第71話 俺の脳内はパニックである。(股間もパニックである)

「ど、どうですか……?」

「に、似合ってる……かな」


 俺の目の前には。二人の美少女が居た。


 まず一人目。彩夏だ。エッッッッッッ!? エッッッッッッ!?


 脳が。脳が焼き尽くされる。エッッッッッッ過ぎて溶ける。



 ……お、落ち着こう。そうだ、深呼吸……。


 いやドスケベすぎるだろうが!


 彩夏は……ビキニである。しかし、普通のビキニでは無い。



 胸を覆い隠す部分が四角い長方形の……マスクのような形をしている。眼帯ビキニ、と言うんだったか。

 しかも小さい。彩夏の胸の上乳も下乳も横乳も出ている。

 そして、サラッと流したかったが下もやばい。


 太腿の付け根まで見える。大事な所がギリギリ隠されている程度の布地しかない。


 エッッッッッッ? エッッッッッッ?


 やばい。鼻血が出そうな程にやばい。


 落ち着こう。次に……咲だ。


 咲は上はビキニタイプの白い水着。そして、腰にパレオを巻いていた。所々に深いスリットは入っているが。普通のタイプの水着。


 ああ、良かった。普通にめちゃくちゃ可愛い。股間に優しい。この評価はちょっと酷すぎるな。


「……なんか不本意な評価得られてそうだけど。未来、ちょっと手貸して」

「……?」


 咲に言われて俺は手を出した。……すると、咲は俺の手を取り。いきなり。



 パレオの中に手を突っ込ませた。それだけでも驚くのだが。なにより。



 手に、今まで触れた事のないような。ぷにぷにとしたものが当たっている。


 俺の脳は固まった。数秒程。




 そして、俺はハッとなる。


 嫌だ! 現実を見たくない!


 最悪最高の想像をしてしまう。顔を真っ赤にした咲が俺を見て。口を開いた。




「し、下。履いてないんだよ」

「ふんどぅればぬんとょ!?」


 思わず声にならない声が出た。いやもう、だって。そうなっても仕方ないです。


 多分そろそろ俺死ぬと思う。一生分の運を使い果たしたよ。絶対。


(大丈夫。死ねないよ、みーちゃんは)

 死なないじゃなくて死ねないって辺り怖すぎませんか。


「……えいっ」

「彩夏さん!?」

 いきなり彩夏が抱きついてきた。俺の脳内はパニックである。

(股間もパニックである)

 言わないでくれる!?

「……か、可愛いですか?」

「神をも掌握できる可愛さです」


 つい条件反射で口を滑らせてしまった。……しかし、彩夏は気持ち悪がる事無く笑った。


「それなら……良かったです」

「……ね、未来。私は?」


 咲が近づいてきてそう言ってきた。正直、こういう事を言うのは苦手なのだが。

(みーちゃん。五秒前の自分の発言を振り返って)


 そういえばそうだな……。


 だが、こういうのは何度も言い続けては言葉が軽くなってしまうのでは……という考えを押し潰す。


 それはただの言い訳に過ぎない。言葉にしないと伝わらない事は多いのだから。


(ん。私はみーちゃんのそういう所、好きだよ?)

 ……ありがとうな。



 さて。いつまでも咲を待たせる訳にはいかない。

 俺は一度深呼吸をして口を開いた。


「ドスケベエッチばい」



 正直すぎませんか? 俺。物には限度ってものがあると思うんですよ。

 でも、ついエセ九州弁が出てしまうくらいにはえっちでした。


 いやだって。ビキニだけでもめちゃくちゃセクシーなんだよ? 咲は着痩せするタイプだし。


 それに加えて……下。パレオって大人っぽい感じとかするが。そういうレベルではない。


 この下、履いてないのだ。しかもパレオにはスリットが入っている。つまり……視線が吸い寄せられるのだ。気合いでどうにかしているが。


「……セクシーで可愛いと思うぞ」

「ど、どすけべえっち……えへへ」

「そっちに反応するんかいムッツリママ」


 改めて言い直したつもりなんたが。ムッツリママはそこまで聞いていなかった。


「え、えっと。それじゃあまず、頭から洗いますね?」

「あ、待って。彩夏。頭は私が洗いたいんだけど……いいかな」

「もちろん大丈夫ですよ。じゃあ私は後でお背中を流させていただきますね」


 という事で、咲に頭を洗ってもらえる事になった……のだが。


「……どうしてこうなった?」


 普通に頭を洗うと思っていたのだが。今、俺の頭は咲のおっぱいの上にある。


 なんで?


 そんな俺の疑問に、咲は答えてくれた。


「普通にやってたら首、疲れるだろうしさ」

「ママじゃん……」

「だからママじゃない。……それに。こういう方が好きかなって」

「……ノーコメントで」

(みーちゃん。言葉にしないと伝わらないよ)

 言葉にしたら失われるんだ。男としての何かが。


(同級生をママ呼びしてる時点で)あー! 聞こえない!



