第63話 穴があったら埋められたい

「ポキッ(尊厳の折れる音)」

「あ、やっ。これは。これは違くて」

「バキバキゴリメチキャ(心の砕ける音)」


 俺の目の前には。俺の隠し持っていたエッッッな本を読んでいる咲達の姿が。


 なんで? いや、思い当たる節はこいつしか居ない。


「またお前か? お前が主犯格なのか? 新」

「てへっ!」

「ある程度予想はしたが。やっぱりお前を残して行くんじゃなかったな」

「予想してたって事は合意の上って事だね!」

「よーし新、頭出せ」


 俺が言うと、新はニコニコとしながら頭を差し出してきた。


 俺は全力で指を引き絞り……デコピンをした。バンッといい音が響く。


「ありがとうございますッッ!」

「効かねえと思ったよ! てかなんで当たり前のように俺のPCとタブレットまで使われてんの? パスコードは?」

「私に開けられない鍵は無いんだよ、お兄ちゃん」

「その技術はいい事のために使わない?」

「イイこと!? お兄ちゃんとしたい!」

「助けて! 星!」

「ちょっと今いい所だから待って」

「星さん? あと静もいつまでも読まないで!」

「未来君……どうして逆リョナ本がないの?」

「ある訳ねえだろ。つか普通のリョナもねえわ」

「お兄ちゃんって首絞めとかでも出てきた瞬間読むのやめてるもんね」

「なんで兄の性事情にそんなに詳しいの?」

「妹だから!」

「世の中の全妹に謝れ」


 帰ってきて早々大声を出しすぎて疲れた。思わずため息を吐いていると。


「ね、彩夏。これ彩夏に似てない?」

「……わ、ほんとです……こ、これ。こんな奥まで」

「何してくれてんの? ツンデレママ?」

「……べ、別に。いつかのために勉強してるとかそんなんじゃないから!」

「テンプレ助かる。あと彩夏さん! 熟読しないで!」

「……お、おっぱいがこんなに……こういうのが好きなんですね」

「穴があったら埋められたい」

「穴はいっぱいあるけど挿入れる?」

「挿入れません! あと穴呼ばわりすな! 色んな所に怒られるぞ!」


 はぁ……まあ、見られたものは仕方ない。……仕方ない。


「とりあえず何があったのか報告しておくぞ。……ってこれ言っていいのか? 彩夏」

「………………あ、はい。大丈夫です」

「お願いだから読まないで!」

「あう」

 とりあえず彩夏から薄い本を取りあげる。

 良い子は十八歳になるまでは買わないようにな!


「俺は一週間ぐらい【nectar】の臨時マネージャーをやる事になった。だから、明日から登下校は一緒に出来ないぞ!」

「「「「えー!」」」」

「いや新、お前は登下校一緒じゃないだろ」

「なんとなく言っとこうかなって。それに帰るのも遅くなるんでしょ?」

「まあ……そうなるだろうな」

「お兄ちゃんを独り占めするのずるい! 私もお兄ちゃんと遊ぶ! お風呂に突撃する!」

「実はそれが一番効くからやめろ」

「そういえばみーちゃんが初めに拾ったえっちな本ってお風呂「やめて! 思い出さないで!」」

「零ちゃん、その話詳しく」

「星も一旦落ち着こうか。ちょっと色々と混雑してる。あとタブレットを仕舞え」


 割愛


「でもでも! 彩夏ちゃんが羨ましいです! お風呂くらい良いと思います!」

「割愛した意味ないね」

「いいんじゃない?」

「零さん?」

「多分みーちゃん成分が足りなくてそのうちみんなお風呂に突撃してくるよ。それなら今のうちに許可しといた方がいいよ、みーちゃん」

「いや……そんな事で丸め込まれないぞ」

「……じゃあ水着ありならどう? 健全だよ?」


 零の言葉に……俺は思案する。


 ……確かに、水着ならちゃんと大事な所は隠れるし。大丈夫か。大丈夫か?


