第5話 カルター兄弟
言質は取れたし、特徴も一致している。疑いようはないのだが、近づきながら念のため箱さん(箱の付喪神)にも二人を見てもらうことにした。
「箱さん、君の中身を持って行ったのは奴らで間違いない?」
「うーむ。身体が大きい方はそうかと思うが、もう片方は分からん。何分寝ぼけておったからのう」
「分かった。ありがとう」
僕らが席に近づいてもカルターたちは全く気にも留めていない様子だ。
「お二人さん、盛り上がってるところ、少し失礼するよ」
「あ?何だお前?失礼だと思うなら話しかけてくんじゃねぇよ」
「まぁ、そう言わず。話を聞かせてくれないかな?さっき大声で言っていた馬鹿なカモについて」
「お前同業者には見えねえな。どこの野郎だ?子連れとはより怪しいな」
「で、どうなんだい?馬鹿なカモってのは一体どんな奴だったんだい?」
僕がグイグイ話を進めるのでカルターの片方は嫌そうな顔をしたが、もう一方は口が軽かった。
「それがよ、本当に馬鹿な奴らだったんだよ。子ども二人でのこのこやってきて観光気分でよ。荷車から離れた隙に俺がちょちょいと脇に荷物を除けといたら盗まれたって言って大騒ぎでそこら中走り回って傑作だったぜ。その後は行きつけの商人に売っ払ってよ、こうしてどんちゃんできてるってわけよ」
「おい!そこまで言うやつがあるか!この馬鹿野郎!」
酒を飲んでいた方が酒瓶を投げつけてもう片方のカルターの口を塞いだ。
「ご、ごめんよ兄貴。でもよ、気分が良い時には誰かに話したいじゃねえか」
「だからお前は馬鹿なんだよ。こういうのは言わないのが恰好がつくってもんだろうが」
いや、盗みに格好とかないだろう。と突っ込みたくなったが、グッと我慢した。しかし少女の方は限界を超えたらしい。
「何が格好だ!この盗人め!あんたらのせいで私たちは大損害被ってるんだ!良いから早く私たちから盗んだ物を売って手に入れた金を渡せ!」
「何だこのガキは。いっちょ前にカツアゲか?このカルター兄弟に喧嘩売るっていうのか?」
「喧嘩売られる覚えしかないだろうが!早く亭主に金渡しな!」
ん?聞き間違えかな?今亭主って言った?
「お嬢ちゃん、僕らはまだ知り合ったばかりだから結婚は・・・」
「何馬鹿な事言ってんだよ。亭主はうちの亭主に決まってるだろう」
そうするとさっきまで黙っていた少年が口を開いた。
「お前ら、覚悟はできてんだろうな?うちの商品を勝手に横流ししたんだ。きっちり落とし前はつけさせてもらうぞ」
しかし、そこから聞こえてきた声は可愛らしい声ではなく、野太い声だった。その声を聞いて、カルターたちも戸惑っている。
「お、お前ら、何なんだよ。ただのガキじゃないのかよ」
「一度として子どもなんて言ってないよ。私たちはハーフリングだ」
ハーフリング。たしか小柄な人種だったはずだ。ドワーフと間違えられることもあるが、彼らはドワーフのように屈強な身体ではなく、長寿で身体能力は人の子どもと変わりがない。
「ハーフリングとは珍しいな。ちょうど良いぜ。迷惑料代わりにお前らを売りさばくとするか。ハーフリングはその手のやつには高値で売れるからな」
酒を飲んでいたカルター1号(名前聞いてなかった)が立ち上がった。
「ふん。あんた等なんかに捕まるような馬鹿じゃないよ。まぁ、商品は盗られちまったけどね。とにかく神妙にお縄につきな!」
「やかましい。商品は黙ってろ!」
カルターたちが夫妻に襲い掛かった。ハーフリングの二人も応戦しようと構えるが、カルターたちは目の前でいきなり倒れた。構えていた二人、周りの客は何が起こったのか分からず、しばらく静寂が続いた。
「お、おい。どうした?今更死んだふりとかしても意味ないぞ」
「いや、こいつ等のびてるぞ。首元に何かを当てられた跡がある」
気絶したカルターたちを見ていたハーフリング夫妻の目線はすぐさま僕に向かった。
「これはもしかしてお前さんがやったのか?」
「はい。さっきマスターに騒ぎは外でやれと言われたので外で静かに話せるように一旦二人には眠ってもらいました。この方が楽で良いでしょ?」
