第3話 起きないとしゃぶるよ? ※おまけあり
「起きて。みーちゃん」
「……んぁ? 零……あと五分だけ……」
「もう……しょうがないな」
零の言葉を聞きながら、また夢の世界へと旅立とうとした。なんだかんだで零は優しいのだ。遅刻しない範囲で起こしてくれるだろう。
と。思っていた時期が私にもありました。
「起きないとしゃぶるよ?」
「起きます! 全力で!」
零の言葉に跳ね起きる。すると、既に俺のモノに口をつけようとする零の姿があった。
「……チッ。あと二秒あれば出来たのに」
「おいこら淫魔。起こしてくれるのは嬉しいが、もっと倫理を身にまとえ」
「倫理なんか要らない。子供作ろ? みーちゃん」
「俺を社会的に殺そうとするんじゃねえ」
「……? 死ぬ時は一緒だよ?」
「相変わらず愛が重い!」
ぐぐぐと零の頭を押しやる。すると、扉がバン、と開いた。
「お兄ちゃ……あああああああ! お兄ちゃんのお兄ちゃんが大変な事になってる! 私が舐めて治してあげるね!」
「おいこら淫魔その二。それとお前のお兄ちゃんは俺しか居ねえだろうが。お兄ちゃんを隠語にするんじゃねえ。あと扉閉めろ」
「はーい」
「閉めてって外に出てからの話だよ!? なんで下半身剥き出しのお兄ちゃんの部屋に入ってくるのかな!? 普通の妹ならビンタの一つでもして逃げるよね!?」
「え……? お兄ちゃん私にビンタされたいの……? お兄ちゃん、そういうの好きなんだね。でも、私! お兄ちゃんのためならドSにもなるよ!」
「そうはならんやろ。というか零。俺のパンツどこやった」
もう妹は救えない。そう思って上裸の零へ聞く。……ズボンはそこらに脱ぎ散らかされていたが、パンツだけ消えていたからだ。
「……食べた♪」
笑顔で零はそう言った。
「……は?」
「未来のおち「言わせねえよ!?」にずっとついてたから。美味しいのかなって」
「狂ってんの!? 頭!? ついに頭おかしくなったのか!? 一緒に病院行くか!? というかぺっしなさい! ぺって!」
思わず背中を叩こうとすると、零は俺を見て笑った。
「もう、冗談だよ、冗談。分かる? 冗談」
「ぶん殴ってやろうか!? お前の冗談は冗談に聞こえねえんだよ! てかまじで俺のパンツどこやったんだよ!」
そう言えば、零はやれやれと首を振った。俺の尊敬する人は男女平等パンチを打つあの方だと言ってやろうか。
そして、零は自分の下着の中へ手を突っ込んで布を取り出した。
「はい、みーちゃんのパンツ」
……………………。
「何してくれてんの!? やっぱ病院行く!?」
「ふふ。間接セッ〇スだね」
「頭沸いてんのか!? よくその返しが出来たな今!」
「零ちゃんずるい! 私も間接セッ「言わせねえよ!?」って言いたかった!」
手に渡された俺のパンツからは生々しい温かさがある。
「あ、心配しないで。まだ濡れてなかったから」
「怖ぇ事言うんじゃねえよ! てかそっちの心配はしてねえんだわ! ……というかまた、なんでこんな事を……?」
思わず困惑しながらそう言えば、零が微笑みながら答えた。
「かの豊臣秀吉は、織田信長の草鞋を懐で温めていたとかなんとか」
「だからって男のパンツを自分のパンツの中で温める奴は居ねえぞ!?」
「もう、みーちゃんったらさっきからデリカシー無いよ? パンツじゃなくてショーツか下着って言って」
「デリカシーを具現化出来るなら丸ごとお前に食わせてえよ……」
言葉の応酬に息切れする。対して零はきょとんとした顔で俺を見ている。くそ、可愛いなおい。
「というかお兄ちゃん。時間良いの?」
そうしていると、新にそう言われた。時間を見ると……
「って、もうこんな時間か……というか俺もなんで妹と幼馴染「婚約者ね」そう。婚約者の前で下半身晒してるんだ? ……っておい。サラッと捏造するんじゃねえ」
