第51話 お前の前世どうなってんの? セクハラ魔王だよ
「未来さん、起きてください」
……最近、本当に目覚まし時計が息をしていないな。ちゃんとセットはされているのだが。いつの間にか止められているし、傍に誰かが居る。おかしいな。部屋に鍵はかけているのだが。
「ほら、早く起きないと遅刻するよ。早く起きな」
「うぅ……あと五分」
「いいから早く起きて――」
「あ、咲ちゃん。今布団捲ったら――」
布団がバサッと取られる感覚があった。
「……」
「……あ」
「……ん?」
それと同時に声が止んだ。不思議に思って重い瞼を開くと……
そこには、彩夏と……春山が居た。
え? なんで? なんで春山ここにおるん?
いや、それは良いとして……春山の視線の先には。俺のマイサンが。
うん。朝だから仕方ないです。男ですもの。
しかし……そんな俺の思いも虚しく。
「……ッ、変態!」
「ひでぶっ」
パチンと頬を叩かれたのだった。……そんな割と理不尽な事だが。俺は恐ろしい事を考えていた。
この理不尽な感じ、ちょっとラブコメっぽくない? ……と。
◆◆◆
「……という事でな? 男の生理現象なんだよ。いや、お前に不快な思いをさせたのはめちゃくちゃ悪かったと思う。すまなかった。でもな。俺に露出癖があるとか、女の子を辱めて喜ぶような変態じゃない事だけ知っておいて欲しいんだよ」
俺は今絶賛弁解中であった。理不尽だとは思うが。それでもこういう時は誠意を見せるのが一番だ。
「……もう良いから。分かったから」
「そうか、わかってくれ……」
てないな。すっごい蔑んだ目で見てきてるもん。俺がMなら喜んでるもん。ありがとうございます。
「……何見てんの……きも」
あ、あ、目覚めちゃう。いけない扉が開いちゃう。
おっと……これ以上は本格的に戻れなくなりそうなのでやめておこう。
「そういえばどうして二人がここに?」
「零ちゃんが言ったんです。二人で起こしたら未来さんが喜ぶ、と」
「やっぱりあいつか……」
「そういう事だよ、みーちゃん」
「きゃっ!」
タンスの中から零が出てきた。それに春山が可愛らしく悲鳴を上げる。
「どっから入ったの? それとどうやって出てきたの? あと普通に出て来れないの?」
「質問が多いから一個だけ答えるね。普通に出てくるのって面白くないじゃない?」
「他の二つの方が気になるな、俺」
「まあまあ。それよりみーちゃん、今日は勃ち方綺麗だね。ちゃんとテント張ってるよ」
「お前ってひょっとして前世セクハラオヤジだった?」
「あの頃のみーちゃんは尖ってたよね……私がおしり撫でただけで通報してきたし」
「お前の前世どうなってんの?」
「セクハラ魔王だよ」
「地獄みてえな世界だなおい。あとさっさとタンスから出てこい」
「みーちゃん起こしてー」
「一人で出られるだろ……ああもう、仕方ないな」
タンスに横たわっている零を起こす。
「……ちなみに新は居ないよな」
「…………みーちゃん。押し入れ開けてみて」
思わず自分の顔が引き攣るのが分かった。俺は押し入れへと向かって開くと……
「まあ嘘なんだけどね。あーちゃんが居なかったら星ちゃんが一人になっちゃうし」
「嘘かよ! 俺の緊張を返せ!」
「そんなに緊張したいならこの前のゴム百個使ってロシアンルーレットしよ。一個だけ穴空いてないのがあるから、それを選んだらみーちゃんの負けね。私が孕むまでヤリ続けること」
「わあすごい。100%子供ができるからドッキドキだねじゃねえんだよ」
「てへっ」
「てへっじゃねえ。それで俺が許すと思ったか?」
「もー、しょうがないなあ。みーちゃんが最近買ったえっちな本の題名晒してく?」
「すいませんでした許してください」
「ふふ。許してあげよう「キレそう」それよりみーちゃん、一人忘れてない?」
「一人? ……あ」
一人。彼女の名前が出ていない。そう、ヤンデレサイコパスカニバリズム少女こと静だ。
「えへへ……私はここにいますよ」
「当たり前のようにベッドの下から出てこないで貰える!? ホラーだよ!? 俺もうベッドで寝れなくなっちゃうよ!?」
「じゃあ私が肉布団になれば解決だね」
「私がやるの! 未来君と抱きしめあってかじりあって……♡」
「よし、一旦落ち着こうか。収集がつかなくなってきた」
とりあえずは、だ。
「まず初めに。この部屋の鍵を開けたのは?」
「あーちゃんだよ」
「あいつ……相変わらずだな」
「その後に私が入ってみーちゃんのみーちゃんでみーちゃんしてたよ」
「隠語が多いな!?」
「そ、そんな……みーちゃん。淫語だなんてそんな卑猥な」
「黙れ淫語の妖精」
「んっっ……みーちゃん、もっと罵ってぇ!」
「助けてくれ! 星!」
このカオス空間をどうにかするべく、俺は考える事を放棄して星を呼んだのだった。
……その星が亀甲縛りにされた新を連れてきたのだが、まあ。割愛しておこう。
という事で割愛。
「割愛した結果こうなりました」
目の前には亀甲縛りにされた痴女三人衆が。これなんてエロゲ?
