第四章理性Lv99とトップアイドルグループ

第61話 ボク、未来さんのせいでえっちな子になっちゃったんだ

「……待て待て。話が読めん」


 なぜ俺が? 彩夏の事務所に行く事になるんだ?


「あれか? 一人で行くのが怖いみたいな?」

『……いえ。違います』


 すっごい嫌な予感がする。まさかな。そんなはずがない。


「となると……なんでだ?」

『……詳しい事は後で話します。一緒に向かってくれませんか?』


 少し必死な声に。俺は思わずため息を吐いた。


「分かった。今から向かうのか?」

『はい、今運転手さんと一緒に未来さんの家に向かっています』

「だから急いでいたのか……分かった。準備をして家から出ておく」

「あ、彩夏ちゃん。私も行くからね!」

「零さん?」


 気づけば零が後ろにいて、俺に抱きつくようにしながらマイクのある部分へそう言った。


『……分かりました。あと十分程で着きますので、準備をお願いします』

「了解だ」


 そして、電話を切る。すぐ横に零の顔があった。


「ふふ。三人でデートだね、みーちゃん」

「話聞いてた? いや、聞いてないよな。なんで来るって言ったんだよ」

「カーセッ〇ス3P出来るかなって」

「出来ねえしやらんわ」


 一つため息を吐き、俺は立ち上がる。


「なぜか【nectar】の事務所に行ってくる事になった。何時に帰るのかは分からんから適当に帰って欲しい」

「あいあいさー」

「ふん。あんまり彩夏に迷惑かけないでよね……別に寂しいとか思ってないし」

「ツンプレ助かる」

「私は……未来君のベッドに匂い付けしとくね♡」

「行ってらっしゃーい。お土産は味付きゴムお願いねー」

「輪ゴムを食わせてやろうか」

「輪ゴムプレイ……?」

「ニッチにも程があるなそのプレイ。……とにかく行ってくるからな」


 少しだけ不安を覚えながらも、俺は準備を始めたのだった。


 ◆◆◆


「みーちゃんみーちゃん。待ってる間青姦しよ」

「やっぱりお前エロ漫画の世界から来てない?」

「大丈夫。私たち以外に観測されなければその事象はなかった事になるんだよ。これがシュレディンガーのセッ〇スだね」

「それ言いたかっただけだろ」

「まあまあ。とりあえず一発ヤらない?」

「初体験が外は刺激的すぎる」

「私が相手な時点で刺激的だよ」

「いい意味でも悪い意味でもな」

「そんな褒めなくても……」

「くそ。プラスマイナスでマイナスって言いたいけど確実にプラスなんだよな。なんかイラってきた」

「腹パンする?」

「コンビニ行く? のノリで言わないで」


 などとやっていると、一台の車が来た。


「うおっ……何この車高そう」


 真っ白で高級そうな車だ。車種とかはよく分からないが。


「未来さん、零ちゃん。乗ってください」

 窓が開いて彩夏がそう言ってきた。

「あ、ああ。分かった」


 俺は彩夏に言われた通り車へ乗る。俺に続いて零が乗った。


 俺の右隣に彩夏、左に零が居る状態だ。運転手は女性のようだ。やはり【nectar】がアイドルグループだからなのだろうか。


「それで? なんで俺が事務所について行く事になったんだ?」

「……もう、薄々察しはついてると思いますが」


 彩夏は俺の目をじっと見た。



「【nectar】の臨時マネージャーになって欲しいんです」


 ◆◆◆


「ねえねえ! お兄ちゃんのえっちな本と動画の鑑賞会しようよ!」

「未来君の心をへし折りたいのかな、新ちゃんは」

「見たい!」

「や、普通にプライバシー的なあれでダメでしょ」

「……最近お兄ちゃん、女の子に甘える漫画買ってたんだけどなー。具体的に言うと授乳プレイとか」

「未来君の尊厳が……」

「…………いつかはしないといけないか。好みを調べるのも無しではないかも」

「懐柔されるの早いね!?」

「もう一つ言っておくと、お兄ちゃん現実で性癖が左右されやすいから。静ちゃんとか星ちゃんに似てる子とかも居るよ」

「ふふ。そうなんだ、未来君。やっぱりおっぱいが小さくても良いんだね……♡」

「ふ、ふーん。そっか。そうなんだ。……まあ、未来君にバレなかったら未来君が傷つくこともないか」

「シュレディンガーのお兄ちゃんだね」

「その例えだと未来君の生死に関わるんだけど……」

「お兄ちゃんのせい「はいはい、あんまり女の子がはしたない言葉使わない」星ちゃん! ツンデレママが意地悪する!」

「はいはい、ツンデレママの言う事はちゃんと聞きましょうね」

「うぅ……はーい」

「……私、ツンデレでもママでもないんだけど」

「え? じゃあお兄ちゃんの『ツンデレママにイチャ甘えっちされるだけのお話』は見ないの?」

「…………や、それは見るけど」

「よし、それじゃ見よー!」


 ◆◆◆


「くしゅん」

「……珍しいな。零がくしゃみなんて。ほら、ティッシュ」

「ありがと、みーちゃん。……でも大丈夫。多分ネタが被っただけだから」

「普通噂されたとかじゃないの?」

「似たようなもんだよ」

「そうなのか……?」

「二人とも、そろそろ事務所に着きますよ」


