第70話 勃たせるのはみーちゃんだけで十分だもんね。ぶちこむのも、ね

「みーちゃんに会いたい! みーちゃんに会えないから欲求不満になった!」

「待って待って。まだ未来君行って一時間しか経ってないから」

「……ッ、星ちゃんは酸素が一時間なくても耐えられるって言うの……!?」

「酸素無しで一時間耐えてる零ちゃんの方がやばいよ」

「つまりみーちゃんは酸素……? 私はみーちゃんをずっと吸ってるって事……?」

「……! 新しいカニバリズムの形だね!」

「未来君っていつもこの量捌いてたんだ……もう限界なんだけど」

「ちょいちょい、授業って知ってる? グループ活動しない?」


 未来の居ない教室は混沌と化していた。主に零の手によって。


 ……まあ、私も。未来が居た方が嬉しいけど。今は彩夏も居ないし。少し寂しい。


「えー、もっと恋バナしようよ恋バナ。みーちゃんの好きそうな体位とかさ」

「……恋バナって知ってる? それただのエロ話なんだよ」

「どうせ恋しても最終的に行き着くのはそこなんだよ。それとも咲はしたくないの? みーちゃんと」

「べ、別に。したくないとは言ってないじゃん」

「つまりはそういう事なんだよ。あー! みーちゃんと子作りしたい!」

「……もうやだ。目立つ。零ちゃんがいきなりド下ネタぶちこむから先生立ちながら気絶しちゃったし」

「勃たせるのはみーちゃんだけで十分だもんね。ぶちこむのも、ね」

「待って待って。未来君に何をぶち込む気なの?や、やっぱ言わなくていい」

「……? 太くて黒くておっきいアレだよ。ディ「言わなくていいから! ……え? というか持ってるの?」」

「……? 持ってるよ。使った事ないけど。みーちゃんと同じサイズの」

「未来君のおしりが壊れちゃう……」

「ね、授業しない?」


 先程からずっとこの調子だ。グループワークの内容は、『将来を考えてグループの人に発表する』という内容なんだけど。全然進まない。


「私ね。授業より大事な事があると思うんだ」

「や、言ってる事は同意なんだけどね? 少なくとも未来君の処女と授業なら……あれ? どっちも大事?」

「ああもう、早く帰ってきて! 未来!」


 そんな私の嘆きも……届く事は無かった。


 この後めちゃくちゃ怒られた。私は悪くないのに。


 ◆◆◆


 背筋に嫌なものが走り、ゾクゾクと震えた。

「未来さん、どうかしたんですか?」

「……いや。学校が大変な事になっている気がしてな。零が暴走していそうで……」

「ふふ。大丈夫ですよ。零ちゃんって未来さんが居ない所ではしっかりしてますし」


 ……それなら良いのだが。そんな俺を見て、瑠樹がふと思ったのか口を開いた。


「そういえば未来マネージャーって学校ではすっごくモテるんですよねえ……」

 その言葉を聞いて……俺は思わず彩夏を見た。


「えっと、大丈夫ですよ。未来さん。あの【ハーレム対決】もありましたし。事務所の人の中でも信頼出来る人には零ちゃん達の事も話してますから」


 ……そうか。話してるのか。いやそれ俺やばくない?


 節操なしのクズ男じゃん。……いや、間違ってないのか……。


「……なんで落ち込んでるのかは分かんないけどさ。あーやーはいっつもマネージャーの理性が強すぎるって言ってたし」

「そうだったのか……ん?」

 あーやー? あーやーって誰だ?


「……沙良、いつの間に未来さんとそんなに仲良くなったんですか?」

「え!? ……や、あはは。ついさっき?」


 ああ。沙良は彩夏を『あーやー』と呼んでいたのか。


「……えっとですね。沙良は私の事を『あーやー』瑠樹を『るーきー』って呼ぶんです。でも、事務所の人の中でもかなり仲が良い人の前だけです。田熊さんとかプロデューサーとか」

「……そうなのか」


(沖縄の人って二文字の名前の人とかを伸ばして呼ぶらしいね。彩夏ちゃんとか三文字の名前の人をこう呼ぶのはあんまり聞いた事ないけど。四文字の名前の人とかだと前半か後半の二文字を伸ばし気味に呼ぶらしいよ)

