? 命の危機に瀕してるのか?


 ではなく。


 一度、呼吸を整えて――



 その額に唇を押し付ける。


「……おはようございます、未来さん」

「……おはよう。彩夏」


 ゆっくりと彩夏が目を開いた。そっと離れようとした時だ。


「逃がしませんよ!」

「彩夏さん!?」


 掛け布団を器用に使って捕ま――え?



 え?


 彩夏さん?



 え?



 え?



 なんで?



「なんで服着てないんですか!?」

「こ、これは……その! えい!」

 やばい。思わず固まってしまって彩夏に捕まった。

 やめて! 抱きしめないで! 当たる! 色々当たってる!


 そして、なんやかんやがあって。


 俺は彩夏と共に布団の中に入っていた。何があった?


(なんやかんやだよ)

 なんやかんやって言葉便利だな???


「あ、彩夏さん?」

「る、瑠樹ちゃんは寝る時。服、着てませんから」

「そそそそれはそうだが!」


 当たってる。生が。生が当たってる。推しの生が当たってる。


(やっぱり生しか勝たないよね)


 避妊はちゃんとしような!で はなく!


「……おっきくなってる」

「彩夏さん!!! だめです! そこはだめです! 汚らわしいですから! 切り落としてきます!」

「だ、だめです! それは!」


 むにゅりと。肩に柔らかいものが触れる。その黒い瞳が。俺を見据えて離してくれない。


「ぼ、ボクと。子供が作れなくなっちゃいますから」

「アッッッッッッ」


(みーちゃんが三途の川クロールしてる。ちゃんとターンしてきてね)


 ……。危ない。泳ぎが得意で良かった。


 落ち着け。

 おちちちつつけ。

 おちちけつ。

 だめだ。頭の中が煩悩で満たされている。


「と、とととりあえず落ち着こう」

「落ち着くのは未来さんでは?」

「ド正論パンチたすからない」


 やめて、好きになっちゃう! だれかたすけて。


 やばい。やばい。過去一やばいかもしれない。最近過去一が更新され続けてる気はするが。


 どうする?

 どうするのが正解だ?


(据え膳食わぬは男の恥だよ。みーちゃん)

 そ、そうか。そうだよな。そうはならないな。


 暖かい。柔らかい。頭がおかしくなりそうである。柔らかい。


「……ふふ」


 彩夏が笑って。しかしその手の力は緩めるどころか強くしていった。


「あ、彩夏?」

「ボク。未来さんが困った顔見るの、好きみたいです」

「彩夏?」

「未来さん」


 彩夏の顔が目の前に来て。こつん、と額が当てられ。鼻が当たる。


 文字通りのガチ恋距離である。ただでさえガチ恋してるのに、ガチ恋距離などされたら俺は超絶ガチ恋勢になるんじゃないだろうか。


(ちょっと何言ってるか分かんないかな)

 俺も分からん。


「な、なんだ?」

「ボク。未来さんの事が大好きですよ」


 至近距離で。全裸で。最推しにこんな事を言われて。


 正気で居られる男が居るだろうか。

 ……どうにか正気で居られるのは、十中八九あの二人のせいだろう。


「ふふ。ボク、やっぱり未来さんの顔。全部好きですね」

「……彩夏」

「ごめんなさい。意地悪しちゃって。ボクにも独占欲、あったんですね」


 その顔がずれて。ぴとっとほっぺたがくっつけられた。


 暖かい。柔らかい。すべすべしてる。


「ですが、ボクも我慢はしませんから。……今みたいに時々本気の誘惑、仕掛けますよ」

「……」

「ぼ、ボクといっしょに悪い子になるかどうかは、未来さん次第ですよ」


 耳元でそう囁かれ。ゾクゾクと背筋に何かが走る。


「ふふ。……愛してますよ、未来さん」


 頬にそっと。柔らかいものが触れる。


「じゃあ、沙良ちゃん達もボクと同じように起こしてくださいね」


 そうしてやっと――凄く名残惜しくも、体が離された。


 ふう、と長く息を吐く。





 ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ小悪魔彩夏ちゃん好きいいいいいいいいいいいいいいい


(彩夏ちゃん。ゴムがなくなるまでやった後に「外に出せば良い」って言いながらだいしゅきホールドしてきそうだよね)


 何もかもぶち壊してきたな?


(みーちゃんにだけは言われたくない)


 リビング零お前からの正論結構効くな。



 そうして無事(?)彩夏を起こす事が出来たのであった。

 あと二人である。……二人かぁ。耐えられるのだろうか。俺。

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