第46話 なんで骨を断たせて骨を断つの? 馬鹿なの?

「まあでも……零って頭のネジが百本は外れてるし、今更二、三本の違いなんてあってないようなものか」

 よくよく考えればこれ全裸で手足を拘束された状態って別にピンチには入らないな。はは。


「……ふふ。余裕なんだね。それならこのまま一回、未来君が射精する所も見てみたいな」

「ごめんなさい勘弁してください何でもはしませんけど」

「いい顔……♡」


 あれ? やばくね? やばいよな。本格的にやばいかもしれない。



 ……どうしよう。まじで貞操の危機かもしれない。



 …………そうだ! イマジナリーじゃなくて零の生霊!



 今だ、出番だ!




 …………。





 ……あれ? へい! 零の生霊! 新の生霊! カモン!



 ……………………。



 ……まさかとは思うが。この前零に吸われた後から戻ってきてない?



 え? 俺自由になった? もしかして。



 …………このタイミングでか。そうか。これが日常の中なら喜べるんだが。



 いや、これも実質日常みたいなものなのか。はは。


「そういえば未来君。私の体……どうかな。小さいけど、えっちに見える?」

「……」

「もー、黙ってたら分からないよ? 噛みちぎってあげよっか?」

「やめてください許してください女の子になってしまいますから」


 訂正。こんな日常があってたまるか。

「それで……どうかな? あんまり大きくはないけど。すべすべしてるでしょ?」

「擦り付けないで! なんでこんな時でも反応するんだ俺の中の男の子! あとすっごいすべすべもちもちでえっちです…………俺は何を……」


 腕が今まで感じたことの無い幸せを感じてしまってる……うぅ。やだ。もうおっぱいやだ。でも嫌いになれない……うぅ。


「ふふ。……ね、しゃぶってみていい?」

「ダメです!」

「まだ誰にもされた事無いんだよね。……私が初めてじゃ不満かな?」

「そういう意味では無いが! というかなんで分かったんだ!?」

「メスの匂いがしないから」

「犬かな?」

 なんでそんな当たり前かのような表情で言うの?というか俺もかなりキてるな。なんで同級生女子に裸に剥かれた挙句子作りからの捕食を宣言された後にこんな対応できるんだ。零のお陰せいだな。

「それとも……こっちがいい?」

「アッー♂いけません! お客様! そちらは違う穴♂です! 勘弁してつかぁさい!」

「もう、わがままだなあ、未来君は。……かといっておっぱいは……もうされてるし。チッ……あのクソメスが」

「……え? 今なんと?」

「じゃあ……未来君の悦ぶ所……探そっかな」

「ひゅっ……」


 先っちょの部分が指でなぞられた。思わず変な声が出た。


「ふふ。可愛い」

「やめて! ここから先は映せなくなるから! 次のシーンになったらレイプ目の俺が映る事になるから! …………くそ、新が来ねえ! いつもなら来るのに!」


 エロ漫画の気配を察知したらいつもどこからともなくやって来るはずなのに……来ない。


 その時だ。



(……見つけた)


「ッ……!」


 零!? イマジナリーじゃなく分霊的なやつか!? そうだ、名前をつけよう。……生霊。リビング零でどうだ? 凄いダジャレみたいだが。いや、これだと直訳するとただの生きてる零なんだが。まあ別にそれでも――


(しっ。みーちゃん。バレる。よく聞いて、みーちゃん。どうにか時間稼ぎを――)

「あれ? 誰かな。未来君の中に居るのは」


 ゾワリと全身に鳥肌が立った。


「ふふ。悪い子が居るね。未来君、今かっさばいて悪いのを取り除いてあげるね」

「世界観違うんだって! 猟奇的殺人ミステリーorホラー世界にお帰りください! ファンタジー世界でも可!」


 このままだと貞操も命も危ない。あれ? これピンチでは?(n回目)


(……私はここまで。今向かうからみーちゃん、時間稼いどいてね)

 あ、零! リビング零!