 お前本当に博識なんだな……。


「……でも、本当に珍しいんですよ? ただでさえ沙良は警戒心が強いのに……」

「あ、あはは。あーやーから色々話を聞いてたからさー」


 彩夏が問い詰めるように沙良を見ると、沙良は目を逸らしてそう言った。


 ……と、やっていると。


「皆様方。もうすぐ目的地に到着します」


 どうやらテレビ局に着いたようだ。気づかなかったが、かなり時間も経っていた。


「……あれ? プロデューサーだ」

「珍しいですねえ。外まで来てるなんて」


 彩夏達の言う通り、駐車場には羽生プロデューサーが立っていた。俺達の乗っている車を見てかなり驚いた顔をしている。


「……どうしたんだ?」

「あれですね。いつも私達、時間通りに来た事ほとんどありませんでしたから。主に瑠樹と沙良のせいで」

「だって眠いんですもん。ご飯後って」

「私もついふらふらーって歩いちゃうからね」


 ……どうやら現在療養中のマネージャーはかなり大変だったらしい。いや、俺もリビング零が居なければ沙良を見つけるのに時間がかかっていたからな。


(ご褒美はみーちゃん総受け逆レイプ本で良いよ)

 んなもんあるか。

(それなら耳舐めASMR24時間分でも可。私が24時間でどれだけイけるかチャレンジしたいから)

 狂気くんですら裸足で逃げ出すような凶行やめろ。


「それでは到着しました。お気をつけて行ってください」

「ありがとうございます。収録が終わるのは大体七時から八時ほどを予定しています」

「承りました。終わり次第連絡をください」

 という事で着いた。


 車から出ると……プロデューサーが駆け寄ってきた。


「ま、まさか……? 本当に【nectar】なの……?」

「……本当に時間通りに来なかったんだな」

「はぁ……いつもは時間にギリギリか数十分遅れです。今日みたいに早めに着いたのは…………あれ?初めてじゃないですか?」


【nectar】……。でもこれでも株が下げられない。推しだから何をやっても『可愛い』で終えてしまいそうだ。良くない。


「……未来マネージャー。今は代理だけど、正式にマネージャーにならない?」

「余りにも早計すぎますよ」

(みーちゃんが早漏!?)

 言っとらん。あと早漏ちゃうわ……じゃないよな?

(ちなみにみーちゃんがオ○ニーし始めてからイクまでは)言わんでよろしい。……てかなんで分かるの? 見てるの?

(大丈夫。みーちゃんのプライバシーに配慮して全部録画してるから)

 あれ。俺の知ってるプライバシーと違うな。プライバシーの定義が違う世界から来た?

(まあ冗談だけど……冗談だよ…………)

 世界一信用ならない間だな。それは。


 ……まあ、それは良いとして。いや良くないな。

(大丈夫だよ。私は自分に正直に生きてるだけだから)

 何も大丈夫じゃないが?


「……? 未来さん、どうかしたんですか?」

「い、いや。なんでもない」


 彩夏に言われて俺は意識を戻す。 くそ、リビング零。後で詳しく話は聞くからな。

(私の性事情なら喜んで話すよ。ちなみに最近したのは朝みーちゃんの顔を)聞いとらん。


 そこで話を終わらせ、俺はプロデューサーを見た。


 先程からずっとめちゃくちゃ驚いた顔で俺を見ている。


(みーちゃん! あれの言いどころだよ!『あれ、俺またなんかやっちゃいました?』ってやつ!)

 言わねえよ。


「ど、どうやって二人を連れてきたのかは置いておいて。よくやってくれたね。未来マネージャー。これで私も上に頭を下げずに済むよ」

「……それなら良かったです」


【nectar】のプロデューサーも大変なんだな……。


「と、とりあえず行こうか。彩夏達がメイクや着替えを行っている間に各所に挨拶にも行かないといけないからね」

「挨拶……ですか?」

「うん。一週間とはいえ代理なんだから。紹介をしないとね」

「……なるほど。分かりました」


 少し緊張するな……怖い人ならどうしようか。


(大丈夫。みーちゃんに危害を加えそうな人なら私が行って心ぐちゃぐちゃにしてくるから)

 サラッと恐ろしい事やろうとしないで。


「ん? ああ、大丈夫だよ。皆悪い人じゃないから。少なくとも【nectar】に枕仕事を提案するようなクソ野郎は居ない」

「それならあんし――え? 今なんて?」

「社会には居るんだよね。アイドルを『物』としこ見ないようなのが。少なくとも私はそんな奴に【nectar】を任せたいとは思わないから。……色々見て、聞いてきたからね」


 その言葉には……妙な重みがあった。


 ……ああ、この人が【nectar】の。彩夏達のプロデューサーで良かった。


「それじゃあ向かおっか、四人とも」

 そう言って羽生プロデューサーは微笑んだ。そんな彼女に俺達はついて行ったのだった。


 ◆◆◆


 挨拶は滞りなく終わった。皆優しそうな人達で良かった。


 その後、色々なことメイクや着替えを終えた三人の姿を見て絶命したり絶頂したりがあったが……おい待て。リビング零。今変なルビ振っただろ。

(あれ? バレた?)