「ん。言質取った」
零は……ポケットの中からスマートフォンを取り出した。そこには録音中と表示された画面が写しだされていた。
「何してくれてんですかあああああ!」
そう叫びながらスマホへ手を伸ばすも、届かない。
「これは私がASMRとして聞きながら寝るもん」
「ぜってえ悪夢見るわ。断言出来るわ。良いのか?俺が三百六十度全方向に現れるぞ?」
「なにその夢。最高じゃん」
「だあああああ! そうだった! こいつ頭おかしいんだった!」
何か手はないか考える。考える……
あ、無理だわ。
諦めてパンツとズボン履こう。
「零ちゃんばっかりずるい! 私もお、お兄ちゃんの耳舐めASMR欲しいもん!」
「うん、俺もこんな事言いたくないんだけどな? 言うぞ? 新、一旦黙ろうか。まずは正しい記憶を呼び起こそう? な?」
「うぅ……やだ! 欲しい! お兄ちゃんの耳舐めいちゃらぶせっ「何言ってんの!?」囁きASMR欲しいもん!」
もう頭痛がしてきた。
こうなったらもう、アレをやるしかない。
「とりあえず二人とも出ていって? ね?」
実力行使だ。手は出せないが。
そして、さすがに時間が無い事を悟ったのか、二人も出ていってくれた。良かった。本当に。いや本当に。
朝から二人の相手をするのはカロリーを使いすぎるのだ。
……別に、嫌という訳では無いのだが。
◆◆◆
「まずいぞ。いつもより遅れている」
「がんばれ、がんばれ、みーちゃん、がんばれ」
「耳元で囁くな!」
走りながらも俺の両耳へ囁いてくる零へそう怒鳴る。
頬を膨らませる零を目の端で捉えながら、曲がり角は人とぶつからないよう気をつけながら曲がる。
「……私が転校生だったらパン咥えてみーちゃんにぶつかりに行くのに」
「当たり屋はやめろ。俺は絶対慰謝料は払わんぞ」
「大丈夫。請求するのは子供だけだから」
「おかしいなぁ! 法律さんどこ行ったのかなぁ!?」
そんなこんなでくだらない会話をしていると、学校が見えてきた。
一緒に行けば怪しまれるかもしれない。
「……くそ。零。先行け。数十秒したら俺も続く」
「でもそれって逆に不自然じゃない? 校門で一緒になったって言った方が良いと思う」
「…………分かった、それじゃ行くぞ」
迷っている時間は無い。俺は零の言葉に渋々頷き、校門へと走った。
◆◆◆
――ゾクリ、と体が震えた。
「……嘘」
職員室の窓から覗く光景から目が離せなかった。
もう、会えないと思っていた。
こんな偶然があってもいいのだろうか。
あの姿は――紛れもなく私を助けてくれたあの人だ。
「切長さん。……切長さん?」
「あ、はい!」
名前を呼ばれて意識を取り戻す。
「ああ、良かった。急に上の空になるからどうしたのかと思いましたよ」
「……すみません。知り合いを見つけてしまったので、つい」
心臓がとくとくと高鳴る。
学年は一緒なのかな。それとも先輩だったのかな。
分からない。……でも、学校にいるならいくらでもチャンスはあるはずだ。
その時、先生が窓から校門を覗いた。
「……あれ、珍しい。あの二人が遅刻しそうになってるなんて」
ドクリ。と心臓が大きく跳ねた。
「……あの。ひょっとして、あの二人は同じクラスなんですか?」
バクバクと心臓がうるさい。こんなにうるさくなるのはどんなオーディションでもなったことが無いのに。
「ええ、そうよ。ひょっとしてあの二人と知り合い?」
……歓喜のあまり全身に鳥肌が立つ。気がつけば、私はぶんぶんと頷いていた。
「へえ。なら良かったわ。学校の案内なんかはあの二人に頼むと良いわよ。……蒼音君はともかく、九条さんは生徒会に入っていてしっかりしているから」
