【五章開始!】俺の事が大好きな幼馴染と釣り合うよう努力していたら、あの時助けたアイドルが転校してきて学校が修羅場と化しています
第91話 みーちゃん! 今こそ「うるせえ! 良いから出すぞ! 無責任金付けするからな!」の使い時だよ!
第91話 みーちゃん! 今こそ「うるせえ! 良いから出すぞ! 無責任金付けするからな!」の使い時だよ!
「どう? 似合うかな」
「やべえくらい似合ってる。ちょっとびびってる。凄いな」
カーテンの奥から現れたのは日向である。
胸には大きなリボンが付いていて、薄いレースの付いた桃色のブラウス。真っ白な肩を出すオフショルダータイプ。
そして、真っ黒なスカートに赤いフリルが着いていた。
一言で表すと地雷系ファッションだ。
先程のゴスロリ服も似合っていたから当たり前なのかもしれない。めちゃくちゃ似合ってる。
ついでに言っておくと、メイクもしていてウィッグも新しいものを付けている。黒のツインテールだ。
先程よりは明るく、しかし闇の深そうな雰囲気が最高である。
「そ、そう? そんなに似合う?」
「めちゃくちゃ。いや凄いな本当に。どちゃくそ可愛いぞ」
「え、えへへ」
こちとらオタクである。二次元も好きだがレイヤーも好きだ。
(よし、じゃあ私も今度コスプレするね!【nectar】コス!)
本物の【nectar】が居るのによくやろうとするな。……似合いそうなのが癪だが。
心の中で会話しつつ、日向を見る。
いや本当に似合ってるな。本物のコスプレイヤーなので、当たり前と言えば当たり前なのだろうが。
目元は赤く、肌が全体的に白い。メイクのおかげなのだろうが。
「……男だよな?」
「……確認する?」
そっと日向の指がスカート部分にかかり、持ち上げられた。真っ白な脚が目に入り息を飲む。
「なんてね。……えっち」
「ぐ……はっ」
なんだ? なんだこれは。
(私達よりカップルっぽい事してるね)
言うな。やめろ。俺もちょっと思ってたんだ。
なんか日向。いや、この言い方が正しいのかは分からないが。
こう、女子力と言えば良いのか。高すぎないか?
別に零とか彩夏達が低い訳ではない。逆にかなり高い方だろう。
「ふふ。じゃあこれ買っちゃお。他にも何着か着るから、変だったら言ってね」
「わ、分かった。……変なのとかない気はするが」
そうして、日向のファッションショーは続いたのだった。
◆◇◆◇◆
一方その頃みーちゃん宅
「……へ、へぇ。未来、こういうの好きなんだ」
「おお。というかこれ、私達が見ちゃだめなやつじゃないの?」
「バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」
「れ、零ちゃんが悪い顔してますね。……勉強にはなります。ぼ、ボクもこんな風に」
「あ、貧乳ものもある。良かった。未来君を刺す事にならなくて」
「睡眠もの……こんなのまであるんですねぇ」
「な、なんか暑くなってきたさー」
「お兄ちゃんが最近お気に入りなのはこれね」
「じゃあどんどんみーちゃんの事を知って、いざという時が来たら喜ばせよー!」
「……? みんな何見てるのかな?」
「つ、つつじちゃんにはまだ早いから。ほら、私と隣の部屋行っとこうね」
未来の尊厳が破壊されようとしていたのだった。
◆◆◆
「はっくしゅん」
「み、未来? 大丈夫? はい、ティッシュ」
「ああ、ありがとう」
ポケットティッシュを貰いつつも、どうしたんだろうと肌を摩る。別に寒い訳ではない。もうほぼ夏だしな。
「ふふ。噂されてるんじゃない? 未来ってば人気者だし」
「……まあ。部屋で好き勝手やられてる可能性はあるな」
「それって普通にやばいんじゃ?」
「今更みたいなところはある」
どうせ見られてるのだ。堂々としよう。
(え? 許可降りた?)
降ろしてはいない。ダメとは言い続けるからな。あと説教はする。
(しょーがないなー。直近二週間以内のやつに留めておくね)
有料サイトの一番安めのサブスクか。
まあそんな事は……割と深刻だが。一旦忘れよう。
「それで、今どこ向かってるんだ?」
「んー、もうちょっとかな」
服を買い終わって。最後に行きたい所があると日向に言われ、俺は着いてきたのだ。
この辺は特に何もない、住宅街のようだが。何だろうか。
(みーちゃんみーちゃん。性癖選手権(ニッチVer)やろうよ)
一人でやれ。あとかっこの中にかっこを入れるな。紛らわしい。
(休日婚活行く時間もなくてお酒を飲むしか趣味がない女教師のボロボロになった肝臓!)
