第90話 連想ゲームドスケベ編階級八段の持ち主か?
「ふふ。未来様、楽しみですわね」
「そ、そうだな。楽しみだ」
あれから俺と日向はSNSで何かとバズっているカフェに来た。なんか映えるパフェやらドリンクがあるらしいのだが。
めちゃくちゃにカップルと女子高生が多い。そして、日向が目立つ……のはまあ、可愛いから仕方ない。
そうしていると、数分もしないうちに注文の品がやってきた。
「お待たせしました。『カップル♡専用もえもえ♡きゅんきゅん♡いちゃらぶ♡パフェセット』です!」
♡の付け方がネットのエロ小説なんだよ。迂闊に突っ込めないが。
「わ、わあ。凄い……こほん」
日向は一瞬戻りかけたが。その理由も分かる。
でけえ。
(お姉ちゃんのおっぱいとどっちがおっきいかな)
比較対象がおかしい。あとナチュラルにお姉ちゃん呼びするな。
しかし……本当にでかいな。
パフェは天高く登る竜のようにそびえ立っている。日向や俺の座高より大きい。頂点にはイチゴが乗っていて、その辺にもイチゴやイチゴ味のお菓子が乗っていたり入ったりしている。
そして、よくあるピンク色のドリンク。ハート型のストロー付きである。
「た、食べられるか?」
「心配なさらずとも。朝飯前でございます」
おお……凄い自信。
ちなみにこのカップルセット(カップル♡専用もえもえ♡きゅんきゅん♡いちゃらぶ♡パフェセットだよ!)長いからカップルセットな。
このカップルセット、一応同性同士でも頼む事は出来る。最近世の中が色々変わってきてるもんな。
なんか最後に写真撮らないといけないらしいが。まあ、問題ないだろう。
「それでは写真、お願いしますね」
「承りました、お嬢様」
つい雰囲気に乗せられて言ってしまう。日向は上機嫌であった。
……しかし。
「あー。俺ってカメラの技術とか何もないんだが」
「私もないので大丈夫ですわ」
「良いのかそれで」
「問題ありません。加工の技術はそれなりにありますので」
「なるほど」
さすがは現代っ子。いや、俺もそうなんだが。
最近のスマホは素人でも綺麗に撮れるから大丈夫なのだろう。
「加工いるか? って思うくらい可愛いよな。ほんと」
「え、え!?」
「ちょっと見ていいか?」
少しパフェをどけ、改めて日向を見る。
その睫毛は長く、肌も白い。唇も赤くぷるっぷるである。
もちろんメイクをしているから、なんだろうが。
「凄いな。やっぱりめちゃくちゃ可愛いな」
「ふぇ!?」
その鳴き声っぽいのすらも可愛い。本当に同じ性別なのか?
「か、可愛いって……」
「可愛いだろ。……本気でアイドルとかモデルとか目指せるんじゃないか?」
昨今は多様性の世の中であり、日本……というかネットだとかなり可愛いは正義となっている。
日向のように異性のコスプレをして人気になっている人も少なくないし。
「え、えへへ。そうかな」
可愛い。
(みーちゃんに抗議します! 私達にももっと感情を吐露するべき!)
しないです。
(なんでさ! もっと『このドスケベ幼馴染が!』『理解らせてやるよ。男の怖さを』とか言ってトロトロにしてよ!)
俺はそんな事言わん。
「とりあえず写真撮って食べるか」
「そ、そうだね……こほん。お願い致します」
(致します!?)
脳内中学男子かお前は。
日向からスマホを受け取り、何枚か写真を撮る。先程より日向の肌色が良い気がするが、どうしてだろうか。
「一つよろしくて?」
「なんだ?」
「未来様は間接キスなどがお嫌だったりはしますか?」
間接キス? ……あ。そうか。あれだもんな。一つのパフェを二人で食べるんだもんな。
まあ、鍋を複数人でつつくようなものだ。
「俺は大丈夫だ。日向は?」
「私も問題ありません。……それではもう一つ、お願いがありまして」
「お願い?」
オウム返しに返すと、日向は頷いて。
「あーんをして欲しいんですの」
「……え?」
一瞬聞き間違えかと思って。しかし俺はすぐに納得した。
「写真か」
「ええ。さすがですね」
「まあ、ここに来る理由は聞いてたしな」
確かに映えるだろう。この美少女にあーんをするのは。
しかし、一つ問題がある。
「燃えないか?」
「た、多分大丈夫ですわ。同性の方と行ったと言えば」
「それ、余計燃えるのでは」
いやまあ……大丈夫なのか?