「みーちゃん。犯すなり孕ませるなり好きにして良いんだよ。というかやって」
「そうだよお兄ちゃん! 孕ませろ!」
「そうだよ! 未来君、挿入してよ!」
「あれ、おかしいな。なんで縛られた側の方が強気なんだ? あと星は日に日に亀甲縛りの速度が速くなってないか?」
「今なら一分あれば出来るよ」
「プロじゃん」
星とそんな会話をしていると……後ろから声が聞こえてきた。
「……ねえ、彩夏。いつもこんな感じなの?」
「えっと……まあ、はい。こんな感じです」
ごめんな……彩夏。お前だって困惑してるよな。俺だって困惑してるんだよ。
「それより未来君、時間大丈夫?」
「……割と大丈夫じゃないな」
もう起きる時間はとっくに過ぎている。
「とりあえず着替えるか。なんだかんだで縛られてるが、解くぞ。下で待っててくれ」
「このままでいいよ、みーちゃん。みーちゃんの生着替えみたいから」
「私もー!」
「未来君の生着替え……ポロリは! ポロリもあるんだよね!」
「ねえよ。その格好のまま外に放り出すぞ」
「ご褒美!」
「……神様! ヘルプ!」
『だから無理だって。神様忙しいから。君達ウォッチングするのに』
「クソが! 役に立たねえな!」
「待って待って。そんな気軽に神様って呼べるの?あと神様になんて口調なの!?」
「まあそれは置いておこう」
「置けないよ!?」
二度目の割愛
どうにか俺は着替え、零達に押さえつけられながら無理やりあーんで食べさせられて朝食を終えた。春山からの視線が絶対零度になっていた。
「呼んだ?」
「回想の途中で挟まってくるんじゃねえよ」
……とにかく。やっと俺達は学校へと向かったのだった。
「ほらほら、そこの二人。もっとくっついちゃいなよ」
「仲良くしている男女をからかう中学生か。キャラを統一しろ」
ぐいぐいと肩を押してくる零に思わずため息を吐く。
「……俺達の周りはいつもこんなだ、というと語弊があるからな。今日は一際頭がおかしい」
「……いつもも中々頭おかしいんだ」
「否定できん。……無理はするなよ? 頭が痛くなったら言えよ?」
この空気に慣れるまでは情報量で頭がバグりやすい。今でも俺はバグるぐらいだ。
「……ふん。別に痛くならないし」
「それなら別に良いんだが」
一応、一目彩夏を見ておいた。俺には言えないだけなのかもしれないし。
「……ふん」
どうやら俺はかなり嫌われているらしい。仕方の無い事だとは思うが。
「……一応、彩夏の頼みだから。あんた、趣味とかはあるの?」
しかし、唐突に春山が聞いてきた。
「趣味か…………」
……あれ? 俺の趣味ってなんだ?