先生の言葉に一瞬だけ眉を顰めてしまう……だけど、すぐに笑顔を取り繕って頷いた。
「はい、そうします!」
―――――――――――――――――――――――
おまけ 体育で着替えている零+お説教
「……あれ? 零ちゃん、その胸に付いてるのってまさか……」
「彼との愛の結晶その二」
友達へとそういえば、黄色い声が上がった、
「零ちゃん進んでる! 相手は相手は?」
「ん。まだ秘密」
そう言うと、みんな「えー!」と不満の声を漏らした。
「そっ、それって相葉君だったりする?」
「いやいや。サッカー部の平屋君じゃない?」
「きっと佐川君だよ、ほら、彼凄いって聞くし」
そうして犯人探しのように名前を挙げられるのは正直良い気分じゃなかった。
「……きっと、皆が想像しているような人じゃないよ? ……彼に近づく人がいたら忠告してるし」
さりげなく、流し目で星ちゃんを見る。星ちゃんはクスリと笑っていた。幼い顔には似合わない、小悪魔のような笑み。
「ねえ、今西綾ちゃんの事見てなかった?」
「えー? 気のせいじゃないかな?」
「そ、そうだよね。最近西綾ちゃんってほら、あの……なんだっけ? 彼で遊んでるみたいだし」
「未来君、ね。それと、遊んでる訳では無いよ?」
星ちゃんは真顔でそう言った。……それは別に良い。いや、良くない。
……みーちゃんにキスマーク付けたんだもん。怒っても仕方ないと思います、私。
私でも……いや、一回付けたんだっけ。みーちゃんが寝てる間に。
むむ……あの時の私、よくやった! みーちゃんの初めてを別の女に取られなくて済んだ!
「またまた。西綾があんなよく分からん冴えない男を狙う訳が」
「もう一度言っとくね。遊んでる訳では無いから」
星ちゃんが目を鋭くして、不機嫌な顔で言った。……ふん。私だって星ちゃんが言い返さなければ言い返したし。
みーちゃんは決して冴えない男なんかじゃない。頑張り屋さんだ。
「へ、へー。それじゃあ大丈夫そうだね。競争相手なんかも少なそうだし」
「えー? そんな事ないよ。とっても強い相手が居たりするんだよね」
「そ、そうなんだ」
「ま、負けるつもりも無いんだけどね」
そう言って……星ちゃんは流し目で一瞬だけ。本当に一瞬だけ私を見てきた。
……負けるつもりは無い? こっちのセリフなんだけど。
密かに対抗心を燃やしたまま着替えは終わった。とりあえず家に帰ったらみーちゃんを問答無用で押し倒そう。ついでにえっちな事もしよう。と、学校に居る間はずっと考えていた。
◆◆◆
「だから押し倒したと?」
「そう。あわよくばみーちゃんの初めて貰えないかなって」
「あわよくばで人の童貞を奪おうとするんじゃねえ! てかおかしいだろ! 童貞と処女の価値観普通逆だろうが! ここは貞操観念逆転世界じゃねえんだぞ!」
「おかしいよ! だったらみーちゃんが私の処女欲しがってるはずだもん!」
「さてはお前の辞書の中には『理性』と『倫理』と『羞恥心』は無いんだな?」
「羞恥心はあるもん! この前みーちゃんの顔のすぐ傍でお「ナニしてんの!?」した後はすっごい恥ずかしかったもん! でもすっごい気持ちよかったもん!」
「零ちゃん……」
正座をしながらも赤くなった頬へ手をやってくねくねしている零を見てさすがに新も引いているのだろう。良いぞ。反面教師にしろ。
「こんどあーちゃんもやろ」
「零ちゃんほんと天才。私もお兄ちゃんが寝た後にやる」
「よしよし。次は『反省』と『犯罪』のお勉強だぞ? 今がお説教だという事を忘れるな?」
頭痛のするこめかみを押さえながら、その後二時間ほどたっぷりとかけてお説教をした。
効果は無かった。こんちくしょうが。
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