第72話 みーちゃんみーちゃん。『孕めっ♡みーちゃんッッ♡』ごっこしよ

「みーちゃんみーちゃん。起きて。新しい朝が来たよ。性欲の朝だよ」

「そんな歌は……無い。寝起きで突っ込ませるな」

「突っ込むのは肉棒だけで十分だもんね」

「やかましい……」


 寝起きから消費カロリーが多い。俺は伸びをして目を覚ますと。目の前には零が居た。珍しく服を着ている。珍しいってなんだよ。


 ……しかし、何か違和感がある。零のシャツ、やけにピッチリしている……?


 ……あ。


「気づいた? みーちゃん」

 零が俺の手を取り。その胸に押し付けた。



 ふにょんと。暖かくも柔らかかかった。


 ――そう。これ、絵だ。ボディーペイントと呼ばれるものだろう。


「なんでこんなに手の凝った事やってんの? 性癖大拗らせ大会にでも出てるの? 決勝進出確定だよ?」

「決勝戦では金箔を貼り付けて来るね」

「やめろ。これ以上俺の性癖をねじ曲げるな」


 余りにもニッチがすぎる。その性癖は。


「……というかそれ。どうやったんだ? まさか自分で描いたのか?」

「だいせーかい! 上手くない?」

「才能の方向音痴なんだよ。もっと有意義な事に使え」

「えー? 確かに徹夜しちゃったけどさ」

「寝ろ。今ここで」

「そ、そんな……みーちゃん。同衾しようだなんて」

「言っとらん。……はぁ。体調にだけは気をつけろよ」

「はーい」

「あと今すぐ風呂に入ってこい」

「ま、まさかみーちゃん「もう突っ込まんぞ」ちぇー」

 という事で。マネージャー代理生活二日目が始まった。


 やる事は昨日と同じだ。ただ、今日の収録は夕方と夜の境界線の六時からだ。授業が終わってから向かっても間に合う。


 手早くご飯を食べ……る前に零をあしらい。着替え……る前に零を追い出し。


 田熊さんと共に瑠樹の家へと向かった。


 当然電話は出ない。


「……それでは行ってきます」

「はい、お気をつけて」


 流れとしては昨日と同じだろう。……さすがに服は着てるだろうし。着てるよな?


 そう願いながらも瑠樹の居る部屋へと入り……寝室を目指す。昨日も思ったが、やはり広いな。


 まあ、人の家をジロジロと見るのも失礼だろう。俺は急ぎ足で寝室へと向かう。


 一応電話をかけたり、扉をノックしたりするが……返事はなかった。


「入るぞ」

 そう言って入ると……当然と言うべきか。


 瑠樹は布団にくるまってすやすやと眠っていた。は? くそかわ(略)


 ……ちなみに服を着ているのかどうかは分からない。首までしっかりと布団を被っているから。こんもりと山のようになっている部分はあるが。


 その肩を揺する。


「朝だぞ、瑠樹。起きろ」

「すやすや」


 しかし起きない。その後も、何度も名前を呼んでも。肩を揺すっても。ぷにぷにの頬をつついても起きなかった。


「やはりするしか無いのか……? だがな……」


 他に方法は無いだろうか。

(思ったんだけどさ、みーちゃん)

 何かあるのか? 考えが。

(うん。挿入れてみたら起きるんじゃないかなって)

 却下で。

(なんでさ!)

 逆になんで受け入れると思った?

(だって、みーちゃんの好きな本の中に睡)ああもう! 分かった! いや分かってないが! とにかくそれは言うな!

(はーい)


 ……はぁ。しかし。やるしかない。一度も二度も同じだ。……いや、三回目だったな。人様の高校で寝ている女子にキスしたのって冷静に考えなくてもやばいな。


「……とりあえず起こすか」


 腹を括り。俺はすやすやと天使のような寝顔を見せる瑠樹の額へと。唇を押し当てた。次の瞬間。


 ガバッと。俺は捕まった。



 え? 今何が?


 完全に頭の中が真っ白になる。


「……捕まえましたよ」

 俺は今、布団の中に引き込まれている。……全裸の瑠樹に抱きしめられているのだが。



 ここは布団の中だ。掛け布団の中で……瑠樹に抱きしめられる。やばい。最近やばいしか言っていない気がするが。とにかくやばい。


 布団のせいで瑠樹との距離感がかなり近い。密閉された空間だと余計意識をしてしまう。


 あと匂いが凄い。めちゃくちゃに甘い香りがする。甘いと言っても、甘ったるいものではない。どこか眠りたくなるような匂い。なんで女の子ってこんなに良い匂いがするんですか?


