第85話 私も破壊力凄いけど? 性癖破壊力とか

「み、未来! ちょっといいかな!」

 教室の入口の方に居たのは日向であった。


「ああ。という事で行ってくる」

「行ってらっしゃい。ご飯食べてくるならちゃんと連絡してよね」

「社会人三年目で結婚二年目の夫婦か」

「やけに具体的だね……」


 とりあえず咲達に離れてもらい、日向の所へ行く。

 日向はこっち来てと言わんばかりにちょこちょこ歩き始めた。ほんとに男なのか?


(みーちゃん。男の子と男の娘は性別が違うんだよ。最近ジェンダー関係は燃えやすいんだからしっかりして)


 初めて聞いたよ。言いたい事は分かるが、人のプライバシーをガン無視してる奴に言われたくねえよ。


「……どこまで行くんだ?」

「えっと、あんまり人が居ないとこ」


 そうして連れてこられたのは裏庭である。菜園部が野菜とか育てている畑の近く。


「この辺で良いかな」

「何の用だったんだ?」


 あまり人に聞かれたくない話なのだろうが……想像がつかない。


 ――いや。この前のアレか?


(これだね)


 やめろ! 脳内に直接画像みたいに送り付けるな!


(縞パンってえっちだよね)


 それは分かるが!


 ……いや、落ち着け。日向は男だぞ? さすがに男に欲情なんてしないぞ? 俺。


(でも日向ちゃんにも穴はあるんだよね)

 穴言うな。つかさっきジェンダー云々言ったのお前だろうが。一番センシティブな所に突っ込むな。

(一番センシティブな所に突っ込む!?)

 もう無視するからな。


「え、えっとね。話っていうのは……その」


 もじもじとしながら顔を赤くする日向。その姿は男には見えない。めちゃくちゃ可愛い。


(だが男だ!)

 俺に言わせろよ。


「こ、今週末。二人で遊べないかな」

「……今週末?」

「う、うん。どう、かな。……ちょっと、相談したい事というか。色々と改めて話をしたいんだ」

「別に構わないが……」


 どうせ暇である。いや、暇ではないのだが。気がつけば誰かしら家に来てるしな。


「ほ、ほんと!?」

「ああ。用事とかないしな。……あー。いや、ない事もないが。まあ、今すぐやる事ではないし」


 彩夏達の家に行く事とか静が来て欲しいとか星がまた家に来て欲しいとか言ってたが。いややる事多いな!?


 ……まあ。少しずつその辺はやっていこう。


「やった!」


 日向はガッツポーズをして嬉しそうにする。うん、こういうのはなんか良いな。嬉しそうにしてる人を見るとこちらまで嬉しくなる。


(私もみーちゃんの悦ぶ姿みたらムラムラするし。一緒だね)


 祓うぞ。


「どこか行くのか?」

「あー。えっとね。……一応、デパートとか行く予定だけど。その前に一つ言っておきたいんだ」


 日向がそう言って一歩近づいてくる。ふわりと花のように甘い匂いが漂ってきたけどなんで?これって女の子の特権じゃないの?


 日向は背伸びをして、俺の耳に口を寄せた。


「あ、待っ」

「その時。僕の姿、見ても笑わないで欲しいんだ」

「あひゃん」

「……え?」

「気にしないでくれ。耳が弱いんだ。変態が服を脱いだような奴に昔から開発されててな」

「……え?」


 いや今のは俺もおかしかったな。なんで俺は最近出来た友達に耳が開発されてる事を伝えてんだよ。


(場合によってはBSSだね)

 やめて、吐きそう。両片思いだと確信していたのに女の子の方が裏で大学生彼氏に実は開発されてた展開は俺に効く。効くから。


(みーちゃんは開発する側だけどね)

 した事ねえわ。……ないよな?


「ま、まあいっか。ごめんね、話はこれだけなんだ」

「ん? ああ、分かった」

「そ、それじゃあまたね!」


 そう言って走り去る日向。そういえば、見ても笑わないでとか言っていたが……


(なんだろ。極小マイクロビキニとかで来るつもりなのかな)