(大丈夫だよ。みーちゃんに仇なす男が居たら生殖機能を消滅させるから)
怖い怖い。……しかもお前ならほんとに出来そうだな。
(致そうとする度に高校時代の生徒指導の教師の顔が出てくるプログラム組んだから。それ流し込めば簡単だよ)
おっそろしい事考えてんな!? つかプログラム!?
(だって嫌だし。知らない男の人がしようとしてるとこなんて見たくないし)
いや、それは俺もそうだが。つかプログラム組めんのかよ。
(慣れれば簡単だよ。あれよりは簡単だし)
あれってなんだよ。
(そのうち思い出すよ。多分)
何が、と言おうとして。日向と一緒に居るからこれ以上リビング零と話し続けるのは良くないなと思い直した。
「それじゃあするぞ」
「え、ええ……お願い致します」
少し溶けかけてきた、一番上を掬いとって。日向へとスプーンを向ける。日向は口を開け、目を瞑って待っていた。
……これ。
(エロいね)
言葉にするな。少しは躊躇え。
「……?」
「ああ、悪い。今口の中入れるからな」
(えっち!!!)
ちょっと黙ってろ。
何枚か写真を撮りながら、その口の中へとスプーンを運ぶ。
「……!」
口の中に入れた瞬間。日向が目を見開いた。すかさず写真を撮る。
(みーちゃんって盗撮の才能あるね)
アングラな場所でしか活躍できない才能など要らん。
「美味しい! 美味しいよ、未来!」
そして。日向はキャラを忘れて喜んだ。
そのゴスロリお嬢様風の見た目で元気に喜ばれるとギャップで脳がおかしくなりそうである。
(もう性癖はおかしくなってるから大丈夫だよ)
大丈夫じゃねえよ。何も。
「うんうん。いっぱい食べな」
上から掬い、口元へ運ぶとどんどん吸い込まれていく。子犬のようで可愛い。
(バター犬!?)
連想ゲームドスケベ編階級八段の持ち主か? 色んなところに怒られそうだからやめろ。
「あ、す、ストップ。まだ撮りたいのあるから」
「ん? 分かった」
しかし、途中で止められた。そして。
「こ、今度は僕……じゃない。こほん。わ、私がしますので」
「……え? い、いや」
「未来様は。私を撮ってください」
「あ、あー。そういう事か。分かった」
確かにそちらも需要があるのだろうと思い。俺は大人しく口を開けた。
「はい、あーん」
「ん……」
丁度良さそうな位置にスマホを持ち、主観視点っぽく写真を撮る。うん、可愛い。
(日向ちゃんばっかりずるい! 私も可愛いって言われたい!)
……確かに、日向が男だから言いやすくなってる節はあるが。
(私も男になる!)
そうはならんやろ。なるな。
そして、口の中に(真っ白な液体が入ってきた。ぬとり、ねとりと。甘くも苦いその感触は胸の奥を掻きむしりたくなるような)消される消される。勝手に地の文を付け足すな。
「ん、美味いな」
「美味しいよね!」
もう完全にキャラ崩壊である。可愛い。
そうして、残りは普通に俺達で食べ切れた。七割ほど日向が食べていたのだが。
その時――俺は思った。
「おかしい」
「おかしい……って何がでしょうか?」
「なんで俺達は普通にデート出来ているんだ?」
「でっ……でーと……」
そう。デート。
あいつらが邪魔してこないはずがないのだ。
「天井裏から妹が降ってきたり机の下に零が居たり……はないか」
「ど、どんな危惧してるの……?」
「ありえるんだよ。普通に。なんで普通にありえるんだよ」
店員に星や咲が扮装しているとか……もないな。
いや。居ないなら居ないでちょっと怖いんだが。俺の居ない隙に何かやってたりしないよな?
