第3話 第二人生の初仕事

 走り去った二人を探し回っていると、街の掲示板に1枚の記事を見つけた。

『勇者、行方不明?パーティメンバー悲嘆にくれる」

僕は死亡ではなく、行方不明扱いになったらしい。パーティメンバーにとっては僕の生死そのものよりも勇者パーティーとしての立場を守ることを優先した結果だろう。死んでもなお利用されるとは悔しい気持ちも多少はあるが、そこまでしないとまずい状況だということも理解できた。こんなことはさておき、二人を探さなければ。

「もう!腹立つ!なんでこんな目に合うのよ!」

 聞き覚えのある大声が耳に入ってきた。声の方に目をやるとさっきの二人が噴水広場の前で座り込んでいた。少年は怒り狂っている姉らしき少女を宥めようとしているが、上手くいっていないように見える。

「あれは正真正銘、私たちの商品なのに!どうして私たちが引き下がらないといけないのよ!」

「それは君たちがあの店主が言っていた証拠を出せなかったからだろう?」

「あ?誰よ?あんた?人攫いかなんか?」

「いきなり人攫いとは、何とも失礼な子だな」

「って、あんたはさっきの邪魔してきたやつじゃない!何よ、私たちに何か用なの?」

言葉の端々から怒りの感情が伝わってくる。あんなことがあったから仕方がないとは思うが、これは話を聞いてくれるか心配だ。

「用としては、僕に君たちを助けさせてもらえないかと提案しに来たんだよ。商品を取り返すのはできないけど、稼ぐ予定だったお金を手に入れることはできるかもしれないんだ」

「何それ?そんないい話を見ず知らずの人間に言うなんて怪しさしかないじゃない。本当の目的は何なのよ?」

「もちろんタダとは言わないよ」

「やっぱりお金を盗るつもりなんじゃない!商品を盗られた挙句、お金まで盗ろうとするなんてこの街はなんて最悪な場所なの!そんな話なら他の人たちにしなさいよ。私たちのことはほっといて!」

少年の手を引いて、少女はこの場を去ろうとしたが、僕はすかさず会話を続けた。

「お金は盗らないよ。君たちにはあることをお願いしたいだけなんだ。その報酬の一部をもらいたいってことなんだよ」

「そう言って私たちに危険なことさせるつもりでしょ!子どもだからって馬鹿にしないで!」

「依頼を出してほしいんだ。冒険者ギルドに」

「依頼を出す?」

僕がそこまで言うと少女は足を止めて僕の方を振り返った。

「そう。内容は君たちの商品を盗んだ商人を捕まえること。賞金は商人が持っている売上金。取り分としては君たちが8割、僕が2割でどうかな?」

「そんなの私たちが得するだけじゃない。それにどうやってその商人を見つけるのよ?それができるなら、私たちがすでにやってるわよ」

「そこは企業秘密で何とかするよ。ただ僕がその商人を見つけただけじゃそこで終わりだけど、依頼となればギルドに詳細が記録されるから今後悪さはできなくなるし、君たちの気も少しは晴れるかと思って。どうかな?」

姉弟は顔を見合わせて少し考え込んでいる。まぁ、警戒して当たり前のことだ。やり方も教えていないのだから確実性もないことに時間を無駄にすることは避けたいだろう。考え込んで数分経った頃、姉の方が僕の方を見て話し始めた。

「分かったわ。もしあんたが私たちを面白半分でからかっていたとしても失うものもないし、また騙されたって思えば良いことだしね。ただ、私たちはその商人の顔も知らないし、そいつが仮に見つかったとしても私たちの商品を盗んだって証拠はどうするのよ?」

「それは商品が教えてくれるよ。あと、証拠は君たちの手元にあるから大丈夫」


 姉弟はまだ信じられないような表情をしていたが、とりあえず早速冒険者ギルドへと向かうことにした。僕は諸事情でギルドへ入れないことを説明し、姉弟にメモ書きを渡してその通りに依頼発注をしてもらった。

「はい。これで良いのよね?子どもが依頼に行ったから何度も確認されて怪しまれまくったわよ」

「ありがとう。ごめんね。でもこれで君たちに協力できるよ」

「そう言えば、何であんた名前を伏せさせたのよ?冒険者って名を売るのが仕事なんじゃないの?」

 確かに名前を売って指名されるようになるのが冒険者の第一目標ではある。名が売れれば指名料金を取ることも可能だ。

「今回はあくまで人助けだからね。それにこれから見せることを君たちにも他言無用でお願いしたいから、あえて名前は出したくないんだ」

本当の理由は生きていることがばれる可能性を一つでも消しておきたいだけなんだけど。

「とにかく、これから君たちにとって憎き盗人を見つけようか。そこでなんだけど、君たちが持ってきた商品が入っていた箱とかってないかな?」

「なんでそんなのが必要なのよ?まぁ、ボロボロではあるけど、箱なら残ってるわよ。盗まれたのは中身だけだったし。こっちよ」

僕は姉弟たちに連れられて箱が積まれた荷車まで向かった。少女の言う通り、積まれていた箱は所々欠損があり、何とか形を保っている状態だった。

「これはひどいね。盗人は相当急いで荷物を持って行ったんだね」

「悪かったわね。それは元々その状態なのよ。年季が入ってるけど、物持ちは良いんだから」

完全に失言だった。まぁ、気を取り直して

「じゃあ、この子たちに誰が中身を盗んだのか聞いてみようかな」

僕のこの言葉に姉弟は何を言っているのか分からない表情をした。

「あんた、頭大丈夫?そんな若い頃から変なこと言ってると誰にも相手にされなくなるわよ」

「僕は至ってまじめだよ。まぁ、見てて」

二人の心配をよそに僕は早速作業を始めた。作業といってもただスキルを使用するだけなんだけど。このスキルのおかげで僕は『勇者』になれたんだ。


「スキル:付喪神、発動」


箱を中心にスキルの方陣が展開され、今にも壊れそうな箱は小さな老人の姿に変わった。これが僕のスキル、『付喪神』。僕はモノと会話をして戦ってきた勇者だ。

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