第62話 蒼音未来ことみーちゃんの妻の九条零です。特技は生霊を飛ばすことと未来を読む事です

 ぷ、プロデューサー? プロデューサーと言ったか?


 どどどどどうしよう。おっぱいが柔らかい(現実逃避)


「プロデューサー……いつからここに?」

「彩夏が彼をおっぱいで誘惑し始めた頃から、だね」


 かつ、かつと靴音を響かせて。黒服の女性が近づいてくる。


「初めまして。私は羽生妙はぶたえって言うんだ。君が噂の蒼音未来君、だね?」

「……はい、そうです」

「彩夏からたくさん……それはもうたくさん話を聞いてるよ。それで貴方は?」

「蒼音未来ことみーちゃんの妻です」

「お前はブレねえな!?」


 頼むから余計な事を言わないでくれよ……と思う暇すらもなかった。


「ああ、君が未来君の奥さん。という事は零ちゃんだね?」

「なんで伝わってるの!?」

「ボクが話してるからです。昔から楽しかった事はつい人に話したくなる性格で……」

「いやもう、いきなり電話がかかってきたかと思えば君達の話始めるからね。三時間くらい」

「カップ麺六十個作れるじゃん」

「体に悪いよ、みーちゃん。ご飯が四回くらい炊けるとかにしとこう」

「どっちも食べきれない気がしますが……」


 ああ、やばい。また話が逸れる。

「今のはみーちゃんが悪いよ」

「ぐうの音も出ない」

「ぐう」

「なんでお前が出してんだよ」

「そ、そんなにみーちゃん……出したいの?」

「知ってる? ここ事務所。真面目なとこ」

「私が真面目じゃないからセーフ」

「何もセーフじゃないんだよ。いやもうごめんなさい。話進めましょう」


 このままだとここで日が暮れてしまう。俺はプロデューサーの羽生さんへそう言うと、笑っていた。


「聞いてた通り面白い二人だ。……それじゃ、来て。二人も首を長ーくして待ってるから」

「……二人?」


 その不穏な言葉に眉をひくつかせながら。俺達は羽生さんに続いて歩いた。


 ◆◆◆


「うわ……これすご」

「お兄ちゃんって零ちゃんのせいで性癖歪んでるからね」

「新ちゃんも大概な気がするけど」

「……やっぱり未来君、縛られるのも好きなんだ」

「あ、これ星ちゃんに似てるよ」

「まじ? ……ほんどだ」

「……でもこれって実物より小さくない?」

「お兄ちゃんのが規格外なんだよ。ほら、これとかだとお兄ちゃんのに近い大きさだよ」

「なにこれ……『処女ビッチ幼馴染理解らせ本』?」

「未来君の尊厳が破壊される音が聞こえる」


 ◆◆◆


「あ、みーちゃんの尊厳が破壊される音が聞こえた」

「なんで? なんでいきなり俺の尊厳が破壊されてんの?」

「大丈夫。みーちゃんの尊厳破壊処女は私が奪ってるから」

「大丈夫な要素が一ミリもないね」

「……本当にずっとそんなやり取りしてるんだね」

「めちゃくちゃごめんなさい」

「いやいや、見てて面白いから良いんだけどね? でも、あんまり零ちゃんばっかに構ってたら彩夏が拗ねちゃうよ?」

「べ、別に拗ねません!」


 そう言いながらも彩夏が俺の手をぎゅっと握っている。可愛いの暴力だ。暴行罪で訴えたら勝てるレベルだ。

「ちょっと分かんないかな」

「俺の心の中にツッコミ入れるのやめない? ほらもう、二人とも首傾げてるじゃん」

「私達だけの秘密の漫才だね……」

「どうしてだろう、びっくりするくらい心惹かれない」


 とか何とかやっていると、羽生さんが立ち止まった。



「……本当ならもうちょっと聞いていたかった気持ちもあるんだけどね。さ、着いたよ。ここが応接室」


 本当なのか皮肉なのか分からない……皮肉な気がしてきた。


 しかしまあ、俺達はこういう存在なので諦めて欲しい。


「案内もありがとうございます」

「良いって良いって。そんじゃ入るよ」


 先程からなんとなく感じていたが。この人結構気さくだ。


 そして、彩夏は先程からずっと俺の手をにぎにぎとしている。可愛いの擬人化か? 俺を萌死させたいのか? もうしてるが?