夫妻は目を丸くしていたが、とりあえず僕らはカルターたちを担いで店の外へ出た。そして裏道まで運び、目を覚ました時に抵抗されないように縄で縛ってから水をかけて意識を取り戻させた。
「うわっぷ。何で俺は濡れてんだ。そして何で縛られてんだ!」
「兄貴、俺も濡れてんだけど、何があったのかな?」
「お二人さん、目覚めはどうかな?酔いも頭も醒めたんじゃない?」
僕の言葉に反応してカルターたちはこちらを振り向いた。
「これをやったのはお前か!早くほどきやがれ!」
「その前に彼らが得るはずだったお金を返してもらえないかな?さもないとこのまま海に落とすけど、良いかな?」
「は?何だよそれ!盗られた方が悪いんだろうが!大体俺らが盗んだ証拠はないだろうが!」
「証拠なら君たちの手元にあるじゃないか」
カルター1号は何を言っているのか分からない顔をしていた。
「そんなもん俺らが持ってるわけないだろうが!」
「君たちはさっき盗んだ物はいきつけの商人に売ったって言っていたよね。だったらあるはずだよね、商品の明細書」
そこまで僕が言うとカルター1号は思い出したらしく、急に顔色が変わった。
「売ったということはその商品の仕入れ数や1個あたりの値段なんかをギルドへ登録する必要がある。ましてや正規のルートに乗せるには当事者同士で商業ギルドへ行って取引成立の契約をするのが必須条件だ」
「そんなもん、とっくに捨てたに決まってんだろう!」
「いや捨てれないはずだよ。何せその明細書は君たちの次のカモになる切符なんだから」
カルター2号とハーフリング夫妻は首をかしげていたが、1号だけはさらに表情が険しくなった。
「冒険者のあんた。いったいどういう意味だい?」
「いかに物を盗めても売れなかったら意味がないでしょう?売るためにはその先の販売ルートを開拓しておく必要がある。そのためには盗品を掴ませたってことをネタにゆすってやるか、過去に盗んだ人に商品を売りつけるのが一番効率的じゃないですか」
「ああ!そういうことか!」
僕の説明を聞いて旦那さんの方は理解をしてくれた。
「買主は商人の成りたての人か、子どもを狙っていたんでしょう。恐らくあなたたちがこの街に再度来た際は横流しした商品を売りつけるつもりだったと思いますよ。彼らにとって明細書はゆすりのネタであり、新しい顧客リストでもあるんですよ。そんな大事な物を金を管理しているあなたが捨てたとは考えにくい」
「そんなもん、お前の妄想にすぎねえじゃないか!」
1号は頑なに否定したので僕も強行手段に出ることにした。
「スキル:付喪神、発動」
僕は1号が身につけている物すべてにスキルを発動させた。すると服や剣、何から何までが小さな子犬の姿になり、1号は素っ裸になった。
「おい!何すんだ!」
「兄貴、いつの間に露出癖に目覚めたんだ?」
「馬鹿!違うに決まってんだろう!良いから早く戻せ!」
1号が騒ぎ始めたが、僕は冷静に付喪神たちを観察した。すると、1種類だけ子犬に変化せず、ウサギの姿をした付喪神を1号がベルトをしていた辺りに見つけた。僕はそのウサギを手に取りスキルを解除すると案の定、ウサギは商品の明細書へ姿を戻した。
「やっぱりありましたか。当然と言えば当然ですけど」
「あ!これ私たちの書いた明細書じゃないか!まさかそのまま使うなんて、想像以上に間抜けだね。こんなのに商品を盗まれたと思うと尚更悔しい!」
「なんで俺がまだ持ってるって分かったんだ?」
1号は悔しそうに僕の方を睨んできた。
「いや、ただの勘ですよ。あと、盗人にそこまでいう道理はないので」
こうして、僕の第二の人生の初仕事は一応の決着がついた。僕らはその後カルターたちを冒険者ギルドに突き出し、ハーフリングの夫妻は何とかお金だけは回収することができた。そして僕は報酬として船に乗る代金を手に入れることができたのだった。
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