第47話 ライオンの檻からトラの檻に移されたな、俺

「……れ、零……?」

 今の今まで仰向けに寝転がされ、静に跨られていたはずなのに……今は零の腕の中に居た。


「みーちゃん……」

 零が俺を見た。


「一発ヌいとく?」

「台無しだよ。かっこいいって思ってたんだよ?今」

「まあまあ。まだ大丈夫みたいで良かった。あーちゃん、みーちゃんをお願い」

「任せて! お兄ちゃん! 今のうちに私で童貞捨てよ!」

「ライオンの檻からトラの檻に移されたな、俺。やめろ、さわさわするな」

「またまた。この暴れん棒を静かにさせないといけないでしょ?」

「私の出番? 呼んだ?」

「呼んでねえ。てか敵勢力なのによく普通に入ってきた…………な」


 その時、俺は気づいてしまった。



 部屋の中に零と新以外に……星と彩夏。それと、春山がいる事に。




 ……ん????


「……わっ、ちょ。あんなにおっきくなるの? 男子って」

「なんで???」

「み、未来さん。実はですね」

「なんで俺今日だけで同級生二人に全裸見られてんの?」

「あ、この世界の不条理に対しての疑問なんですね」


 おかしくない? 前世で何やったら同級生に監禁されかけた挙句全裸を見せることになるの? しかも片方はほとんど話したことない女子で、その上彩夏の友人なんだぞ。


「そういえばどうやってここに来たんだ?」

「その質問普通最初に来ません?」

「いや、零なら来るだろうと思ってたし」

 リビング零まで飛ばしてきてくれたしな。


「……確かに。どうやってここまで来れたの? 鍵は掛けてたし、即死トラップも用意していたのに」

「今すっごい物騒な言葉聞こえたんだけど」

「ふふ。じゃあ教えてあげる。ここまでの道のりを……」



 そして、零は話し始め――


「その前に俺服着て良い?」

「「「ダメ」」」

「ダメかぁ。そっかぁ。……やっぱり零と新ってそっち側だよな」

「まだここまではやってないし。いいから話すよ、みーちゃん。話が進まない」

「お前にだけは言われたくない言葉ランキング一位の言葉じゃねえか」


 零は俺の言葉を無視し、話し始めた。あの。むっつり三人組からの視線が凄いんですが。




 ――――――

 時は少し遡る。


「二人とも、浜中静の家を知らない?」

「浜中静? なんでまた? まあ、知らないんだけど」

「し、知らないです……」


 まずい。どうしよう。……ああもう! 久しぶりに怒っちゃってたから気づけなかった!


「れ、零ちゃん? どうしたんですか?」

 彩夏ちゃんが心配そうに私を見ている。



「……みーちゃんが危ない。多分、今は浜中静の家にいるはず」


 なんとなく分かるのだ。今、みーちゃんがどうしているのか。今は――




 眠らされている。眠いからでは無い。何か薬で、だ。


 あの手紙には『悪意』が無かった、純粋な『好意』だけ。……逆にそれを不審に思うべきだった。



『好意』以外のものは存在しない。それこそ、『緊張』も、『恐怖』も。……私と同じだったから大丈夫かと思ってたんだけど。


 そういえば私って危ない人だった。目の前ですやすや眠ってるみーちゃんなんて居たら、縛ってあんな事やこんな事をするに決まってる。



「……浜中さんの家を探せばいい、という事ですよね」

「ん、そういう事」

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそいつが危ない目に遭ってるって分かるのよ。彩夏もそんな簡単に信じて良いの!?」

「あの対決を見てたならわかるはずです」


 彩夏ちゃんが咲を見て言う。


「悔しいですけど。零ちゃんは未来さんの事を誰よりも理解しています。……それこそ、予知みたいな事すらも出来ます」

「……た、確かに」

「だから、零ちゃんが『みーちゃんが危ない』と言うのなら本当に危ないはずですよ。零ちゃん。浜中さんの家の場所を調べれば良いんですよね」


 私は彩夏ちゃんに頷いた。


「お願い、彩夏ちゃん。星ちゃんにはもう言って探してもらってる。私はどの辺りに居るのか探してくる」

「さ、探すって街中をですか!?」

「ん。……もし、あの女の家を誰も知らなかった時のためにね。みーちゃんが近くに来れば私も分かるから」


 ……あの子を飛ばすにはあと少し時間がかかる。昨日みーちゃんにいっぱい気持ちよくされたから。私から離れたらすぐに消えてしまう。





 三十分。それだけあれば出来るから。待ってて、みーちゃん。



 ◆◆◆


「あ、あの! 浜中静さんの家は知りませんか!?」

「ア、アヤカチャソ!? ゴゴメンネ、シラナインダ。ソレヨリデ、デートトカシナ」

「あ? 彩夏は今忙しいんだよ。黙ってろ」

「ヒ、ヒィ!!」

「落ち着け! SNSで【nectar】の三人でハーレムを作って――自主規制して――自主規制した後に――――自主規制したいと呟いて炎上しまくった挙句住所と学校まで特定された山田! あ、それと俺も浜中の家は知らないな」