 絶頂はしとらんだろ。絶命はしたが。



 ちなみに、今日のテレビ番組は歌番組だ。最近流行しているアイドルグループやバンドグループの紹介。そして、その中でも人気なグループが出て実際に歌ったり演奏したりする。


 彩夏達の出番が近づいてきた。三人は既に舞台裏で準備をしている。

「さて、見学でもしながらこれからについて話さないかい? 未来マネージャー」

「……話ですか?」


 唐突な言葉に思わずオウム返しにしてしまった。


「そう、話。単刀直入に言うけどさ。この一週間が終わった後、マネージャーになってくれないかな? いや、マネージャーというよりは副マネージャーって言う方が合ってるかな」

「……さっきも言ったはずですが……まだ代理の初日です」

「まあまあ、話ぐらい聞いてってよ」


 スーツ姿だと言うのに……羽生プロデューサーはかなり砕けた口調だ。だからこそ、自然と気が緩んでしまう。


「いやね、彩夏ちゃんは良いんだけどさ。あの二人には手を焼かされてるんだよ。良い子なのは間違いないんだけど、時間管理がね……」

「まあ……それは分かります」


 朝もそうだが、迎えに行く時もそうだった。


 瑠樹は隙あらば寝ようとするし、沙良はやりたい放題にする。


「でもね。今日は時間通り。ううん。時間より早く来た。これは初めての事なんだよ」

「……そうなんですか」


【nectar】は遅刻常習犯だったのか。それは初めて知ったな。


「有名だからこそ許されてる節があるんだけどね。……でも、これからを考えれば当然遅刻はしない方が良い」


 ……なんとなく話は読めてきた。


「だから、俺に副マネージャーになってくれと」

「そ、まあ……これからの様子も見ないといけないけどね。でも、どうやら彩夏以外の子も未来マネージャーを気に入ったみたいだし。仲が良くて悪い事は無い」


 スタジオを見学していると言っても、少し離れた場所だ。周りに人が居ないからこそこんな会話をしている。さすがに小声ではあるが。


「ああ。それと、ちゃんとした敬語も使えるって分かったからね」

「……羽生プロデューサーにも使った方が良いんですか?」

「私には堅苦しいのは良いんだよ。そのためにこういう喋り方もしてる訳だし、ね?」

「はぁ……分かりました」


 ……しかしだ。


「そんな事を言われたら断れないですよね」

「あはは。これが大人のやり方なんだよ。諦めな。……でも、今返事はしなくていいよ」


 そう言って羽生プロデューサーは微笑んだ。


「【nectar】のメンバーのお世話。それだけ聞けば世の男子からすれば垂涎物だけど。結構しんどい事でもある。……【nectar】が嫌いになるかもしれないからね。この一週間、様子を見て欲しい」

「……舐めないでください。こちとら生粋のファンですよ」


【nectar】が嫌いになる事など天地がひっくり返ってもありえない。

(割とあるよね、天地逆転)

 割とないんよ。天地逆転は。


「ま、私も無いとは思うけど念の為ね。さ、【nectar】の出番だよ。生で見れるのは中々無いからね」


 その言葉と共に彩夏達にライトが当たった。


 そうして歌が始まると……三人の雰囲気はガラリと変わる。


 ……この中だと彩夏が一番変わらない、か。元気さを押し出し、笑顔が増える。動きも三人の中で一番激しい。


 対して、沙良はかっこよさを前面に押し出している。ダンスのキレも二人とは違う。空手をやっているからだろう。


 そして……瑠樹。彼女が一番変わるだろう。眠たげな瞳はしっかりと開かれ。声もしっかりと出されている。


 俺はそんな彼女達を見て思った。



 これが見られるのなら、二人の生活の補助など苦ではない、と。


 ◆◆◆


 家に帰ると。なんやかんや新に押し倒されてパンツを脱がせられたり、零に手首を掴まれて犯されかけたりなどがあったりした。そう。なんやかんやいきなりお尻にナニかを挿入れられそうになったりなどがあった。

 おい。なんやかんやの二乗だぞ。なんならこの表現今回だけで三回目だぞ。飽きられるぞ、読者に。

(えー? でもちゃんと説明しないと怒られるよ。読者に)


 まあ……それは置いておこう。というか読者って誰だよ。


(そんなこんなで今みーちゃんはお風呂なうなんだよね!)

 誰に説明してるんだ……?


 零の言う通り、俺は風呂に入っている。そして恐らく……誰かが入ってくるはずだ。



 コン、コン。


 曇りガラスが二度、ノックされる。ここからでは誰なのか分からない。


「良いぞ、入ってきて」


 俺は……一度深呼吸をして。そう言ったのだった。

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