「……良いよ。言わなくても伝わるから」

「やめて! 膝ですりすりしないで! 新しい何かに目覚めちゃうから!」


 大きくなってしまったそれを膝で擦られる。男子高校生にこれは刺激が強すぎます。


「……ま、これくらいにしとくよ。それじゃあ頭洗うね」

「あ、ああ」

 良かった。これでやっと話が進ま――

「むぎゅっ」

「ウッッッ」


 ない。

 彩夏が後ろから抱きついてきた。百歩譲ってそれは分かるのだが。


『むぎゅっ』って何? 可愛いの化身か? 化身だったわ……。

(呼んだ?)

 性欲の化身さんリビング零は呼んでないです。


「……あ、彩夏。ちなみになんでいきなり抱きついたんだ?」

「え、えっと……未来さんって意外と筋肉質なんだなって。見えない所で努力してるんだって思ったら、その。愛おしくなって」

 え? 好き。

(みーちゃん。オタクモードにはならないでよね)


 ……止められたので簡単に言っておくが!


 彩夏は人の良い所を探すのが得意だ。どれぐらい得意かと聞かれれば、貰ったファンレターの全てに目を通して返事を返すぐらい。その全てでオタクの趣味やら何やらを肯定してくれる。全人類推のしになる為に産まれてきたと言っても過言ではない。

(過言だよ)


 とにかく。彩夏=可愛いなのだ。


「……未来さんの心臓の音、早くなってます」

「そりゃ……そうなるだろ」


 推しが水着姿で抱きついてきてるんだぞ。

 え? どんな状況? 今更すぎるけど。しかもこれに加えて別の女子の胸の上に頭置いてるんだよな。

(おっばい枕だね)

 言い返せない……。間違っては居ないんだよな……。


「もー、早くしないとお湯も冷めちゃうよ? イチャイチャするのは後にして。頭洗うよ」

「あ、はい。すみません」


 と、そうして頭を洗って貰える。……のだが。


 え? 何これ。めちゃくちゃ気持ちいいんだけど。


 咲はめちゃくちゃテクニシャンであった。こう言うと語弊がありそうだが。


 いやもうまじで。すっごい気持ちいい。


 頭皮マッサージのような揉みほぐし方。そして……心臓の音がすぐ傍で聞こえる事もあるのだろうか。


 そして……俺の意識は。段々と薄れていったのだった。


 ◆◆◆


「寝ちゃった」

「ふふ。今日未来さん、頑張ってましたから。疲れてたんですよ。それに、咲ちゃんのマッサージもとっても気持ちよかったはずです」

「……そうだったら良いんだけど」


 未来は胸の中ですやすやと寝息を立てている。下に落ちないよう、しっかりと自分の胸で支える。……体重がかけられているのは少し重いけど。それ以上に。



 可愛い。


 その頭を撫でると、なんともいえない気持ちが湧き上がってくる。


「はぁ……好き」


 思わず言葉に出ていた。慌てて口を塞いで彩夏を見る。……彼女は私を見て微笑んでいた。


「すっごい分かります。私も大好きです」


 彩夏はそう言ってぎゅっと未来を抱きしめた。


「……ほんと、この色男は。何人誑かせば気が済むんだか。【nectar】のメンバーもやばいんじゃないの?」


 あくまで冗談のつもりだったんだけど。彩夏はうっと声を漏らした。


「……まじ?」

「えっと、その。沙良はまだ多分大丈夫です。瑠樹は……ほぼ一目惚れみたいな形になりました。未来さんはお婿さん候補です」


 彩夏の言葉に思わず笑ってしまった。


 未来は……私の意中の男は、今を輝くトップアイドル二人にも惚れられてるのだと。


「……私が初めて好きになった男なんだから。それぐらいはしてくれないとね」

 でも、私は納得してしまった。


 顔はそんなに……誰よりもイケメンだとか、そういう訳では無い。だけど。


 中身は誰よりもかっこいい。


 思わず微笑みながらも。その頭を抱きしめる。




 しばらく抱きしめてからシャンプーを洗い落としていた。しかし。



「……あっ!」


 シャンプーでおっぱいが滑って未来が落ちた。私は思わず声を上げたのだった。


 ◆◆◆


「んをっ!」


 唐突な浮遊感に声を上げてしまった。続いて、顔に衝撃が。


 しかし、柔らかい物だった。なんだ?