 まあ、大丈夫だろう。


「……分かった。水着でなら。あと、全員では入れないから一度で二人までな」

 零達女子組は六人で丁度良いし……確か、俺の方も去年着けた水着があったはずだ。


 俺の言葉に星達の目が輝いた。

「やった……!」



 ……待て。今更だがこれ、めちゃくちゃハーレムっぽくないか。女子を取っかえ引っ変えとか。


「本当に今更だよ、みーちゃん」

「ぐ……やっぱりやめ「みーちゃん」」

 零が俺の目を見て。……優しく微笑んだ。


「みんな、嬉しそうだし楽しそうだよ。私も嬉しい。みーちゃんは嬉しくないの?」

「……その聞き方はずるいぞ」

「ふふ。みーちゃんはこういう所から変わっていかないとね。良いんだよ、自分のやりたいようにやって。それでみんな幸せなんだから」


 そんな零の楽観的な言葉に。俺は目を瞑った。


「……人生、そんな簡単じゃないぞ」

「だからこそ楽しまないと損だよ。みんなで楽しく生きて、楽しく死ぬ。人生がどれだけ大変でも、楽しければ良いんだよ」


 長く、深く息を吐く。


「変わらないな、お前は」

「私はずっと今が一番楽しいんだもん。どれだけ大変な事があってもみーちゃんが居るから。……みーちゃんも私みたいになればなって」

「……深刻なツッコミ不足に陥るぞ」

「ふふ。それで一日を潰すのも良いんじゃないかな」


 零は軽くそんな事を言った。俺は思わず……零の頭を撫でていた。


「お前が幼馴染で良かったよ、零。……ありがとな」

「どういたしまして」

 そうして抱きついてくる零を見ながら。俺の頬も緩むのだった。


 ◆◆◆


「という事で初日は私達だよ」

「未来君……恥ずかしいけどいっぱい見てね♡」

「コース料理の初手から肉料理を出すのはやめてくれない? もうお腹いっぱいだよ?」


 風呂に入って頭を洗おうとすると。零と静が当たり前のように入ってきた。一応鍵、かけてたんだが。



 ……まあ、百歩譲って入ってくるのは分かる。念の為俺も海パン履いてたし。


「でもね? 二人とも水着って知ってる?」


 二人とも……水着と呼ぶには扇情的すぎる格好であった。


 まず零。黒のビキニなのだが……。




 マイクロビキニを鼻で笑ってしまうほどの超絶マイクロビキニだ。先っぽしか隠れていない。多分歩くだけでポロリする。


 そして、静だが……真っ白なスク水を着けている。ただ一つ問題を挙げるとすれば。



 透けてる。全部。これもう水で溶けるんじゃないかと思えるほどに。


「どう? みーちゃん、えっちでしょ?」

「水着ってな? デザインも大事なんだろうがな? 一番の目的は泳ぐ事なんだよ」

「まあまあみーちゃん。とりあえず体洗っちゃお」

「ほらもう! 歩くだけで出ちゃったよ! 謎の光さん! やけに多いお湯の煙さん! 出番です!」

そんなものラブコメのお約束で私を止められるとでも?」

「まさか現実でその言葉を使う奴が現れるとは思わなかったよ」


 とか言いながらも俺はおっぱいから視線が逸らせない。くそ……理解わかってやがる。