 ……居ない。


「……あれ。消えた」

「だから世界観違くない? 分かる? これじゃラブコメじゃなくて闇鍋だよ」

「闇鍋……未来君の内蔵でなら当てれる自信あるよ、私」

「ヤンデレサイコ系ヒロインかぁ……。バッドエンド直行してるんだよな。これ」

「我慢出来なくなってきたかな。未来君、一口ちょうだい?」

「そんなお菓子みたいなノリで食べようとしないで? 断るよ? 当然」

「むぅ……先っちょ! 先っちょだけでいいから!」

「だからそれ女の子側が言っていいセリフじゃないんだって。てかどこかじろうとしてるの?」

「表面だよ」

「先っちょ全部をかじってくの!? 俺から皮がなくなるの!?」

「ふふ。でも未来君、ここは元々皮被ってないもんね」

「やめて。そんなボスの弱点を見つけた勇者みたいな顔しないで」


 こんな時に零との経験が生きてくるとは思わなかった。……いや、やはり相手が零や新ではない分キレは落ちてるが。

「……そういえば、今は何時なんだ? 外が見えないが」


 窓にはカーテンがされていて、今が夕方なのか夜なのか分からない。


「んー。今は五時半くらいだよ。未来君が眠ってたのがだいたい三十分だから」

「あ、俺それぐらいしか寝てなかったんだ」

「未来君、一気に飲むと思ってたんだけどなぁ。そしたら三日間は起きなかったはずなのに」

「サラッと恐ろしい事言ってない?」

「でも、眠ってる間は大きくならないのは想定外だったし。あ、もしかして未来君、そこまで分かっててあれだけしか飲まなかったのかな?」

「ヤンデレの特徴その一 思い込みが強い」

「ふふ……でも、良かった。誰かの物になる前に捕まえられて」

「ヤンデレの特徴その二 独占欲が強い」

「もうこれから先はこの家で暮らすんだよ? 絶対外には出さないから。私がぜーんぶ、管理してあげるね」

「ヤンデレの特徴その三 管理したがり……あれ、おかしいな。全部零にも当てはまるぞ」

「ふふ。未来君、強がってるけど……可愛い。瞳から恐怖の感情が漏れ出てるよ」

「ヤンデレの特徴その四! ドS! やめて! 玉をさわさわしないで! ぎゅってしないで! 怖い怖い怖い怖い!」


 やばい。静がその気になったらいつでもタマを取られる。


「あ、あの。静。どうやったら俺が解放されるのか知りたいなって思ったりしてるんですが」

「ふふ。子供を作ったらこの部屋からは出してあげるよ」

「そんなS〇Xしないと出られない部屋の上位互換みたいな……」

「ちなみに子供の五歳の誕生日になったら未来君でフルコースを作ってあげるからね」

「最終回は暴走した俺が静に泣きながら調理されて終了ってか。ト〇コの最終回かよ」

「ふふ。大丈夫じゃないかな。ほら、ああいうのって次の週になったら何事もなく復活してるし」

「やっぱりこの世界はギャグ漫画時空だったの?爆発オチしとく?」

「この物語に終止符ピリオドを打つにはまだ早いかな」

「やめて! 俺の黒歴史があああああぁぁ!」

「私も患ってたからね。その気持ちはすっごい分かるよ。暗黒騎士と姫騎士のイメプする? ごふっ」

「なんで骨を断たせて骨を断つの? 馬鹿なの?」

「み、未来君となら……それも良いかなって」

「俺の周りって自爆特攻型多すぎない? もっと平和に行こうよ。ヒーラーになろうよ」


 というかなんで俺は零とやりそうな会話を静としてるんだ? ヤンデレサイコあたおかってそれはもう零だったりするのか? 静=零なのか?



 ……ダメだ。頭痛くなってきた。


「大丈夫? 未来君。頭痛いの?」

「やめろ! 母性で俺を篭絡するな! 今までにないアプローチで揺らいじゃうから!」


 くそ、膝枕をされた上に頭を撫でられるとか生き地獄天国じゃねえか。あっやば、眠く……





「あっっ……ぶねえ。耐えた」

 今俺が意識を失ってどうするんだよ。あっ、ふともも柔らかい。じゃなくて。





「……じー」

「すっごい見られてる上に嫌な予感がします」

「よいしょ」


 俺は反対向きに寝かされた。……目の前には静の引き締まったお腹が。ちゃんと運動とかしてるんだな。

「未来君」

「……なんだ?」

「目、逸らさないでね?」


 ものっそい嫌な予感がした。俺は全力で目を閉じ、呼吸を止めた。


 次の瞬間……顔に生暖かく、ぬるっとしたものが……


「んっ……もう、恥ずかしがり屋なんだから」

「飛ばすねぇ!? 本当に消されないか心配になって……来たよ!」

「あんっ……」

 やべ、つい癖でツッコミを。零にジェットエンジンを付けたような勢いだったからやってしまった。ぐっ。息が……こんな意味のわからん状況で窒息死とかやだわ。ダーウィン賞貰うやつだろ。葬式で豪が爆笑するに決まってる。……思えば最近豪と喋ってないな


「ふふ。でももういっか。お互い準備万端だってわかって貰えた事だし」


 やっと、顔の前からそれは消えた。恐る恐る瞼を開くと……静の顔が目の前にあった。


「それじゃ、未来君。しよっか」

 俺は仰向けにされ……静が跨った。



「ま、待て。そうだ、お互いまだまだ知らない事もあるだろ? 色々と話をしないか? 好きな物とか」

「未来君だよ」

「好きな食べ物とか」

「未来君だよ」

「好きな飲み物とか」

「未来君だよ」

「好きな色とか」

「未来君だよ」

「好きな同性の人とか」

「未来ちゃんだよ」

「おい待て。俺は男だ」

「未来ちゃんにした後の話だよ?」

「怖ぇよ! というか全部怖ぇよ!」


 ダメだ。埒が明かない。どうしよう。


「ふふ。私さ、上の口と下の口。同時に初めてを終えたかったんだよね」

「とんでもない下ネタぶち込むのやめない? いや、今更なのは分かってんだけど。そろそろさ。一回お茶しない? 話し合お?」

「さっきの麦茶ならあるけど……飲む?」

「やめておきます」


 やべえ。どうしよう。まじで。


「そ、そうだ。それなら「ふふ。まだ時間稼ぎするつもり?」」


 ……バレていた。


「たしかにこのやり取りは楽しいね。零ちゃんが羨ましいや。……でも、もう終わりだよ」



 静が唇をぺろりと舐めた。


「さ、しよ♡未来君♡」


 そして、その顔が近づいてきて……











「お待たせ、みーちゃん」


 次の瞬間。気がつけば、俺は零の腕の中に居たのだった。

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