いきなりニッチすぎないか!? 興奮出来んのか!?
(憧れの人からシガーキスで火を付けられるシチュ)
種類は少ないが好き。そんなにニッチではないんじゃないか?
(しかも百合)
大好物です。
(見た目ロリの女教師が二十歳になった教え子に成人式を抜け出してこっそりやるシチュ。元教え子は卒業式の日に告白して大人になったらねって言われてる)
あ、破壊される。何かが破壊されて切り開かれる音がする。
「未来? どうしたの?」
「ああ、悪い。性癖を開拓されていた」
「ここで!?」
また新しい癖が増える所だった。危ない危ない。
「ま、まあ? 良いんだけどさ。良いのかな」
「気にしなくて良いぞ。悪いな」
「そっか。……ふふ」
日向が手で口を隠しながら笑った。一つ一つの仕草が色っぽく見えてしまう。
「未来って面白いよね」
「褒め言葉として受け取っておくぞ」
「褒め言葉だよ。ちゃんと」
日向が楽しそうに笑って、俺を先導するように歩く。
「未来は面白くて良い人だよ」
「……良い人、か」
「うん。僕が見てきた人の中で一番ね」
「そんなに褒めても金しか出せんぞ」
「いや、出さなくて良いから」
さすがに言い過ぎである。あといつもの貢ぎ癖が出てしまった。
(みーちゃん! 今こそ「うるせえ! 良いから出すぞ! 無責任金付けするからな!」の使い時だよ!)
お前は語呂だけで生きてるのか? いやそもそま生きてんのかお前は。
(え? 生きてるけど。出てきていいの?)
俺はまだお前を人間だと信じたいから出てこないでくれ。増えるな。精神の分裂ならまだ分かるが、肉体まで生成するな。
「あ、着いたよ」
「……ここが?」
「そう!」
そこは、住宅街を彩る家の一つ。
「僕のお家! というか、おじいちゃんの家なんだけどね」
一戸建ての住宅であった。
◆◆◆
一方その頃未来部屋
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……すごいね」
「ふふ。みんな集中して見てるね」
「星ちゃん達呼んでくる?」
「んー。後で見たそうだったら呼ぼっか」
相も変わらず未来の尊厳が破壊されていたのだった。
◆◆◆
「ただいまー」
「お、お邪魔します」
日向へ続いて家へと入る。思わず緊張してしまった。
「あ、今日はおじいちゃん達が健康診断でね。おばあちゃんとお父さんが付き添いで、お母さんしか居ないから。おかあさーん? 友達連れてきたよー!」
「はーい」
どたどたと慌ててこちらへ来る音が聞こえた。
「こんにちは! 貴方が日向のお友達ね!」
「は、はい! 蒼音未来と言います!」
綺麗で優しそうな女性が現れた。自己紹介をしてお辞儀をする。第一印象は大切である。
「あら、ご丁寧にどうも。ふふ。優しそうな子ね」
「うん! すっごく優しいんだよ!」
「あ、あはは。ありがとう、ございます」
やばい。何がやばいって。
普通の人だ。
普通の人ってどう話せば良いんだ。いや、普通の人などいくらでも居たはずだ。日向も普通よりだし。
(失敬な! そんな私達が普通じゃないみたいな!)
普通の人は自分の生霊を操ったりできねえんだよ。
さて、どう話そう。
(みーちゃん。落ち着いて。落ち着いて友達のお母さんもののおねショタを思い出すんだよ)
落ち着けてねえよ。お前が落ち着けよ。
というか別に話す事もないか。日向が居るんだし。
「……あ! ご、ごめん、未来。五分だけ待ってて」
「え? あ、ああ」
「準備出来たら呼ぶから!」
そう言って日向が廊下の奥の方の階段をどたどたと上がって行った。着替えや買った服などを入れていたカバンを揺らしながら。
日向のお母さんがそれを見届けて笑う。
「……ふふ。慌ただしいんだから。未来君、で良いかしら」
その言葉に頷きながら苦笑いをした。
どうしよう、と思いながらも。日向のお母さんが話しかけてくれた。
「驚いた? 日向のこと」
「驚きはしました。でも、良い趣味だと思います。俺は好きですよ。あっちの日向も」
お世辞などではない。本音である。
人の趣味にあれこれ言うつもりもないし、不快感などあるはずがない。
というか可愛いは正義なのだ。目の保養になるのだ。
(なら私も正義だね!)
