第4話 付喪神

 『スキル:付喪神』

 本来は自身が触れた無機物の能力を底上げできるスキルだ。ただ僕の場合、理由は分からないが能力の底上げだけでなく、無機物を一時的に生物にして会話することができる。これが分かった当初はスキルの進化なのか、突然変異なのか研究対象にもなったことがあったが、結局答えが出ないまま現在まで至る。今回は老人の姿になったが、ものによっては鳥だったり、虫だったり、完全にランダムなのでスキルを発動するまで僕にも何になるかは分からない。

「人がせっかく身軽になって、ゆっくりしとったところに何の用じゃ?」

「休んでいた中ごめんよ。君の主人たちが君に詰め込まれていたものたちを盗まれて困ってるんだ。だから少し君の力を借りたいと思ってね」

「なんじゃい。予定より早く軽くなったと思ったらそんな理由じゃったのか。確かにいつもとは知らんやつがわしの蓋を開けたからのう。まぁ、何かあったのではないかと思ったが」

 姉弟たちは僕が小さな老人と話している光景を不思議そうに見ていた。

「ねぇ、あんた、その小人のじいさんはどっから出したのよ?手品かなんか?」

「じいさんとは失敬な!誰のおかげでここまで荷物が運べたと思っとるんじゃ!」

箱は少女に対して怒り始めたが、少女はそんなことはお構いなしに僕に質問を続けた。

「で、このじいさんが犯人を見つけてくれるってことで良いの?あんまり頼りになりそうにないけど?」

「見つけてくれるのを手伝ってはくれると思うよ。ただ、今はかなりへそ曲げてるみたいだけど・・・」

「え?何でよ?」

 この子に悪気がないのは分かるが、箱は先ほどからこちらに背を向けて一切口をきいてくれない。

「ねぇ、機嫌直してくれないかな?手伝ってくれたら僕ができることはお礼をするよ。だから君の主人たちを助けてほしい」

「そこのアホ娘が謝るだけでは足りんわ」

「だれがアホ娘よ。主人が困ってるんだから手伝いなさいよ」

「そんなことわしが知ったことか。どうしてもと言うなら釘の取り換えとニスの塗り直しをやると約束せい!そうしたら手伝ってやるわい」

 悪態をつきながらも何だかんだ手伝ってくれる気でいるから安心した。喋り方がけんか腰になっているのは持ち主の影響なのだろうか?

「分かったわよ。じゃあ、早く犯人を見つけるわよ。で、冒険者のあんた、これからどうするのよ?」

 そうこうしているうちに話がまとまったらしい。

「うん。まずはこの箱さんに犯人の特徴を聞いてみようか。唯一犯人の顔を見た人だ

しね」

「何とも地味ね。もっとパッと分かったりしないの?」

「こういうことは地道なことの積み重ねが近道だったりするんだよ」

少女は少し不満げだったが、とりあえず僕らは箱から犯人の特徴を聞くことにした。

「で、早速なんだけど、君の中身を持って行った人ってどんな奴だった?」

「そうさのう。あの時はわしも疲れておったし、完全には思い出せんが、とにかく手が大きい奴だった覚えがあるの」

「モノが疲れるわけないじゃない。何言ってのよ、このじいさん」

「黙らんかアホ娘!わしらだって疲れるんじゃ!」

「まぁ、まぁ。じゃあ、大きい手の他に覚えてることってあるかな?」

「ん?ああ、やたら獣臭かった覚えがあるの。あれは犬の匂いじゃな。昔わしに小便をかけた奴と同じ匂いじゃったからな」

 大きな手に獣の匂いか。まだ絞り切れていないけど可能性は二つ浮かんだ。

「犯人は大柄な人物で犬を連れて盗みをしていたか、あるいは犬型の獣人か。この情報だけだと、まだ決め手には欠けるな。もう少し覚えてることはないかな?」

「他にか?確か二人いたような気がするのう。兄貴とか何とか言っておったし。あとはただ持ってかれるのを見とるしかなかったわい」

「二人組で大柄な人物。そうすると片方が獣人かもしくは両方とも獣人の二人組ってことが考えられるな」

 そこまで言うと少年が少女と何かやりとりをしていた。

「獣人の二人組なら走り去っていくのを見たそうよ。ただ、顔までは分からなかったみたい。このじいさんの話を聞いて思い出したみたい」

「じゃあ、その二人組が犯人候補ってことで間違いなさそうだね。獣人の二人組となれば他に覚えてる人もいるはずだから、ここら辺でさらに聞き込みをしてみよう。箱さん、ありがとう」

「待たんか!わしも連れていけ。顔を見ればわしの記憶も鮮明になるかもしれん」

「分かった。ただ、僕のポケットの中にいてね。僕から一定の距離離れると元の姿に戻っちゃうから」

「あい、承知した」

 僕らは手がかりを頼りに街中で聞き込みを始めた。しばらく聞き込みをしたところ、港から西の酒場に件の獣人らしき二人がいるという情報を得ることができた。

僕らは早速その店まで向かい、店の中に目当ての人物がいないか辺りを見回した。ざっと見た感じこの店は獣人たちの憩いの場らしい。客の大半が獣人で人間の方が目立ってしまうほどだった。僕はカウンターの方に向かい、マスターらしき人と話をした。

「失礼。ここのマスターはあなたですか?」

「ん?ここに人間の客とは珍しいな。まぁ、雇われ店長ではあるが、一応マスターやってるよ。何か用かい?」

「実はある人物を探してまして。ここに二人組の犬型の獣人は来ていませんか?片方は大柄な人物なのですが」

「犬の獣人なんてここじゃ珍しくもないからな。強いて言うならカルターの連中かね?」

「カルター?」

「ああ、ここらへんでコソ泥みたいなことやってる所謂ゴロツキだよ。今日はやけに羽振りが良いから何か良いカモでも見つけたのかもな」

「そいつらまだここにいます?」

「ああ、最近耳が遠くなってな。急にあんたの声が聞こえづらくなったな」

要は金を出せってことか。仕方がないのでなけなしの金を出して話を進めた。

「窓側に酒樽陣取ってる奴らがカルタ―だよ。騒ぎなら外でやってくれ」

「分かりました」

マスターは話を終えるとまた仕事へ戻っていった。僕らはマスターに教えてもらった窓側の席まで近づいて行った。本当にこいつらが犯人なのかが分からないので、会話を聞くために少し離れた席に座り、しばらく様子をうかがった。

カルターの片方はすでにできあがっているらしく、舟をこいで眠りかけている。もう一方はまだ食べ足りないのかウエイターが来るたびに注文をしている。すると食べ続けている片方が急に大声で話し始めた。

「兄貴~。今日は大収穫でしたね~。今頃あのガキ共、半べそかいてますよ。こんな楽な仕事は辞められない!」

「あんまりでけぇ声で言うんじゃねぇよ。まぁ、馬鹿なカモのおかげで俺らはこうして飯にありつけてるんだけどな。商人なんてのは商品が安く手に入れば良しと思ってる奴が多いからな。ましてや自分が掴まされてるのが盗品だなんて思いもしないだろうから、そこら辺の奴らからかっぱらったもんでも金が転がり込んでくる。まぁ、売れるかどうかの見極めは俺がやるからよ、お前はこれからもどんどん盗んで来い」

「はい!分かりやした!あ、こっちに丸焼き一つ追加ね!」

 うん。確定だな。ここまで馬鹿正直に話されると本当に楽だ。話を聞いている最中、少女は今にも飛び掛かりそうだったが、少年が何とか抑えていた。しかし、その抑えももう必要ない。僕らは意を決してカルターの席に向かって行った。

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