二章 ハーレム対決

第21話 ふふ。おじいちゃんになっても私の上で腰振っててね

「人違いです。めちゃくちゃ。それはもう蟻と象を間違えてます。お引き取れこの野郎。日常を返せ! Comeback nitizyo!!」

「みーちゃん、帰ったら英語の勉強しよっか。さすがに日常をそのまま言うのは……」

「知っとるわ! これだから俺はボケが出来ねえんだよ!」


 零とわーぎゃーやって現実逃避したかったのだが。目の前にいた男が許してくれなかった。


「うるさい! 黙って俺達とハーレム対決しろ!」

「というか俺、その言葉初めて聞いたんだけど? 自分が頭悪い事言ってるの分かってる? ……てかそんなキャラだった? 零と話してた時もっと落ち着いてなかったっけ?」


 そう。目の前にいたのは零が迷子になってた時に一緒に居た男だ。確か名前は――


「ああ、そうだ。ヒューマノイド鈴木だっけ」

「誰だよ! わざとだな!? そんな名前の人間この世に居ねえよ!?」

「ごめんね……みーちゃん人の名前覚えるの苦手だから」

「え? これガチの? わざとじゃなく?」

「わざとに決まってんだろ。ヒューマノイド田中」

「ヒューマノイドから離れてくれる? というか苗字は名乗ってないからな?」

「そうだっけ。じゃあペッ〇ー君だっけ? それともAIB〇君?」

「ロボットから離れない? 俺、これでも人間なんだよ」

「見れば分かるよ」

「調子狂わされるな!?」


 こいつ……なかなかツッコミ力あるな。第二の豪になれるかもしれない。


 その時、奥から走ってくる人影が三つあった。


「ちょっと! ヒュウっちをいじめないでよ!」

「そうだよ! きーちゃんをいじめないで」

「ひ、飛輝君を……い、いじめないで」

「おぉ……なんか来た。てか約一名死にかけなんだが。大丈夫かよ」

 ギャルっぽいのと零っぽいのと文学少女っぽいのが来た。文学少女は息切れしまくってる。


「み、みんな……」

「ヒュウっちをいじめていいのは私だけなんだからね」

「そうだよ! きーちゃんの心臓は私だけの物だよ!」

「飛輝君は……私のです」

「全員ヤンデレ属性持ちかよ。最終回で刺されて死ぬやつじゃねえか。niceboatする?」


 思わずそう突っ込んでしまったが。


「ふふふ……下手なヤンデレには負けないよ。三人がかりでかかってきな」

「こっちにとびっきりやべえの居たわ。大丈夫? 俺死なない?」

「大丈夫。みーちゃんが死ぬまでは殺さないから」

「今俺の死に方決まったね。腹上死だこれ」

「ふふ。おじいちゃんになっても私の上で腰振っててね」

「最低のプロポーズだよ」

「……ねえ。とりあえず話進めない?」


 星の言葉に俺はハッとなる。



「で? なんでまたハーレム対決とか言い出したんだ? ……あー。人から金借りてnectarの限定版DVDを買った山田? 金はちゃんと返そうな」

「誰だよ! 俺じゃなくて山田じゃねえか! しかも山田何やってんだよ!」


 ついうっかり山田の説明をしてしまった。あの二人組のせいだな。うん。


「……ふん。冬華から聞いたぞ。こっちの高校で悠々自適にハーレム生活を送っているとな」

「ははっ。悠々自適? 死屍累々の間違いじゃないか?」

「どっちかというと乳累々だよね」

「四字熟語じゃ無くなってんじゃねえかよ」

「ええい! とにかく! それで気づいたら俺達のハーレムが比較されてたんだよ! 俺はともかく、百花達が下に見られるのが気に食わないんだ! いいからハーレム対決しろ!」