「未来! 今目開けないで!」

「……え? わ、分かった?」


 咲に言われた通りにする。しかし、なんだ? これ。


 すべすべしていて……ん? 少しざらついたものもある。


 すべすべしたものを手で撫でる。撫で心地が良い。


「んぅっ……」


 それにしても……本当になんだ? あ、ザラザラしたものはずらせるようだ。


 そのすべすべとしたものをなんとなく広げていくと……何かにぶつかった。


「ひゃうっ、未来……あんま、そこ。撫でない……で」

 咲の言葉にやっと、俺は意識を取り戻した。


 あれ? 今俺、風呂に入ってたよな?


「……未来さん、今体起こしますからね」

「え? ああ、ありがと……う?」


 体を起こされると。頭にお湯をかけられた。そうして程なくして……俺は視界を取り戻した。


 俺の目の前には……顔を真っ赤にして。内腿を擦り合わせている咲の姿があった。


(みーちゃん! あれだよ!「あれ? 俺またなんか以下略」の言いどころだよ!)

 だから言わん。……と、というかまさか。先程俺が撫でていたのって……。


(太腿から――自主規制だね)


 やったわ……俺。完全に。


「そ、その。咲。すまな「謝らないでっ、いいから」」


 俺の言葉を咲が遮った。そして。


「べ、別に怒ってないし。は、恥ずかしかったけど。未来は……悪気があってやった事じゃ無いし」

「……だが」


 俺はそこで言い留まる。


「……分かった。でも、一つ言わせて欲しい」


 ここで謝るのは良くない。だから――


「ありがとうな。寝かせてくれて」

「……どういたしまして」


 そうしていると。また、後ろから抱きつかれた。


「むぅ……次はボクの番です」

 少し拗ねたような声。それに心臓が高鳴りつつ。ふと疑問に思う事があった。


「……そういえば疑問に思っていたんだが。……水着の生地、薄くないか?」


 当たるのが分かるのだ。水着の中の……コリコリとした物が。


 しかも、見た目でも分かってしまう。何がとは言わないが。


「え、えっと……これ、零ちゃんのなんです」

「……そうか。そうだったのか」


 犯人はお前か。

(てへっ☆)

 殴るぞ。くそ、殴れない。……こいつ霊体だから。


 それにしても、よく彩夏達の水着まであったな。


(こういう時のために色々と用意はしてたからね)

 金遣いが……いや、今更か。使わない避妊具を百個買ってきたりするもんな。お前。

(失礼な! ちゃんと使うよ! 全部!)


 それはそれで怖いな。古くなったら破けやすそうになりそうだが。

(それが狙いだよ)

 ……だろうと思った。


 まあ、それは置いておこう。


「そ、それじゃあ。背中、頼んでも良いか?」

「はい! 任せてください!」


 彩夏が洗ってくれるらしいのだが……。


 彩夏が咲に何かを言った。咲の顔は真っ赤になったが……彩夏と目を合わせて頷きあった。すっごい嫌な予感がします。


「ちょ、ちょっとだけ未来さん。目を瞑って欲しいです」

「……分かった」


 大丈夫。この二人は正常コンビだ。大変なことにはならないだろう。


(フラグよりもみーちゃんのみーちゃんをたたせたいよね)

 やかましいわ。


 俺は大人しく目を瞑る。シャンプーのシュコシュコと言う音が聞こえた。


「そ、そのまま……目、瞑っててくださいね」

「ああ。分かった」

 そうして目を瞑っていると……。


 にゅるり、と。柔らかいものが背中と胸に当たった。


「ふゎっっっっっっ!?」


 それと同時に。甘い吐息が首筋とうなじにかかる。あとめちゃくちゃいい匂いがする。


 やばい。やばいこれ。語彙力が無くなる程度にやばい。


 何がやばいって。分かるのだ。このにゅるにゅるの中にあるコリコリとしたものが。


 ドスケベエッチばいが虚空に消え去るレベルでドスケベエッチたい。

(そろそろ怒られるよ、みーちゃん)

 お前には言われたくないな! でも言われた通りにします! すみませんでした!


「ど、どう……ですか? 気持ち、いいです?」

「……ぅあ、これ。私も、やばい、かも」


 耳元で囁かれて。俺はもう理性の糸がぷちりと切れ――






 ない! まだ! この物語は終わらねぇ!


「あ、あぶな……かった」

「ふふ。それでも良いんです。ボク達は楽しかったですから」

「……ぅ。わ、私も。気持ちよかった」

「…………凄く良かったです。だが、本格的に理性が潰えかけたので勘弁してつかぁさい」


 俺の言葉に……ギラりと。彩夏の瞳が輝いたような気がした。


 気のせいだよな。うん。気のせいだ。


 その後、体を洗い終えた後はゆっくりと。三人で風呂に浸かったのだった。


 その時間はやっと落ち着ける時間で……俺はまた。眠りに落ちてしまった。今度は彩夏の胸の中で。


(むぅ……今度は私がおっぱい枕やるもん)


 という、リビング零の言葉を聞きながら。

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