(古今東西みーちゃんの性癖ゲームやってるよ)
何してんだよ本当に。
◆◆◆
「【古今東西! みーちゃんの性癖ゲーム!】」
「いえええええええええええい!」
「古今東西があまりにも局所的すぎるっしょ」
「というか二人に勝てる気がしないし」
「未来君の性癖。私ならまだ戦える! この盗撮フォルダがあれば!」
「当たり前のように盗撮してんじゃん静」
「ぼ、ボク! 頑張りますよ!」
「いや、彩夏もやる気出さなくていいから」
「わ、私だって頑張るよー!」
「すやすや」
「みく君の性癖?」
「みーちゃんが好きな事って意味だよ」
「へえ……お姉ちゃんはよく分からないから、明後日学校で聞いてみようかな」
「やめてあげて。未来が倒れる事になる」
◆◆◆
パフェを食べ終え。日向はお手洗いに行っている。その間待っていたのだが……凄く居心地が悪いな。カップルかJKしか居ない。
早く来ないかなと待っていると。凄い美少女が歩いてきた。
真っ白なワンピースを着た――いや。この人。
「日向だな?」
「よ、よく分かったね」
「いや、今回は割と日向していたからな」
日向である。先程よりは日向と分かりやすい。
髪も日向の地毛だし、顔は……メイクをされているものの日向だと分かる。
「ワンピース、良いな。似合ってる」
「あ、ありがと……」
「それにしても、どうして着替えたんだ? あっちも似合ってたが」
ゴスロリもかなり似合っていた。というかこの様子だと何でも似合うだろうな。コスプレも似合っていたし。
「んー……なんか未来の前だとキャラ保てなくて。ほんとはもう少しあの服着ておきたかったんだけどね」
苦笑する日向に先程の事を思い出し……少し申し訳なく思った。
「なんか悪いな」
「ううん。未来のせいじゃないよ。ほんと……僕もなんでなのか分からないから」
「そう、か」
しかし、なんにしても日向が来たのだからいつまでもここに居座る訳にはいかない。
「行くぞ、日向」
「うん! あ、その前に。写真撮影あるって言ってたよね」
そういえば。カップルの証明だったか?
「確か手つないで写真だったはずだよ」
「おお。簡単だな」
日向が店員さんを呼び止め――
「お、お客様。まさか先程の……? いえ、申し訳ありません。実はですね。つい昨日から証明方法が変わってしまいまして」
そんなことを言われた。あと日向の変貌具合にめちゃくちゃ驚いていた。
「そうだったんですか? それなら僕たちは何を「キスです」はい?」
え?
「キスです。ほっぺたにちゅっと」
え?
……え?
キス?
「…………ほ、他に方法があったりは」
「申し訳ありません。規則なので。写真に撮るのが恥ずかしければ私達に見せて貰うだけで構いませんよ。一応メニューにも書かれていましたが」
店員さんに言われてメニュー表を見返した。……小さく書かれていた。【カップルの証明方法はキスの撮影になります】と。
いや、まあ。こななキラキラした所に来るぐらいのカップルならばキスの一つや二つ簡単なのかもしれないが。……いや。これも良くない偏見だな。
まあ、何にせよここでごねる訳にもいかない。
日向が目配せしてきて。俺は頷いた。
「……写真お願いします」
撮るんかい、と言おうとして。まあ、別に良いかと俺は日向へ近づいた。
同性だから。……問題ないよな?
(えっちなのでセーフ)
基準が分からん。
そして、店員さんが合図をし――
頬に柔らかく、暖かいものが触れた。
ちくしょう。なんでだよ。なんでこんなに良い匂いがするんだよ。
一瞬の事……そのはずなのに。やけに長く思えた。
「はーい、ありがとうございまーす!」
店員さんの言葉にホッとし。……しかし、頬に当たる柔らかい感触は消えない。
「日向?」
「……! ご、ごめん。未来のほっぺた、やわらかくてつい食べたくなっちゃって」
「んな事……ああ、そうか」
零によく化粧品だなんだと塗りたくられるからだろう、多分。肌荒れなんかあまりしないし。
そんなやりとりをする俺達を見て、店員さんが笑っていた。
「熱々ですね」
「は、はは。そうですねー」
ここに来て違うなどとも言えない。
「ありがとうございましたー」
そうしてやっと、俺達は外に出た。
なんかやけに顔が熱い。
「つ、次はどこに行くんだ?」
「そ、そうだね。服ちょっと見に行きたくて。未来が良ければ、そのあと来て欲しいところがあるんだ」
少しだけ気まずい空気が流れつつも。俺は頷いた。
「分かった」
そうして。デートはまだまだ続――
え? 続くの? なんか零達と居るよりラブコメしてないか?
(ちなみに私達はみーちゃんの性癖鑑賞会してるよ。去年みーちゃんが買ったやつねもくし)
そっちもそっちでなにしてんだよ。本当に。
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