「何やらかしてんだよお前……きも」

「ハウッ」

「ちょ、ちょっと、咲ちゃん! 暴言は良くないですよ! え、えっと、ありがとうございます。お二人とも!」


 二人に頭を下げてからそこから離れる。


 女の子の友達は星ちゃんの方が多い。ボクならアイドルをしているし、この学校でも男の子になら顔は利く。


 そう思っていると……咲ちゃんがついてきてくれると言ってくれたのだ。


『彩夏は危機感薄いんだし私もついてく。……あの男が連れていかれたのは私の責任でもあるし。で、でも! 認めてる訳じゃないからね!』


 ……という理由でだ。でも、あんまり良い成果は出ていない。


「男の子にモテるらしいですから、すぐ見つかると思ったんですけど……」

「仲良いアピールしてくるのは何人かいたけど誰も知らなかったし。はぁ」


 同じ中学だったと言っていた男の子でも、どの辺りに住んでいるのかすら知らなかった。



 ……でも、諦めない。諦める訳にはかない。未来さんもきっと、困ってるはずだから。


「次、行きましょ。咲ちゃん」

「はいはい。ついて行きます」


 咲ちゃんはどこか気だるげにしていたけど……ほんの少しだけ楽しそうにしていた。


 ◆◆◆


「ねー、せんせーい! 静ちゃんの家教えて!」

「いきなりどうしたんですか? 西綾さん。個人情報の保守義務があるので教えられませんよ」


 ……やっぱりか。


「えー? でもでも! 今すぐ必要そうな忘れ物があったんですよ!」

「それでもダメですよ。連絡は取れないのですか?」

「あー……連絡先交換してないんで」

「それなら私から連絡をしておきます。何を忘れたんですか?」


 ……うっ。そうなるよね。


「あ、あれー? 確かカバンに入れてたはずなんだけどなー? どこおいたかなー? 今持ってきますねー!」

「あっ、ちょっと待ってください! 西綾さん!」


 とりあえずそこから逃げ出した。


「……はぁ。次どうしよっかな。あいつ部活にも入ってなかったみたいだし」


 女子もほとんど仲良い人は居なかった。ああもう、私があの時未来君を止めていれば……。


 その時、一人の男子生徒が見えた。



「げっ」

「げっとは何だ。俺のセリフだぞ」

 そこに居たのは相葉豪。……苦手な生徒だった。


 どうして苦手なのかと言われれば……未来君が取られるんじゃないかと思ったからなんだけど。彩夏ちゃんが来るまで、未来君はあんまり人と仲良くしようとしなかった。……仲良くなろうと思ってたら先に彼の方が仲良くなってたのだ。


「…………はぁ。仕方ないか。相葉君、未来君が大変な事になってるみたいなの」

「藪から棒になんだよ。未来が大変なんていつもの事じゃねえか。この前はハーレム対決とかいうのに巻き込まれてたし」

「や、それはそうなんだけどさ」


 先程あった事を説明する。


「……まじ? ついにあいつ拉致監禁されるぐらいになったの?」

「そーいう事。そういう事であの女の住所探ってるんだけど。相葉君は……知ってたら怖いね。ごめん、忘れて」

「はぁぁ!? それはそうだが気に食わねえな! クソ、腹は立つが未来が心配だ。浜中静の家だな? 俺の交友関係の広さ舐めんなよ。速攻で見つけてきてやるわ」

 そう言って相葉君はどこかへと走り出した。


「あ、なんかあったら私か零ちゃんか彩夏ちゃんか咲ちゃんに連絡してねー」

「おう! ……なんか増えてねえか!? まあいいか」

「ありがとねー」

 そうして相葉君は居なくなった。


 よし、私も探しに行こう。


 ◆◆◆


「……違う。こっちじゃない」


 いつもの家へ帰る道に来てみるも、どんどんみーちゃんの気配が薄れていくだけだ。


 その時、スマホに電話がかかってきた。それを取る。


「あーちゃん! そっちはどうだった?」

『こっちじゃないみたい! 反対側かも!』

「分かった。じゃあお互い反対の方に行こう」


 あーちゃんにはまた別の所を調べてもらっていた。……しかし、かなり時間がかかってる。あれから二十分経ったのか。


「あーちゃん。ダッシュでいける?」

『よゆー!』


 あーちゃんの声を聞いて……私は電話を切った。


 そうして急いで学校に戻っていると……また電話がかかってきた。


「もしもし、星ちゃん!」

『零ちゃん! 今相葉君から連絡があってね』


 その言葉を聞いて――


『あの女の家が分かったって!』

 私は拳を握りしめた。


 ◆◆◆


 それからすぐに私は星ちゃん達と合流した。あーちゃんにも伝えて、高校の近くで待ってもらってから。


「それで星ちゃん、静ちゃんの家はどこなの?」

「こっちの方。マンションの三階らしい」

「分かった。そっち……ッ」


 ザワりと。背筋に嫌なものが走った。


「……みーちゃんが起きた」

「まじ!?」

「ん。……でも」


 このチクリとしているのは……頭? 頭が痛いの?


