第43話 みーちゃんの意地悪! 雄っぱい飲ませろ!
「み、未来さん。朝ですよ。起きてください」
暗闇の底に沈んでいた意識が。その声と共に呼び戻される。
「……ん?」
それと同時に、その声に違和感を抱いた。いつも起こしてくれる……零の声では無い。
「ち、遅刻しちゃいますよ」
「あ……あ。 あ…………やか?」
目を開くと……そこには。
恥ずかしそうに頬を染め……自分の胸を手で覆い隠している彩夏の姿があった。
「……え?」
「うぅ……あんまり見ないでください」
「あ、ああ。悪い。……待て。なぜ俺もお前も裸なんだ? …………零達も?」
狭いベッドの中に、零と新。……そして、星も居た。……皆、服を着ていない。
「ぁ……覚えてないんですね」
彩夏が目を伏せ……そして、微笑んだ。
「覚えてないならいいんです。……知ったら未来さんが責任を感じちゃうはずなので」
彩夏はそう言って、自分の下腹部を優しげな目をして摩った。
……。
待て待て待て待て。何があった? 本当に。落ち着け。冷静になれ。確か昨日は祝勝会をして……
そうだ。零が間違えてお酒を持ってきたとかで…………その後はどうなったんだ?
ダメだ。記憶が無い。
「……彩夏。俺は一体……何をした?」
「だ、ダメです。言ったら未来さんが……傷ついちゃいますから」
「頼む。教えてくれ。……辛いかもしれないが」
知らねばならない。以前、冷蔵庫の中にあったお酒を間違えて飲んだ時も中々酷いことになっていたらしいが……
全身から冷や汗が溢れ出る。
……しかし。
「……ふふ」
彩夏が笑った。
「嘘ですよ、未来さん」
「……は?」
彩夏がニコリと。俺に笑いかけた。
「未来さんの慌てる顔が見たくて……ついやっちゃいました」
その彩夏の言葉と同時に……星達が起き上がった。
「ドッキリ大成功ー!」
「ごめんね、みーちゃん……みーちゃんの可愛い顔が見たくてつい」
「カメラも仕掛けてたから後で見ようね、お兄ちゃん」
「……お前らなぁ」
その時やっと、俺は騙されたのだと分かった。
「まったくお前らは…………まあ、それなら良かった。昨日、あの後は何も無かったって事だよな」
そう言えば、部屋がシンと静まり返った。
「……え?」
「そ、それより星ちゃん、彩夏ちゃん。時間ないけどどうしよっか? 私の制服着けてく? 一応予備が二着あるからさ」
「あ、じ、じゃあそれ借りていこうかな」
「ぼ、ボクも借りたいです!」
「何も……無かったよな?」
「ワタシガッコウノジュンビシテクルネーオニイチャン」
「棒読み下手すぎないか? な、なあ、零」
「……みーちゃん。世の中には知らなくて良い事と知らなくていい事があるんだよ」
「俺本当に何したの?」
「まあまあ、それよりみーちゃんも準備しないと」
「ま、待て。零。なら一つだけ聞かせてくれ」
零が話すつもりがない事は分かった。だが、これだけは確認しなければいけない。
「……一線は越えてないよな?」
「ん。安心して。ちゅーと挿入はしてない」
「…………それ以外は?」
「聞くのは一つって話だよ、みーちゃん」
「うぐ……」
零の言う通りだ。……それにしても、俺は本当に何をしたんだ……?
しかし、それ以上話を聞く事は出来なかった、ただ一つ言える事と言えば……
あれだけの事があったはずなのに、寝覚めはスッキリしていたという事だ。……それはもう、溜まっていたものを全て吐き出したかのような。
その後……顔を洗いに向かうと、更に大きな問題が生じた。
「……これどうすんだ?」
鏡を見ながら俺はため息を吐いた。……鏡に写っている俺の顔には……というか頬と首筋には、虫刺されのような赤い跡がいくつか残っていた。
もう見て分かる。キスマークだ。
「絆創膏貼ってく? みーちゃん」
「……いや、辞めておこう。変にいじめとか勘ぐられてしまう」
仕方ない。多少目立つだろうが、このまま行こう。
「それか私たちにもキスマークと噛み跡付けとく? 一緒なら何も怖くないよ」
「怖さ倍増だわ。意味深が確信に変わるんだよ」
平穏な日々が戻ってくれば良いのだが。と俺はまたため息を吐いた。
……いや。そんな日々ねえな。無かったな、今まで。
◆◆◆
ゴールデンウィークも終わり、中間試験が近づいてくる。
……今回こそ、結果を出さなければ。席次も一桁には入りたい。
「みーちゃんみーちゃん。私が今回も席次で一番取ったらご褒美ちょうだい。具体的には授乳プレイされたい」
「約束された未来なんだよ。お前が一番を取るのは。というか出ねえよ」
「出せるようにするんだよ」
「そんな気合いでどうにかなる事じゃねえ」
「……みーちゃん。肉体改造って性癖の内だったよね?」
「勝手に俺の性癖を改造するな」
「え? でもみーちゃんの持ってるえっちな漫画の中にぼに「やめて! 俺を追い詰めないで!」」
「むぅ……じゃあ受精プレイにする」
「もっとダメだわ。子供出来てんじゃなえか」
「みーちゃんの意地悪! 雄っぱい飲ませろ!」
「やめろ! まさぐるな!」
「あ、じゃあ私も席次で一番取れたら自分へのご褒美でお兄ちゃんの乳首ぺろぺろしよ」
「なんで俺から許可を取ろうとすらしないの? この妹。俺に拒否権は無いの?」
「大丈夫。お兄ちゃんが寝てる時にこっそりやるから」
「……! みーちゃんがいつの間にか制服が擦れて学校でも感じるようになる……! あーちゃん天才」
「変態だよ」
新の頭をぐりぐりとすると嬉しそうな声を上げる。おかしくない?