「え? 無いの?」
「…………強いて言うならツッコミだな」
「……それは趣味って呼べるの?」
「俺もどうかと思った。春山は?」
「……」
春山は何か悩んだような顔をして……口を開いた。
「援交、って言ったらどうする?」
「……また濃いキャラが増えたなと思うぞ」
なるべく重い空気にならないよう、俺は言った。
「はぁ?」
「俺の周りにはだな。人外幼馴染&妹に現役トップアイドルに元文学少女現地雷ギャルにあたおかヤンデレサイコカニバリズム文学少女が居るんだぞ。この中に援交少女が混ざった所で……なんならキャラが薄いぐらいだ」
自分で言っていてなんだが狂ってるな。特に最初と最後が。
「……へぇ。ま、嘘なんだけどね。そんな自分を安売りする事なんてしないっての。一応、私にそんな噂が流れてるから言ってみただけ」
「初めて聞いたな」
「結構男子達の間で有名だけど。聞いた事ないんだ」
「友達が居なくて悪かったな」
悪いが男友達など豪以外居ない。……居ない。
「べべべ別に? 悲しんでないし? 一人は一人で楽しかったし?」
「ちょ、ごめんごめん。悪かったって……でもさ。結構言われるんだよね。男子にいきなり呼び出されたかと思えば、万札出して『これやるからしゃぶってくれ』って。聞けば、中学の頃の人が言いふらしてるんだって」
「……」
また気分の悪い話だ。その男の発言が冗談だとしても。いや、それの方が笑えないな。
「ね、あんたの名前使っていい? 今はあんたの専用だって言ったら人も寄り付かなくなるっしょ」
「お前がそれで良いなら別に構わんが……」
「……は? いやでも、そんな事言ったらあんたの悪い噂付くよ? また女の子増やしただとか。今でも結構女子に嫌われてんだよ?」
「悪いが元信頼値ゼロを経験してるんでな。今更リセットされても痛くない。……高校生活はまだ長いんだしな。いつかは取り戻せるかもしれない。そんな事でお前のストレスが減るんだったら別にいいぞ」
まだ高校生活が始まって二ヶ月も経っていない。豪も居るんだし……どうにかなるだろ。
いや、どうにかする。
「……なんで? 女の子なら誰でもそうやって助けるわけ?」
「それこそ馬鹿言え。俺にそんな甲斐性があるわけないだろ。……確かに、目の届く範囲ならどうにかしたいとは思うが」
しかし、要らぬ気遣いになる可能性もある。そのせいで零達に迷惑をかけるという事も考えれば軽率な行動は取れない。
「彩夏の友達だからだよ。最推しの友達だぞ」
そして……友人の友人でもある。それはもう完全に他人とは呼べない。
「……これは嘘じゃないよ? ガチだよ? 本当にいいわけ?」
「ああ、良いぞ。好きなように俺の名前を使って」
しかし……俺はなんとなく確信していた。
春山はそれをしないだろう。芸能界という様々な人が居る中を生き抜いてきた、彩夏が選んだ友人だから。
「……ああもう! 訳わかんないよあんた!」
「咲ちゃん!」
そして、春山は俺から離れるように走り出していった。それを彩夏が追いかける。
「……よく耐えてくれたな、零」
「みーちゃんの邪魔はしたくないから。……でも、みーちゃんが良くても。私がそんな事させないよ」
零は……少し怒っていた。当たり前か。
「そんな事させるくらいならこの学校に居る男子を全員潰すよ。徹底的に」
「また恐ろしい事を」
「みーちゃんにはもうあんな思いはさせないから。絶対」
零がそう言って俺の手を取った。
「……ああ、ありがとな」
「ん。どういたしまして。ついでに指フ〇ラしていい? みーちゃんの指美味しそう」
「絶対にネタ挟まないと死んじゃう系ウーマンなの? それにしてはボケが雑だよ?」
「ずるいよ! 私も未来君の指食べたい!」
「こっちはボケじゃなくてガチだな。食わせねえからな?」
「……じゃあ私はどうすればいいかな? 未来君」
「星はまとも枠で居てくれ」
「お兄ちゃん! 私はどうする!? 脱ぐ!?」
「お前はさっき別れたよな!? さっさと中学校行け!」
……それにしても今日は朝から消費カロリーが高いな。
まだ朝だと言うのに。俺はため息を吐いたのだった。
◆◆◆
「……ああもう、どういう事なの」
私は走りながらも、痛む頭を抱えていた。決してあの混沌と化した空気に酔っていた訳では無い。
「なんで、嘘じゃないのよ」
彼が……蒼音未来が嘘をついていなかったから。
……私、春山咲は。
生まれつき、人が嘘をついているかどうか分かる。分かってしまう。
……あの時、仲間内でジャンケンで負けたからと言ってお金を出してきた生徒も。
体目当てじゃないと言って、告白してきた生徒も。
みんな、嘘をついていた。私が本当に体を売るって信じていた。
男なんて嫌いだ。……特に、ハーレムとかいう馬鹿げたものを作るのは。
それなのに……
「ああもう、頭バグりそ」
私は壁に背をつき……座り込んだ。
すぐ後ろに、彩夏がいる事も気づかないまま。
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