ただし限度はある。
「良かった。未来君みたいな子が友達で」
「いえ。俺も日向が友達になってくれて嬉しいですよ」
豪以外だと初の同性の友人なのだ。……本当に同性なのか、数分に一回疑ってはいるが。
「日向、前の学校で色々あってね。良かったら気にしてあげてくれると助かるんだけど」
色々。
その言葉が気になった。少なくとも、良い事ではないのだろう。
「何があったのかは知らないですが、日向とは友達なので。何かあれば必ず力になります」
日向は日向だ。まだ知り合って間もないが。過去の事はどうでもいい。
本人が話したくなったら話してくれるだろう。その時はちゃんと聞くが。
(みーちゃんらしいよね)
普通の事だ。友達としてなら。
(ん。そういうとこ好きだよ)
ありがとな。
「ふふ。これはお母さんが気にしなくても大丈夫だったかな」
「いえ。言ってくれて助かります。何かがあるかも、という事は知っておくだけで対策にもなるので」
その時だった。
「未来ー! 二階の奥の部屋、入ってきてー!」
奥の方から日向の声が聞こえてきた。
「あら。じゃあおばさんも戻りましょうね。日向の部屋は行ったらすぐ分かるはずよ」
「はい。ありがとうございます」
日向のお母さんにお礼を告げて、俺は日向の部屋へと向かった。
二階の奥の部屋。【日向】と書かれたプレートが掛けられて居た。
その扉をノックして声を掛ける。
「入るぞ」
「はーい」
開けると――
「……日向?」
「どうかな。びっくりした?」
そこには制服を着た日向の姿があった。
制服、と言ってもいつもの姿ではない。
その胸元には小さな黒いリボンが付けられていて。
その下にはスカートを履いていた。
加えて、前髪を空色の髪留めで留めていた。
その姿は――本当に、同じ性別だと思えないくらい可愛くて。自然な立ち振る舞いであった。
「めちゃくちゃ可愛いな」
思わず存在しない記憶が溢れ出しそうだ。
(やってみる? 日向ちゃん幼馴染概念)
本気で概念を作ろうとするな。
「え、えへへ。変じゃない?」
「変とか言ってる奴が居たらはっ倒しそうなくらいには似合ってる」
「そ、そう? えへへ」
可愛い。
だが男だ。男なのだ。
「あ、下はニーハイなんだ」
「可愛さの極みか?」
これか。この場所が絶対領域か。JKではないが。もうほぼJKと言っても過言ではない。
「ちなみにタイツとかもあるよ」
「……ぐ。ちょっと見てみたいとか思ってしまう」
「ふふ。じゃあ今度見せてあげるよ」
「おお! やった」
(みーちゃん! 私もタイツ履く! さすさすさせる! 膝枕するもん!)
対抗するのか。いや、ちょっと気になりはするが。
(網タイツ履くもん!)
いや、網タイツは別に良いのだが。
(逆バニーするもん!)
流れ変わってきたな。
「ね、未来」
日向に名前を呼ばれて意識を戻す。
じっと。日向が俺を見ていた。
「あ、あのさ」
「なんだ?」
何か言いたい事があるのだろう。
少しだけ、手が震えているのが見えた。
「日向。その前にちょっと手借りて良いか?」
「え? あ、うん」
日向の両手を取って、自分の手で包み込む。俺の手より小さかった。
「昔から緊張してる時、零によくされてたんだよ。あったかいだろ?」
「……うん」
運動会。発表会。
俺は緊張しいで、よく体をかちこちにしていた。その度に零がやってくれたのだ。
(今だったらかちこちをもみもみしたらもっと固くなるもんね)
絶対株上げたくないウーマンか?
(照れ隠しだよ)
照れ隠しにド下ネタをぶち込むな。
(ぶち込むなって言うならぶち込んでよ! みーちゃんのミニガンを!)