(しかも一日熟成女子高生アイドルのお布団香だもんね)

 怪しいサイトで売られてそうな言い方をやめろ。


「と、というか瑠樹。起きて……いたのか?」

 すぐ目の前にあるドエッチなそれを見ないようにしながら。瑠樹へと尋ねる。落ち着けマイサン。


「いいえ? 今起きたばっかりですよぉ」

 そう言いながらも。眠たげな瞳はしっかりと俺を見ていた。


「だから、昨日いっぱい考えたんですよぉ。どうやったら未来マネージャーに好きになってもらえるかって。最初はファンの人に聞こうと思いましたけど……」

「死ぬ死ぬ。俺死んじゃう」

「……彩夏ちゃんにもそう言われたので辞めました。それで、彩夏ちゃんに聞いたんです。未来マネージャーはおっぱいに弱いって」

 彩夏……なにしてくれてるんですか。


(えいっ)

 やめて!? 瞬きする度に昨日の彩夏の姿見せるのは!?


「見た通り……本当に効果がありそうです」

「いいいいや? 無いが?」

 思わず声が震えてしまったが。どうにか否定する。


「……でも、ここが大きくなってるのは嬉しい証拠だって彩夏ちゃんが言ってました」

「彩夏!? なにやってんのお前!? ほんとに!? あと脚でグリグリしないで!」


 というかこの位置はまずい。そう思って身を捩ると。


 すぐ目の前に瑠樹の顔があった。


「えへへ……ちゅー」

「あっぶな!?」


 瑠樹に抱きしめられてキスをされそうになった。唇に。どうにか避けたが。


「むぅ……どうして避けるんですか?」

「どうしてもこうしてもあるか」

「仕方ありませんねぇ……それなら」

「うおっ」


 俺は頭を瑠樹の顔のすぐ横に持っていかれる。そして。囁かれる。





「私に子供の作り方、教えてください」

「ピギッ」


 リアルASMR。しかもアイドルの。加えると推しでもある。やばい。やばいやばいやばいやばいy(お乳吸って、みーちゃん)もう原型がねえんだよ。落ち着いてだろ。


「……わぁ、もっと固くなりました!」

「お、教えません。彩夏か沙良……いや。プロデューサーぐらいから聞いてくれ。頼むから男子には聞かないで……」

「えぇ? でも彩夏ちゃんが「彩夏!」」

 思わず叫んでしまった。

 瑠樹がうぅ、と呻く。

「耳が……」

「あ、悪い。大丈夫か?」

 すぐそこに耳がある事を忘れていた。思わず瑠樹の耳を撫でる。


「ひゃうっ」

「あ……すまない」


 瑠樹が可愛らしい声を上げた。勝手に耳を触ってしまった事を謝ると……瑠樹は笑った。


「……びっくりしただけですよ。もっと触ります?」

「……触らない」

「まあまあ、そう遠慮なさらず」

「お前って結構豪胆だよな……ほら、朝食の準備するぞ」


 そうしてどうにか、瑠樹を起こし、ご飯を作り。学校へと向かわせた。


 その後は沙良の家へと向かい、無事学校へと送り届けたのだった。


 ◆◆◆


「みーちゃんみーちゃん。『孕めっ♡みーちゃんッッ♡』ごっこしよ」

「懐かしいな。この混沌具合。やらん」

「えー? じゃあ逆レごっこしよ。みーちゃん。ロープとアイマスク、あと猿轡はこれて」

「なんであるんだよ。ごっこで済ませるつもり無いだろ」

「じゃあ中出「やらん」」



 学校に着くなりこれであった。加えて言うと、零は座っている俺を後ろから抱きしめる形になっている。


「やろうよー! 学校でバレないよう対面座位しようよー!」

「声がでかい! あとバレないはずが無いだろ!」


 と言ったやり取りをしながらも。ホームルームの始まりを告げる鐘が鳴り、授業が始まる。零は最後までくっつこうとしてきたので引き剥がした。


 そして、短い日常を過ごしたのだった。


 ◆◆◆


 また、彩夏達を送り届け。生で推しが活躍する場面を見て泣きそうになりながらもどうにか見届ける。


 撮影が終わると挨拶回りだ。今日はバラエティ番組のアイドル枠だったから、前よりは時間がかかる。……はずなのだが。