 俺は彩夏の言葉で我に返った。


「やべ……結局彩夏から詳しい話聞けなかった」

「もう、みーちゃんってば。悪い所だよ?」

「彩夏が一言話す度にお前が百言ぐらい話すからだろうが。いや、突っ込む俺も俺なんだが」

「大丈夫ですよ。プロデューサーがもっと細かい所まで話す予定でしたから」

「いやもう、まじでごめん」

「ふふ。本当に大丈夫ですよ」


 そう話していると……事務所のあるビルへと着いた。そう。【nectar】の事務所はそんなに遠い場所ではないのだ。


「ありがとうございました、田熊たぐまさん」

「いえ。これが私のお仕事ですから。それではお気をつけて」

「「ありがとうございました」」


 俺と零でもお礼を告げて、車から降りる。


「ここのビルの二階です。応接室があるのでプロデューサーとはそこで会えるようになってます。着いてきてください」

 やはりと言うべきか、彩夏は仕事モードに入りつつある。いつもの柔らかい笑顔が抑えられ、少し硬い雰囲気だ。


 そのビルの中へはすんなりと入れた。彩夏の顔パスだ。


 中には多くの人が居る。彩夏が受付らしい人の所へ向かう。


「切長彩夏です。プロデューサーに来た事を伝えておいてください」

「あ、彩夏ちゃん!? ……って事はそこの子が!? へぇ……頑張ってね!」

「……比屋根ひやねさん。い、一応仕事上の確認ですから。プライベートな話は……」

「ふふ。ごめんなさい。羽生はぶさんに伝えておきます」


 ……おや? 彩夏の耳がピクピクと動いている。



 もしかして……あれか? 俺達の前だから張り切ってるとか。……さすがに考えすぎか。


「い、行きましょう、未来さん。零ちゃん」

「あ、ああ」

「ん」

 俺は彩夏に続いて、エスカレーターで二階へと向かう。


 途中で色々な人が彩夏を見つけて笑顔で会釈をしていた。……当たり前だが、ここでも人気者らしい。


 そして……なぜか、少しずつ彩夏の距離が近くなってきた。


「い、一応。未来さんが私の好きな人だとここの人達には知れ渡っていますので。あんまりよそよそしくするのは……と。零ちゃんも居ますから」

「……そうか。そうだな」


 ここで零は割とイレギュラーな存在だ。……いや待て。普段からイレギュラーな存在では?


「というかこの世でイレギュラーな存在だろ」

「やっぱり常識って壊してこそだと思うんだよね。みーちゃん」

「まずは常識を知ろうか」

「私の辞書には以下略」

「略すな」

「みーちゃんしかいない定期」

「そんな定期があってたまるか」

「定期的に言いたくなるんだよね」

「今度みっちり叩き込んでやるからな」

「あ、有り余る性欲を私に……?」

「常識だよ! モラルだよ!」


 などとやっていると……手が暖かく小さいものに包まれた。彩夏の手だ。


「……むぅ」

「アッ」

 彩夏が頬を膨らませ、少し拗ねたような顔をして俺の手をぎゅっと握っている。可愛い。可愛すぎて禿げそう。


「今はボクも横に居るんですからね。……未来さんに見てもらうためなら、なんだってしますから」

「俺の推しが可愛くて辛い」

 公式からの供給がありすぎてしんどい。吐きそう。可愛すぎる。


「……ふふ」

 そんな俺達を見て、零が笑っていた。


「どうした? 零。妄想の中の俺とエロい事でもしてるのか?」

「私をなんだと思ってるの? みーちゃん。合ってるけど」

「合ってんのかよ」

「ま、冗談なんだけどね。……彩夏ちゃんが前より素出せてるなって思っただけだよ」

 その言葉を聞いて。彩夏が目を丸くした。


「……そう、ですか?」

「ん。最初の頃はほんの少しだけ私に遠慮してる節があったよ。対抗心でえっちな事をしたり、とかもだけど。でも、今は違うよ」


 零が彩夏へと微笑んだ。


「素でえっちな子になってる」

「もっと他に言い方なかった?」

「私には及ばないけどね!」

「及んでもらっちゃ困るんだよ」

「……そっか。ボク、未来さんのせいでえっちな子になっちゃったんだ」

「もっと他に言い方なかった? パート2」



 彩夏が俺の腕を取り。その柔らかなおっぺぇにかき抱くようにした。


「……えっちな女の子は嫌いですか?」

「大好きです。じゃなくてだな……」

 思わず本音が出てしまった。しかし……彩夏は嬉しそうにくすりと微笑んだ。


「責任、取ってくださいね? 未来さん」

「ア、ァ……カワイイ」

「落ち着いてみーちゃん。どこかのストーカー山田君みたいになってるから」

「山田の扱い酷くない? ……あと彩夏さん。すっごいあの人に見られてるけど大丈夫でしょうか」


 俺達が居る通路には人が居なかったので割と自由にやっていたのだが。彩夏がえっちえっち言い始めた頃から奥に黒服のお姉さんが来てずっと俺達の方を見ていた。


 彩夏がそこを見て……あっと声を漏らした。



「ぷ、プロデューサー」

「はい?」


 彩夏が俺の腕を更に強く、その豊満な胸にぎゅっと抱きしめたのだったやわっこぉ!?

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