毎分2000〜6000発は生物を超越した何かなんだよ。
というか良くないな。空気がぶち壊れである。
思考を落ち着かせるためにも、日向の手を揉み込む。
「ん……ふふ。ちょっとくすぐったいよ、未来」
「わ、悪い」
小さく笑った日向に思わず手を離してしまう。
……よくよく考えてみれば。
「すまないな。男同士だというのにベタベタ触って」
日向の格好などで完全に麻痺していたが、男同士なのだ。
それ以前に、異性ならば異性でそれなりに距離感はとらなければならない。零達で少し麻痺しすぎだ、俺。
「え? ううん、別に気にしてないよ。男同士っていうか、未来とだし」
首を振る日向にホッとする。
「ありがと、未来。気分解れたよ」
「ああ。良かった」
日向が少し離れて。くるりと一回転をした。
ふわりとスカートが揺れ、白い脚に目が行ってしまう。
日向が笑った。
「僕、この姿で学校行きたいんだ」
「おお、良いじゃないか」
普段の日向の姿も良いと思う。中性的でありながら、元気で話しかけやすい。
しかしこっちの姿もかなり似合っている。
「良いと思う?」
「ああ、めちゃくちゃ。男女どちらからも更に話しかけられるようになると思うぞ」
男子からはまああれとして。女子からも当然話しかけられるだろう。
「そもそも可愛いし。メイクも上手っぽいしな」
「ふふ。そうかな。そうだと良いな」
日向は笑って。背中を見せた。
「僕ね。前の学校で、スカート履いて。ちょっとだけいじめられてたんだ」
「……」
予想していた言葉に、俺は言葉は発せなかった。
「それがちょっとトラウマでね。……ほんと、最初に未来に言っておいて良かったよ。ううん。未来に会えて良かった」
振り返って、日向が笑う。こうして見ると美人でもある。
「怖いか?」
「……そうだね。ちょっと怖いかも」
「大丈夫だ、と言うのは簡単だな。それじゃあ――」
あれをするか。
「俺も一緒にすれば怖くないか?」
「……へ?」
一緒にする。それは当然、今の日向のような格好をする、という事でもある。
「零が……ああ、言ってなかったが、零の家はかなりのお金持ちでな。何故か俺の寸法にあった制服が全種類用意されてるんだよ」
本当に何故か。零。あれ。まだあるよな?
(あるよ)
ついでにメイクなんかを頼むのは?
(任せて。友達が幼馴染に女装メイクさせたいって言ってきて教えた事あるから)
ばっちりか。それなら良い。
「ほ、本気?」
「それで日向が怖くなくなるなら。そうでなくとも……あー。絶対に日向より俺の方が似合わないから。少なくとも日向がどうこう言われる事はなくなると思うぞ」
零ならある程度はどうにかしてくれるだろうが。日向より似合う自信はあるはずがない。
(んー。可愛くは出来るけど、日向ちゃんと比べちゃうとね)
ああ。分かってる。
(もちろん普通の女の子と見間違えるくらいには出来るよ!)
その時は頼む。その時があればな。
「で、でも! それだと未来が嫌な思いを……」
「ああ。大丈夫だ。いや、強がりとかではなく本当に」
俺に関しては大丈夫だ。
(私が居るからね)
ああ。お前が居るからな。また迷惑を掛ける事になるが。
(迷惑じゃないよ。みーちゃんらしいから。そういう所、大好きだよ)
ありがとな。
「零の強さを見くびらない方が良い。俺もちょっとした悪口くらい効かないからな」
(言わせないよ。みーちゃんの悪口なんて)
分かってるよ。日向を安心させるためだ。
それに俺だって、もう中学の頃の俺とは違うから。
「……未来」
日向はじっと俺を見て。名前を呼んできた。
「やばい。嬉しすぎて未来に抱きつきたくなっちゃった」
「なんだよそれ。……別に良いぞ」
わなわなと体を震わせ、そわそわと手を動かしていた。
俺の言葉に良いの? と目が尋ねてきて。頷いたら、じりじりと近寄ってきた。
「え、えい!」
そのまま飛び込んでくると、甘い香りが漂ってきた。
日向は小柄である。何度も疑っているが、本当に同じ性別なのか疑ってしまう。
それぐらいなんか良い匂いがする。あと柔らかい。ん? 柔らかい?
ほんのりと感じる柔らかさに。そういえば中学の頃から成長ホルモン的なものがおかしくなっていたと言っていた事を思い出した。
(多分それ、ちょっと違うけどね)
え?
(そのうち分かるよ。多分)
なんかすっごい不穏なんだけど。
「なんか。安心する」
「そうか?」
「ん。ぎゅー!」
言葉に出して、更に強く抱き締めてくる日向。俺と同じ以下略。
「ありがと、未来」
「……どういたしまして」
「でも、未来はやらなくて良いよ。僕がやりたいだけだから」
「良いのか? 本当に」
「うん。大丈夫だよ。ありがと。本当に」
未来が小さく呟いて。顔を埋めてきた。
そうしてこの日は、日向と更に仲良くなる事が出来たのだった。
その後家に帰って零達には二時間ほど説教をした。
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