「体調が良くなさそう。急ご」

「……! 分かった!」



 私達はそこに向かって急ぎ足で向かう。この際、咲がいるのは置いておこう。


 ……しかし。


「違う。ここの方向にみーちゃんは居ない」


 みーちゃんが起きたからか、先程よりな気配が強くなっている。


 ……でも。それ以上強くならない。


「え!? どういう事!?」


「分かんない。……でも、お兄ちゃんはこっちの方に居ないのは確かだよ」


 あーちゃんも気づいたらしい。……咲ちゃんが唖然としているのは置いといて。


「……よし、アレ。使うね」

「アレ使うの? で、でも。出来るの?」

「ふふ。私を舐めないで、あーちゃん」


 みーちゃんが起きたお陰で出来る。……みーちゃんがえっちな目に遭うのかもしれないのだ。



 ムラつくでしょ。そんなの。




 目を瞑り、深呼吸をする。


 そして、お腹の奥の方に意識を向けると……



「……え? 今なんか出た? 零ちゃんの胸から」

「生霊みたいなものだよ、星ちゃん」

「なんでそんな気軽に超常的な現象を起こせるの?」

「正確には私の性欲が自我を持ったものだけどね。分霊みたいな?」

「結構神秘的だなーとか思ってたんだけどめちゃくちゃ恐ろしいものだったよ」


 お陰で久しぶりの賢者タイムだ。昨日ぶりだけど。



 視界に映ったのは私達。……まだ、私達が向かっていない方向にそれを飛ばす。


 やっぱり……そっちで合っているようだった。一番みーちゃんの気配が強いのは……少し古そうな一軒屋だった。


 そして……



「……見つけた」

「えっ!?」

「こっちだよ! 来て!」


 私はそこに向かって走り出した。



 ◆◆◆


「その後この家に入ろうとしたら毒針が飛んできたり、鍵を開けるのに一つでもミスしたら即爆発する罠があったりしたけどどうにかしたの」

「一番面白そうなとこ省いてんな!?」

「ちなみに鍵を開けたのは私だよ! お兄ちゃん!」

「だろうと思ったよ。こんな所でお前の悪癖が役立つとはな」

「えへへ……「褒めとらん」南京錠から電子ロックまで全部開けれるもんね!」

「やだこの妹。早く警察に突き出さないと」

「……まさか本当に見つかるとは思わなかったんだけどね」

「安心しろ、星。多分こいつらは別の星の住人だ」

「お、お兄ちゃん。あんまり上手くないよ?」

「そんなつもりで言ってねえわ」

「え!? 未来君って食べられた事あるの!?」

「そっちの美味いじゃねえんだよ。てかボケ枠増えるの? めちゃくちゃ怖いんだけど。俺の体持たなくない?」



 ……まあ、それにしても。


「ありがとな。今までで一番ピンチだったかもしれん」

「みーちゃん……」

「お兄ちゃん……」

「「そんなにピンチなら私達で射精させてあげよっか?」」

「そっちのピンチじゃねえんだわ! いや、確かにピンチではあったが!」


 ああもう、頭が痛いのに大声を出してしまった。


「あ、そういえばみーちゃん頭痛いんだったね」

「……私、痛み止めなら持ってるけど。使う?」


 痛む頭を押さえていると、春山にそんな事を言われた。俺は頷こうとして……やめる。


「待て。その前に俺は静によくわからん睡眠薬で寝かされてる。併用したら危ないとか無いか? 静」


 一応敵である静に聞いてみる。


「ああ……未来君が苦しそうにしてる……♡抱きしめてなでなでしてあげたい……」

 あ、ダメそうだ。

「分かる。辛そうにしてるみーちゃんも可愛いよね」

「零さん???」

「でもね」



 零は静かに……すっと、目を鋭くした。


「みーちゃんは笑顔が一番可愛いから。だから、多少手荒になっても聞き出すよ。……それに、色々と聞きたい事もあるし」

「ふふ。幼馴染は負けヒロインって古代から言われてるんだよ。やれるものならやってみて」


 そうして、バチバチと睨み合ったのだった。

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