「ちなみにみーちゃんが死んじゃったらちゃんと生き返らせるから安心してね」

「頼むから人智を越えないで」


 そんなやり取りをしながらも、緊張してきた。一度、深呼吸をする。


 ……どうしようかな、彩夏。可愛いから放置しようかな。

 後で怒られそうだからやめておこう。


「彩夏。このままだとプロデューサー以外にその姿を見られる事になるが良いのか?」

「……! す、すみません」

「いや、俺はずっと見ていたかったんだがな」


 ……さて、そろそろ腹を括ろう。


「それじゃあ……入っても?」

「もちろん。自分のタイミングでどうぞ」


 俺はその扉を二度、ノックした。


「どうぞ」




 ……何度も聞いた、その声。俺はその二人の正体を確信しながらも扉を開いた。両隣には彩夏と零が。


 その扉の先には……




 炎のように赤い髪をハーフアップにした美少女。そして、エメラルドのような翠色の髪を内巻きにした、美少女が居た。後者は机に突っ伏して眠っているが。


「久しぶりだね、君」

 そう言って可愛らしく手を振ってきたのは金城沙良きんじょうさら。沖縄出身で、外国人のように彫りが深い美少女だ。空手の有段者で、演舞のパフォーマンスなどもある。可愛くて強い天使だ。あとは感情的で手が出るのが早いぐらいか。


「……その節はどうも」


 そして、結構前。遠足の前ぐらいに彩夏とデートに行った時。チンピラから助けてくれた人でもある。



「ううん、私は彩夏を助けようって思っただけだから。それより宜しくね。新しいマネージャーさん?」

「……まだ決まった訳ではない」

「あはは。そっか。……でも来てくれただけで良い感じじゃない? ね、彩夏」

「うん!」


 やめて、そんなキラキラした目で見ないで。断れなくなるから。


「それと……ほら、起きて。瑠樹。新しいマネージャーが来たよ」

「……んぅ? ふゎぁ、おはようございますぅ……沙良ちゃん」


 沙良が呼ぶと、翠色の美少女が起きた。眠たげな目は起きたから、ではない。いつもこうなのだ。


「あれえ? 彩夏ちゃんの彼氏さんが居ますぅ。あひょっとして【nectar】に入るんですかあ?」

 ……ついでに言っておくと、これで寝惚けていない。


 この子。すめらぎ瑠樹るきは天然だ。天然ものの天然だ。


「違うよ、瑠樹。未来さんは新しいマネージャー……候補で連れてきたんだよ」

「あー、そういえばそうだったねえ。さ、座って座っ……すぅ」

「すげえ……これが皇瑠樹の一秒睡眠」

「む。私も一秒絶頂なら出来るもん!」

「最悪の対抗心燃やさないでもろて」


 まあ、ずっと立ちっぱなしなのも向こうに悪い。


 俺は彩夏に確認を取りながらも向かいのソファーに座った。


 それを見計らって、羽生さんが近づいてくる。


「それじゃあ……とりあえず、未来君と零ちゃん。自己紹介だけお願いしていい?」

「あ、そうですね」


 そういえばしていなかった。


「俺の名前は蒼音未来。彩夏から話は聞いてるかもしれないが……まあ、割と普通の男子高校生をやってる」

「普通……ねぇ」

「むにゅ……確か、お昼寝が好きなんですってねえ。今度一緒にお昼寝しましょう」

「え、まじ? よろこん…………こほん。めちゃくちゃ揺れたけど丁重にお断りしておこう」

「みーちゃんは私と夜のプロレスするので忙しいもんね」

「した事ねえわ。つかお前も自己紹介しろ。いや、俺がやる」

「どうも。蒼音未来ことみーちゃんの妻の九条零です。特技は生霊を飛ばすことと未来を読む事です」

「くそ、手遅れだった……」

 つかなんだその自己紹介。現代世界で聞かねえぞ。


「あはは。それじゃあ私もしておこうかな。金城沙良、特技は空手で趣味は漫画を読む事かな」


 そう。ついでに言っておくと、漫画は少女漫画をよく読む。あとでっっっっっ。休日の過ごし方は朝起きてまず風呂に。そして、ご飯を食べて午前中は空手の稽古。午後は自由時間で、【nectar】のメンバーと遊んだり、漫画を読んで過ごす。SNSの投稿も盛んで呟けば毎回バズるのでインフルエンサーとして美容グッズやぬいぐるみの案件なんかも「みーちゃん。一回落ち着こっか」


 零の言葉に俺はハッとした。


「わ、悪い。ついいつもの癖で」

「それテレビに【nectar】が出る度やってるもんね……」

「……今更だが、このやり取り俺達しか分からんからやめておこう」


 俺が言い終わるのと同時に瑠樹が起きた。


「ふわぁ……私は皇瑠樹です。趣味は……おやすみなさい」

「知ってた」


 皇瑠樹。見ての通り眠るのが大好きな女の子だ。時々彩夏や沙良が瑠樹の眠ってる写真をSNSに投稿してバズっている(本人了承済)

 そして、休日の過ごし方だが。なんと。ご飯を食べる時と彩夏か沙良と遊ぶ時以外は寝ている。それで健康とか色々やべえと思われがちだが。睡眠は美容に良いと本人が言う通りめちゃくちゃ健康体だ。肌もぷるっぷるででっっっっ。


 そう。【nectar】の三人は全員がでっっっなのだ。3サイズは公表されてないので分からないが、俺の見立てだと「みーちゃんみーちゃん。オタク君になってるから落ち着いて」