「人と比べる奴の言葉なんか聞くなよ……」

「みーちゃん。犯すよ? 本気で。自分の行動振り返ろっか」

「すみませんでした」


 ……まあ。言いたい事は分かったのだが。


「…………俺は別にハーレムなんか作ってないぞ?」

「嘘つけ! そこの零ちゃんが恋人って言ってたじゃないか! それなのにそこの二人とベタベ……え? 彩夏ちゃん? 彩夏ちゃんがなんでここに?」

「え、えっと……? 未来さんが好きだからですよ?」

「嘘だあぁぁぁぁぁ!」

「……いや、まあ。俺からは何とも言えんのだが。あと零と恋人ってのは嘘だって言っておくぞ」


 目の前で脳が破壊されるのを目撃してしまった。そのついでに訂正してみるが、話は聞いて無さそうだ。


「みーちゃん。ちゃんと責任取って全員孕ませてよね」

「おかしいな。俺の知ってる責任の取り方じゃない」


 しかし、すぐに……えっと、山田オブザ田中が復活した。


「……みーちゃん」

「やめろ。そんな目で見るな」

「と、とにかく! 彩夏ちゃんがいようとも! 俺の女の子達の方が上なんだよ!」

「……ツッコミどころはあるが。別に勝負して決める事でも無いんじゃないか? 鈴木田中」

「芸人かよ! ……そうじゃなくて! とにかく! 俺達がお前の劣化版みたいに言われるのは嫌なんだよ! とにかく勝負だ!」


 めちゃくちゃ勝負したがってんな。ラスベガスにでも行けと言いたいが」

「途中から声出てるけど? 別に誰かと勝負したい訳じゃないから」

「じゃあ別に勝負しなくて良いだろ」

「はんっ! 逃げるのか?」

「そういう挑発には乗らん」

「へえ? じゃあ問答無用で俺がお前より上と言う事になるが」

「だからそういう挑発には――」

「は? みーちゃんが有象無象より下って言いたいの?」

「乗る奴いたよ……あと人を有象無象扱いしない」

「……でも。未来さんが格下扱いされるのは気に食わないですね」

「……まあ。そだね」


 おいおい……


「……勝負事は好きじゃないけど。きーちゃんがそんな冴えない男に負けるとは思わないよ」

「そ、そうです! そんな冴えない人よりも飛輝さんの方がかっこいいです!」

「……ヒュウっちの方が何倍もかっこいいし」


 バチバチしてんな。帰りたい。帰っていいかな。おふとんにはいってねよう。うん。

「え? お布団に入るの? じゃあ肉布団ね。私が上であーちゃんが下で」

「零の頭の中には普通って単語は無いの?」

ノーマル普通よりスペシャル特別の方がかっこよくない?」

ユニーク個性的の間違いだな」

 などと言っていると……鈴木(仮)が言った。


「という事でゴールデンウィークにハーレム対決だ! 詳しい事を話すから連絡先交換しよう」

「すっげえフレンドリーにスマホ取り出してきたな。情緒どうなってんだよ」


 しかし、このままだと帰して貰えなさそうだ。渋々俺は連絡先を交換する。


「ぜってえ負けねえからな! 覚えておけよ! 未来みらい!」

「惜しい。連絡先の名前で判断したんだろうが。未来みくるだ。鈴木(仮)」

「俺の名前は飛輝ひゅうきだ! わざわざフリガナ付きで書いてただろうが! 未来!」


 と、そう言って飛輝(仮)は走っていった。何だったんだ。本当に。


 ◆◆◆


「みーちゃん、あの後連絡来てたの?」

「ん? ……ああ。来てたぞ。というかご丁寧にあっちの女子達の名前とかも来てた」

 次の日の昼休み。俺は零に言われてその事を思い出した。


「日にちはゴールデンウィークの五月四日。なんか対決は三種目あるらしいぞ」

「やっぱり人数に合わせてるんですね」

「それでそれで? どんなのがあるの?」


 星に言われ……俺は再度確認した。


「一つ目はカラオケ。単純に点数勝負らしい。二つ目は料理。なんか俺達の高校と向こうの高校から無作為に女子五人を集めて審査するとかなんとか。それで三つ目が……」


 言葉にするのが難しいな。……ああ。


「一言で言えばクイズか。向こうのチームなら飛輝、俺達ならば俺の事について質問が出るらしい」