 露出狂でもちょっと躊躇うレベルなんよ。それは。


「まあ、その日が来れば分かるか」


 とりあえず今は良いかと、俺も教室に戻るのだった。


 ◆◇◆


 とある中学の教室にて。


「ああああああああああ!」

「ど、どうした蒼音。悪い夢でも見たか?」


 一人の頭がおかしい女子生徒が叫んでいた。教壇に立っている五十代くらいの先生が驚きながらもそう聞き返す。

 即座にそう返す事が出来たのは、長年の経験からだろう。


 しかし、蒼音の鬼気迫る表情を見て、先生はいつものかと呆れた顔を見せ始めた。


「お兄ちゃん成分が不足しています! 先生! 帰宅許可を!」

「という事で次の問題な。片山、解いてみてくれ」

「はーい」


「おにいちゃああああああああああああああ」

「うるさいぞ、蒼音。そのお兄ちゃんとやらと三者面談してやろうか」

「お願いします!!!お兄ちゃんの拳骨がそろそろ欲しかった所です!」

「その次の問題は白雲が解いてくれ」

「ういーっす」

「おにいちゃああああああああああああああああああああん! おにいちゃんがほしいよおおおおおおおお」


 今日もクラスは平和である。約一名と頭を痛めている教師を除いて。


 ◆◇◆


 すごく背中に悪寒が走った。


「どうかした? みーちゃん。温めてあげよっか? 人肌で」

「やめろ。授業中だぞ」

「大丈夫大丈夫。退学しても養っていけるから。親の金で」

「過去一最低な発言が来ちゃったよ。てかお前親に頼る系は一番嫌だったろ」

「最近はいかに親のスネを齧ってみーちゃんをヒモにしようか考えてるよ」

「頭良いんだからもっと他のところに活かそうよ。あの人達的にちょっとやりかねないのが怖いよ」


 こんなやり取りをしているが、ガッツリ授業中である。そろそろまた怒られそう。


「……ねえ。色々元気そうだとは思うけど大丈夫なのかな? 寒気って風邪とか引いてない?」

「え? 聖母?」

 零とは反対の席に居たつつじさんに普通に心配をされた。零の対応との高低差で風邪を引きそうである。


「む……ぼ、ボクだって心配してたんですよ?」

「アッ」

「み尊蒸」

「略すな」

 相変わらず俺の最推しが尊すぎて辛い。前に居るからギリ聞こえるくらいでボソッと呟くのもポイントが高い。


「それと、あまり気にしなくて良いぞ。多分新……俺の妹がいつも通り何かやらかしてるだけだ」

「……? どうして分かったの?」

「どうしてって……え、待って怖い。なんで分かるの俺。零かよ」

「零ちゃんってなんなのさ……」

「さてな」


 まあ新だし。今更何があってもおかしくないし受け入れるだろう。


(わーい! お兄ちゃん! じゃあ私もここに住み着くね!)


 ただしリビング新。テメーはダメだ。


「零。塩ってある?」

「清めたやつならあるよ」

「なんであるのさ……」


 星が後ろでツッコんでくれるが、さすがに先生に睨まれたので普通に授業を受ける。


 ノートを取っていると、視線を感じた。隣から……零からの視線は四六時中の事なので無視するとして、その反対からである。


 ふとそこに視線を向ける。つつじさんと目が合った。


 つつじさんがニコリと笑う。は? 死ぬが?


 やばいな。初恋そっくりの顔で微笑まれると破壊力凄いな。


「むむ。私も破壊力凄いけど? 性癖破壊力とか」

「初めて聞いたよ。性癖破壊力って単語」

「ふふふ……これからも壊してあげるからね」

「やめてください」


 ガチトーンで否定しても零にはノーダメである。なんなら回復する。


(ふふふ……口は反抗的だけど心は正直だね)


 くっ殺系同人誌の竿役みたいな言い方をするな。


「むむむ……これは少し女子会を開かないといけなさそう」

「……まあ。やるって言うなら参加するけど」

「私も参加するよ」

「ぼ、ボクも。沙良ちゃんと瑠樹ちゃんにも話しておきますね」


 俺を挟んで聞こえてくる不穏な会話は無視したい。何も考えたくない。


「ふふ。みく君の周りは賑やかで楽しいね」

「捉え方がポジティブすぎる」


 俺も見習いたいものだ。騒がしいとか喧しいとか色々あるだろうに。


 ……俺らめちゃくちゃ迷惑だな。さすがに自重しなければ。


(そう? みんな結構楽しそうだけど。特につつじちゃん)


 だが、授業妨害なのは合ってるはずだ。お前も少し自重してくれよ。


(はーい。みーちゃんのそういう所も大好きだよ)


 はいはい。


 そうして、無事学校での一日を終えたのだった。


 ◆◆◆


「うおおおにいちゅゎあああああああああん!」

「うるさい。外で叫ぶな」

「中でなら喘いで良いって事!?」

「一人だけ家に帰らせてやろうか」


 新の中学へ向かっていると、向こうから新が走ってきた。


「それと紹介しとくぞ。あー。俺と零が保育園の頃お世話になっていた先生の娘さんで、転校生の柳つつじさんだ」

「出たな! お兄ちゃんの初恋を泥棒猫した柳先生の娘!」

「ドストレートに言うのやめてくれないかな!?」

「お兄ちゃんは渡さないからね! お兄ちゃんは私のお兄ちゃんでお兄ちゃんがお兄ちゃんでお兄ちゃんのリトルお兄ちゃんはビッグお兄さんだからね!」

「お兄ちゃんって一週間分言われたよ。あとサラッと何言ってくれてんの?」

「ナニだよ! お兄ちゃんの!」

「お兄ちゃん悲しいよ? 妹がこんなふうに育って」

「えへへ」

「褒めとらん」

「ふふ。仲良しなんだね、二人とも」

「はい!」

「どこをどう捉えたらそんな結論に…………まあ。そう見えなくもないか」

「お兄ちゃんがデレた! これはもうプロポーズにおっけーしたって認識で良いよね!」

「良くない。あといい加減離せ」


(説明しよう! 今あーちゃんはみーちゃんにぎゅーってしてるのである! 説明終わり!)

 なんで説明したんだよ。今。


「やだ! このまま合体する!」

「やめて!? 周りの人すんごい目で見てきてるから!」

 どうにか新をひっぺがし、長く息を吐いた。


「……一応コレが俺の妹だ。うん。普段からこんなノリだ」

「兄妹って良いよね。みく君もちゃんとお兄ちゃんしてるんだ」

「その感想が出てくるのすごいな……」


 まあ良いか。思えば柳先生……蓮美さんも俺と零のやり取りを微笑ましそうに見てたし。血筋みたいなものだろう。


「という事だ。新。改めてちゃんと挨拶してくれ」

「はーい! よろしくね! つつじちゃん! 私の事は気軽に呼びたいように呼んでね!」

「うん、分かった。よろしくね、新ちゃん」



 そうして無事に顔合わせも済ませ。つつじさんの家に行く事になったのだった。


 ――色々あるが、最近は落ち着いてるなぁ。とこの時の俺は呑気な事を考えていた。

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