 割愛。


「それじゃあ自己紹介も終わった事だし、先にマネージャーの業務の説明していいかな? やるかどうかはそのあと決めていいから」

「……分かりました」


 正直、自分の手に余りそうなら全然断るつもりだ。自分の出来る事などたかが知れてる。


「とは言っても、そんなに難しい事じゃない。【nectar】の仕事を獲りに行くとかは私でも出来るから。未来君も高校生活があるだろうしね」

「……それで、具体的な業務は?」

「せっかちな男は嫌われるよ?」

「確かにみーちゃんは早漏だけど女の子にモテモテだよ」

「お前は黙っててくれない?」

「……ふふっ。具体的な業務ね。【nectar】のスケジュール管理だけかな。どうしてもこれをやれる人材が居なくてね。ずっと【nectar】のメンバーと付きっきりにならないといけないから、結構時間が取られるんだよね」


 その言葉に……俺は思わず眉を顰めた。


「……それだけですか?」

「うん、それだけ。残りの仕事は他の人に振り分けられるから。細かいスケジュール管理に関しては現在入院中のマネージャーのスケジュール帳があるからこれを参考にして。……それと、この仕事で一番大変なのはね」



 羽生さんが俺の目を見て。ニヤリと笑った。



「瑠樹を朝起こす事と、沙良を時間通りの行動させる事」

「……え?」


 その思わぬ言葉の……俺は間の抜けた声が出た。


「この二人がめちゃくちゃ問題児なんだよ。ねえ?二人とも」

「あはは……うちなータイムは大事さー?」

「こんな時だけうちなーんちゅにならないで」

「酷いなー。これでも琉球空手の有段者なんだよ?」

「むにゃむにゃ……」


 ちなみにうちなータイムとは、沖縄県民独特の価値観みたいなものだ。沖縄ではなんくるないさーどうにかなるさの精神で、細かい事は気にしないらしい。全員がそうとは限らないだろうが。


「……とりあえず、朝は瑠樹を起こして。そして、スケジュール通りに三人と動けば良いという事ですか?」

「ええ、まあ。そういう事。どう? マネージャーとは言っても臨時だし。いい経験になると思うけど」


『いい経験』

 その言葉に思わず惹かれてしまった。


「こんなチャンス滅多に無いよ。今や日本のトップアイドルである【nectar】のマネージャーなんて」

「……一つ。聞かせてください」


 元々聞こうと思っていたが、タイミングがなかった。


「どうして俺なんですか? 他にもやれる人は居ると思うんですが」


 そう聞けば。羽生さんが真面目な顔になった。



「いい? この仕事はそこまで難しくない。でもね。問題は情報の流出なの」


 羽生さんがビシっ! と俺を指さす。


「特に君。未来君。この世の中、石を投げれば【nectar】ファンに当たると言っても過言じゃない。もし臨時マネージャーになった子が彩夏のファンなら? ……もし、その子に未来君の存在がバレたら?」


「……彩夏に危害が及ぶかもしれない」

「ええ。そして、その事をSNSでバラされたら? ……一応、私達でも対処はするつもりだけど」

「……【nectar】の存続の危機に」

「そういう事。それと、【nectar】は美少女揃い。男でも女でも惑わされるほど。……だから、とにかく理性の強い、口の固い人が必要だった。そんな時に彩夏から推薦があったのよ」


 ……彩夏が? いや、想像はしていたが。


「……はい。未来さんの理性はどんな男の子よりも強いです。それに、未来さんなら外部に情報を漏らすはずがありません」

「ちなみに言っておくと、彩夏が全裸でみーちゃんを押し倒して誘惑しても堕ちなかったよ」

「……ED?」

「不能ちゃうわ」


 沙良へとそう言いながらも、俺は一つ。息を吐いた。


「……まあ、彩夏の推薦なら断れないな」

「!」

「期間は一週間ですよね?」

「ええ。謝礼はこれぐらいを想定してるわ」


 そうして羽生さんが電卓を見せてくる。……え?


「……桁が一つ多くないですか?」

「あら。【nectar】の価値がそんなものだと?」

「思いません!」

「よろしい。それと、もし望むなら現マネージャーが戻ってきた後もマネージャー補佐として雇えるから。考えてちょうだい」

「……分かりました」


 俺が頷くと。羽生さんが手を差し出してきた。



「それじゃあ、これから宜しくね? 蒼音マネージャー」

「……はい。出来る限り頑張ります」


 そうして。俺は【nectar】の臨時マネージャーとなった。






 その次の日……この選択を後悔する事になる事をこの時の俺はまだ知らない。



「不穏なナレーション付けないでくれない? 零」

「今日あんまりふざけられなかったからつい……」

「そういえばなんでお前着いてきたの?」

「みーちゃんの傍に居ればあわよくば事務所で【nectar】のライブ映像見ながら背徳感マシマシセッ〇ス出来ないかなって」

「いともたやすく行われるえげつない行為やめろ」

「……未来さん!」


 その時、俺の手に柔らかい感触が。……ん?手じゃない?


「よ、よろしくお願いしますね。未来マネージャー!」

「フォカヌポウ……じゃない。おっぱい柔らかい……びゃない。任せてくれ!」

「……彼、本当に大丈夫?」


 そうして! 俺は【nectar】の臨時マネージャーになったのだった!(ヤケクソ)

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