 モロではない。零はかなりの頻度で水着を直している。その仕草が一々えっちすぎる。


 そして……既視感があった。



「……お前」

「ふふ。さっき話に出したからやってみたんだよ」


 ……そう。幼き俺の性癖が歪むきっかけとなったアレだ。いや、数年前の事なんだが。


 ちなみにそれが零に見つかった時はやばかった。いや、怒られるとかそんなものではなく。



『これ、なんだろうね。一緒にやってみよ』

『みーちゃんのおち〇ちんもこうなるの? 見せて見せて!』

『みーちゃん、ここモザイクかかってるけど本当はどんな感じなのかな? 見たくない?』

『みーちゃんもこんな白いおしっこ出るの?』


 ……これ確信犯だな。あの時の俺よく全部断った。偉い。


「という事でみーちゃん、おち〇ぽ流しにきたよ」

「普通お背中だよね。下心が喉から出てんじゃん」

「未来君の……もうおっきくなってるね」

「さっさと洗って湯船に浸かって終わろうか」

「じゃあ私達が洗ってあげるね、みーちゃん」

「やめろ! 絶妙な距離でくっつくな!」


 零がぴとっと。水着の部分のみを着けてきた。つまりはそういう事である。


「……? じゃあこうする?」

「言い方が悪かったね! 離れてもらえませんか! おっぱいがいっぱいのうっぱいのえっぱいあっぱいなんです!」

「つまりおっぱいに埋もれたいと」

「違います。頭を洗いたいので離れて欲しいんです」

「あ、いい事思いついた」

「説明しよう。零が『いい事思いついた』と言う時は大体俺が大変な目に遭うのである」

「静ちゃんがみーちゃんの頭洗ってる間に私がみーちゃんの体洗えばいいんだよ。一石三鳥だよ」

「……一石三鳥? 二鳥じゃないのか?」


 零が俺の疑問に答えるより早く、静が不満そうに声を上げた。


「えー! 私も未来君の体ぺろぺろしたい!」

「普通に洗ってくれませんかね。ベッタベタなっちゃうよ」

「静ちゃんは次の時ね」

「そっか、これ次あるんだ……三日で一周するんだよな」

「そゆ事。さ、洗っちゃお」


 なんか強引な気がするなも思いながらも俺は静が俺の前へと来た。俺は諦めて目を瞑る。


 シュコシュコとボディソープとシャンプーの出される音がする。そして、静の細く長い指が俺の頭へと伸びた。



「どうかな、未来君。痛かったり弱かったりする?」

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

「ふふ。良かった」


 ……こうして話していると静も普通なんだが。ずっとこうであって欲しい。ただ、一つ気がかりな事がある。


「……零?」

「ん。今洗うから待っててね」

「泡立ててるだけだよな? そうだよな?」

「ふふ」

「意味深に微笑まないで!」

「もう、ダメだよ未来君。喋ったら口にシャンプー入っちゃうよ」

「ぐ……そうだな」


 仕方なく俺は口を閉じる。次の瞬間。


 背中が柔らかく、暖かい物に包まれた。


 やっぱりそうなるよな!? 一石三鳥ってそういう事かよ!