「……長いな」

 想定より時間がかかっている。思わず時間を確認してしまう程に。


「少し様子を見て来ます」

「はいよ。私も行った方が良いかい?」

「……そうですね。いえ、やっぱり大丈夫です」

「分かった。それじゃあ待っとくよ」


 車の前にプロデューサーを置いていき。俺はまたテレビ局に入る。


 すぐに三人は見つかった。あれは……


齋藤丸吉さいとうまるよし?」


 齋藤丸吉さいとうまるよし。最近流行りの高校生俳優である。歳は知らん。……彼は……彩夏と話をしていた。



 少しだけ心がモヤついた。いや、そりゃな? 推しがイケメン俳優と話してたらモヤッとはするよな?


 そう心の中で言い訳をしながらも。三人へと近づく。



「あ、未来さ……未来マネージャー」

「申し訳ありません、齋藤様。【nectar】の三人は少々時間が押してまして」

 彩夏達が俺に気がついたようだが。俺は齋藤丸吉に話しかける。


「あぁん? 誰だい、キミ。見慣れない顔だけど」

 は? 俺もちゃんと楽屋前で挨拶したが?


 という言葉は飲み込み。俺は頭を下げた。


「申し遅れました。私は【nectar】のマネージャー代理を務めております。蒼音未来と言います。どうぞお見知り置きを」

「ああ、そう」

 イラッ☆


 思わずイラッとしたのはさてあき。……テレビで見る時と随分対応が違うな。まあ、若くして有名になったらそうなるものか。俺も気をつけよう。


 しかし。齋藤はあろう事か、また彩夏と話そうとした。

「そんなことよりさ。そろそろ連絡先交換しとかない? 今日みたいにまた一緒にやる事もあるだろうしさ。それに、実は東京に美味しいスイーツ屋さんが出来たんだよね。一緒に行かない?」


 イライラッ☆


 話聞いてたのかこの我儘ボーイが。と言おうとしたが留まる。

(我儘ボーイと我儘ボディーで韻踏めるよね)

 最近時々SNSで見かける謎リプを飛ばしてくる奴と同じ事をするな。我儘が被ってるし韻もそんなに踏めてないだろ。


「え、えっと、すみません。公私は切り分けるようにとプロデューサーから言われてますので」

「んー? じゃあ仕事関係なしにさ。遊ぼうよ」

 イライライラッ☆


 さて。そろそろどうにかしなければならない。


「申し訳ありません。本当に時間が押してますから」

 俺がそう言うと。齋藤はわざとらしく舌打ちをした。そこで、俺はふと思い出した。


 齋藤……齋藤? どこかで聞いた事あるな。いや、よくある苗字なのだが。気に入らない事があればすぐ舌打ちをするのもどこかで見たような……?


「ま、そういう訳です。瑠樹の門限も近いし行かせてもらいますよ。齋藤さん」

「……しょうがないなあ。ああ、でも。彩夏ちゃん。最後に一つ良いかな」

「……はい。なんでしょうか」

 また彩夏の機嫌が悪くなってる。だが、人柄が良いからか素直に返事をした。


「今度の月9、俺が主役なんだけど。ヒロイン役に彩夏ちゃんどうかな?」

「――すみません。事務所の方針でそういうものはお断りしていますから」

 スっ、と。彩夏の目が細くなった。切れ長の瞳が更に鋭く。齋藤を貫く。……しかし、その視線に気づかないまま俺の方を見た。



「ねえ、キミ。……あー。代理さん? どうかな。彩夏ちゃんをドラマのヒロインにするのは。またとないチャンスだよ? もう来ないかもしれないよ?」


 ……こいつ。俺がそんな軽い気持ちで許可を出すとでも思ったか?


「申し訳ありません。齋藤様。仕事の話はプロデューサーを通していただく規則となっておりますから。私の方からはなんとも……それでは。失礼します」


 そうして半ば無理やり会話を終わらせる。多分大丈夫のはずだ。


 齋藤も不満そうな顔をしながらもそれ以上は突っ込んでこないし。……というか、やはりどこか見覚えがあるような気がした。

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