「私それやる。みーちゃんの髪の本数から性感帯、皺の数まで言えるよ」

「俺さ。生まれてこの方零以外に恐怖を覚えた事無いんだよね。……まあ、それは置いといて。誰が適任かで言えば零だとは思う」

「……悔しいけどそうだね」

「はい……零ちゃんが一番未来さんの事は知り尽くしていると思います」


 ……本番で零が余計な事を言いそうで怖いが。俺は頷いた。


「それで、問題はカラオケと料理だが……二人はどうしたい?」

 と、二人に聞けば。彩夏が星へ向かって声をかけた。


「……ボクは個人的には料理をしたいですが。でも、勝つならカラオケをやりたいと思ってます。一応アイドルですから」

「ま、そうなるよね。……でも、料理かぁ」


 星が自信なさそうにため息を吐いた。


「……俺は星の料理、良いと思うぞ」

「!」

「み、未来さん。食べたことあるんですか!?」

 彩夏が聞いてきたので、俺は頷いた。


「……昔、一度だけな。俺は好きだったが」

「みーちゃんの浮気者! 帰ったら私の手料理全レパートリー食べさせるからね!」

「死ぬわ。物理的にも財布的にも」

「じ、じゃあ。私を食べてね」

「跳び箱千段の後に百段なら跳べるかって聞かれて頷くやついないんだよ」

「でも、焼いたりせずに生で食べて欲しいな」

「カニバリズムかよ。百段どころか二千段じゃねえか。跳べるって言う奴いねえよ」


 そう零へと返しながらも、俺は星を見る。


「それで、どうだ? 星」

「……未来君にそんな事言われたら。頑張るしかないよ」


 星はぐっと拳を握ってそう言った。


「あ、そうだ。みーちゃん。向こうの人達の名前ってなんだったの?」

「ああ。一応話しとくか」



 紅露飛輝こうろひゅうき

 向こうのハーレムを作ってる男。誰か一人を選ぶ事が出来ずに全員を選んだらしい。一応女子達はそれを認めているとの事。


 一条百花いちじょうももか

 飛輝の幼馴染。あの『きーちゃん』って呼んでたアレだ。


 東城樹里とうじょうきり

 向こうの文学少女。中学の時に悪い男に絡まれてる所を助けたとか何とか。それでハーレムメンバーに入ったらしい。



 姫内冬華ひめうちふゆか

 向こうのギャル。『ヒュウっち』とか呼んでたアレだ。こちらはつい最近暴漢に襲われてる所を助けてもらって(略)


「一応向こうはカラオケに姫内、料理に東城、クイズを一条がやるとか」

「……なんか凄い被ってんね。キャラ的なアレが」

「案外そうでもないだろ」


 星だけで文学少女とギャルの両刀のようなものだし。アイドルはいないし。


「ねー。みーちゃん。真面目な話疲れた。猥談しよ」

「お前はギャグを挟まないと死ぬ体質なのか?」

「みーちゃんは四十八手だとどの体位が好き?」

「猥談のレベルが高すぎるんだよ」

「え? 四十八手は義務教育で習うでしょ」

「少子高齢化が進んで性対策が進んだ日本みたいな世界観のエロ漫画に帰れ」

「……じゃあ四十八手裏で」

「え? あれ裏とかあるの? 初耳なんだけど」

「ふふ。教えてあげる。もちろん体で」

「丁重にお断りさせていただきます」


 そうしていると乳乳乳乳


「あーもう! 星ちゃん! みーちゃんにおっぱい押し付けたからみーちゃんの心の声バグっちゃったじゃん!」

「ねえ。そろそろ驚かなくなってきてたんだけどさ。どうしてそれが分かるの? 俺怖くなってきたんだけど」

「えい」

「困ったらおっぱいを押し付けてくるのはやめおっぱい」

「……もしかしてこれって擦りつけた部分を言わせられる? ……ひょっとしてみーちゃんで淫語プレイ出来る?」

「恐ろしい事考えるのやめてもろて」

 零と星の乳を押しのけながらそう言う。



 ……本当に大丈夫なのだろうか。勝ち負けで賭けなどはしていなかったはずだが。


 俺はため息を吐いた。



 あと一人。足りないような気がしたが。俺は全力で目を逸らし続けた。

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