 ぬるぬるでやわやわでこりこりが背中に当たってうあぁあぁぁあぁあああ。


「どう? みーちゃん、気持ちいい?」

「お、俺は堕ちんぞ……」

「……じゃあこれから、ねっとりぐっちょりまっちょがむっちょりやっていくからね」

「マッチョがむっちょりやるんですか!? ……あー、にが」

「もう、喋るからだよ。未来君。ほら、ぺっして……それとも私が吸い出してあげよっか?」

「ぺっ!!!!」

「みーちゃんがガラの悪い子に育っちゃった……」

 全力の否定のつもりで吐き出したのだが、ヤンキーがガムを吐き捨てるみたいな音になってしまった。


「やっぱり吐き出すのはガムじゃなくてゴムだよね」

 ツッコめないからボケないで欲しい。



 そして、ねっとりぐっちょりまっちょりむっちょりやられた後。



「た、耐えたぞ……どうにか耐えたぞ」

「みーちゃんのみーちゃんは凄い事になってるけどね」

「ごくり」

「お前が唾を飲み込むと別の意味に見えるんだよ」

「それじゃ残りはみーちゃんのみーちゃんだけだね」

「そこは自分で洗うんで」

「私が口で洗おっか? 未来君」

「俺が! 自分で洗うので! 口を近づけないで! 嗅がないで!」


 そして、この後なんやかんやおっぱいを洗わせられたり水着の中に手を入れて洗わせられたりなどがありながらも、どうにか湯船に浸かった。



「今日一体力使ったんだが」

「じゃあイチャラブえっちで体力回復する?」

「しません」

「……前から思ってたけど、未来君って結構いい体してるよね。触っていいかな?」

「ん? ……ああ、良いぞ。ある程度筋トレはしてるからな」


 静が俺の腕を持ち、その細い指でつついたり、手のひらに押し当てるようにしている。

 ……お湯のせいでほぼ意味をなさなくなった水着の事は無視しながら。


 すると、静がじーっと俺の俺を見てきた、またかとため息を吐きそうになったが、静の言葉にそれを引っ込めた。

「……ね、単純な疑問ね。変な意味もなく。こっちもおっきくするやり方とか調べたの?」


「いや。何なら小さくする方法とかを調べた。……まあ、見ての通りだが」


 最大時にはへそまで余裕で届いてしまうものとなった。


「……今更だけど。ちゃんと入るのかな?」

「大丈夫。毎日拝めばいけるよ。あと友達の彼氏がみーちゃんぐらいおっきいけど初めてもいけたらしいから」

「ツッコミどころは色々あるが。お前毎日拝んでるの?」

「え? 拝んでるよ? 毎朝」

「……何時頃俺の家に来てるんだ?」

「四時ぐらい」

「早過ぎない!? お肌に悪いよ!?」

「大丈夫。思う存分みーちゃんで楽しんだら一時間ぐらい添い寝してるから」

「思う存分?」

「ふふ」

「……聞かなかったことにしておこう」

「主に性欲処理とか」

「話聞いてた? てか聞け……待て。俺の隣で何してくれてんの?」

「早起きしたら私のえっちな姿が見れるね」

「起きた瞬間この世界が終わるので起きません」


 とか何とかやりながらも、俺の理性はゴリゴリと削られている。理由は明白だ。


 この湯船はそんなに広い訳ではない。そこに俺達三人が入るとなると、当然ぎゅうぎゅう詰めになる訳で。


 真ん中に俺、後ろに零。前に静となるのだが。


 背中に当たる柔らかいあれが柔らかいのであるおっぱい。あと必然的に二人の距離が近くなるので、二人の甘い匂いが鼻腔を直接刺激するのだ。


 あと視界的にも辛い。なんでモロよりも透けの方がえっちなんですか。先生。



「えいっ」

「零さん? 抱きしめないでくれませんか?」

「よいではないかよいではないか」

「いやー! お代官様、許しておくんなましー! ……いや、やめておこう。静がついていけない」

「ぐへへ、お代官様。お代官様の次は……わてにも報酬はよろしゅうたのんますな?」

「なんでついてこれてんの? 文字だけ見たら誰が喋ってるのか分からないよ?」

「それっぽくやれば見栄えはどうにかなるんだよ、未来君」

「『素人質問で恐縮ですが』の人に一蹴されるやつじゃん……っておい、零。どこ触ってんだ」

「みーちゃんのふぐりだよ」

「言い方を変えればいいってもんじゃないぞ。離せ」

「よいではないか×2」

「面倒になったからって略すな……そろそろのぼせるぞ。上がろう」

 これ以上は色々と耐えられない。結構長い時間お湯に浸かっていた事もあるが。


 そして、どうにか俺は危機を免れたのだが。


「……これ、明日からも続くのか」

「我慢出来なくなったらいつでも襲いかかってきて良いからね」

「俺の理性舐めんな。そんな簡単に欲望に身を任せねえよ」


 俺はそう言って二人より先に上がった。



 ……この言葉がフラグであった事に気づかないまま。


 次の日へと、時間は進んで行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る