「あーちゃんばっかりずるい! みーちゃん、私にもご褒美ちょうだい!」
「罰なんだわ。罰のつもりなんだわこれ」
「愛のある罰はご褒美と同義だよ、お兄ちゃん」
「それっぽい事言ってんじゃねえ。反省しろ」
「えへへ……」
どうしようこの子……本当に。
「……まあいいか」
「未来君が諦めた……」
と、そこで新と別れる道が来た。
「私もお兄ちゃんの高校行きたい! 飛び級したい! 授業中にお兄ちゃんのお兄ちゃんしゃぶりたい!」
「退学一直線だな。さっさと行ってこい」
「もー! 帰ったら先輩後輩のイメプするからね! メスガキ煽りもオプションで付けるよ!」
「朝からカロリーの消費が凄いんだよ。はよ行け」
そうして、(半ば無理やり)新と別れた。高校へと俺達は向かう。やはりと言うべきか……俺はかなり目立った。
「ア、ア……マサカ、アレ……アヤカチャンノキスマークジャ……ユ、ユルサン……ユルサンゾォ!」
「落ち着け! 有名人になれば彩夏ちゃんと会えて仲良くなれるんじゃ……? と思って動画投稿を始めたはいいものの8再生32低評価という記録を生み出した山田!」
山田よ。お前の生きてる世界だけバグってないか?
そんな事を考えながらも俺達は校舎に入る。そして、靴箱を開くと……
……そこには、真っ白な封筒とピンク色の便箋が入っていた。
俺は迷った後にその両方を手に取る。
【果たし状】
【未来君へ♡】
「この二つが同時に存在することありえる? というか現代で果たし状ってあるんだ。大丈夫かな。何かしらの法に触れない?」
「どうかしたの? みーちゃん」
「いや……」
俺は零に聞かれ……思わず言葉を濁した。
果たし状はともかく、もう片方はあまり人に言う事では無い。相手を傷つける事にもなりかねないからな。
「……靴箱に二つほど紙が入っていてな。片方は見せられない。もう片方がこれだ」
俺は達筆な字で【果たし状】と書かれた紙を見せた。
そうして見せた後に、俺は中身を確認する。
『放課後、屋上にて待つ』
「これまた典型的な……」
「ん。みーちゃん。もう一つは? 中身じゃなくて、待ち合わせの日程とか」
「ああ……」
零達から見えないようこっそりと確認する。
『放課後、体育館裏で待っています』
「完全に被ってるな。というか、こっちも本物かどうか……いや、それで行かない訳にもいかないか」
その手紙をポケットに滑り込ませる。
「みーちゃん。こっちは私が行ってくるよ」
「いや、それは危ないだろ」
「大丈夫。多分だけど、これ書いてるの女の子だから。一応彩夏ちゃんも来て欲しい。何かあれば一番声が通りやすいのは彩夏ちゃんだから」
「分かりました」
「星ちゃんは待機ね。みーちゃん。念の為チャットの画面を開いてすぐに星ちゃんに助けを求められるようにしといて」
「りょ!」
「……ああ、分かった」
俺は頷きながらも……考えた。零が言うのなら大丈夫なのだろう。しかし。
俺の不安は潰える事が無かった。
◆◆◆
「……もう放課後か」
放課後の事を考えていると気が気でなかった。授業にも身が入らない。
「……零。本当に大丈夫なんだろうな?」
「ん。問題無し。大丈夫だよ」
零は自信満々にそう言った。……零が言うのなら大丈夫だろうが。
「私よりみーちゃんの方が心配だよ。やっぱり星ちゃんについて行って貰う?」
「いや、大丈夫だ」
帰宅の準備を整えながら零へと言う。
「よし、それじゃあ俺はちょっと行ってくる。……彩夏? どうかしたのか?」
「ああ、いえ。……その。最近咲ちゃんと仲良くなったんですけど。さっきから姿が見えないなって」
咲ちゃん? ……ああ。春山の事か。
春山咲。この学校で星と対となるギャルだ。星がオタクに優しいギャルだとすれば、春山は正反対。クールなギャルだ。人気も高い。
「というか、春山と仲良くなったんだな」
「はい! この前校内で少し道に迷ってしまって。未来さんに連絡を取ろうか迷ってた時に声をかけてくれたんですよ!」
「へぇ……良かったな」
「今度未来さんにも紹介しますね!」
その言葉に俺の頬がひくついた。俺は未だに女子への耐性がついていないのだ。
「き、機会があればな」
しかし、彩夏の友人ならば頑張らねば。
「それじゃあ俺は行ってくるな」
「あ、はい! 行ってらっしゃい」
「気をつけてね、みーちゃん」
「なんかあったら呼んでよ、未来君!」
行こうとする俺に気づいて、星も声をかけてくれた。
「ああ、ありがとな」
俺はどうにも消えない一抹の不安を無視しながら……体育館裏へと向かった。
そうして着いた場所には……
「来てくれたんだね、蒼音君」
……浜中が居たのだった。
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