第8話 企み
「分かったのは、奴らがビサロンという窃盗団の仲間って事だけだ」
ティック氏は報告書を机に置くと深刻な表情で唸った。
ここはティスア自然対策本部で彼は特殊調査課の職員だ。先日ある現地対策課のグループが行った調査で、違法にルーグを捕獲している施設が発見された。
その場で捉えられたのは二人だけだったが、その手の込みようから裏に大きな組織が絡んでいると判断され、特殊調査課に業務が引き継がれたのだ。
彼は特別な日に着るグレーのスーツに身を包み、できるだけ威厳がある風に見せようと胸を張った。それから真っ赤な瞳を向かいの椅子に座る人物達へと向ける。
一人は角を生やした長身の男で、癖の強い赤毛が鬣の様に半身を覆っていた。靴は履いておらず、足先には蹄が生えている。赤茶色のポロシャツにデニムという出で立ちだが、腕組みして座っているだけでも圧倒される迫力があった。
もう一人は女性で、紫のキャミソールに背中が編み上げになった黒のシャツを合わせている。編み上げの間から蜘蛛に似た長い脚が伸びているが今は蕾の様に小さく折り畳まれていた。
ショートパンツに赤いハイヒールを履いた足が時折組み替えられるのを無意識に目で追っていると、咳払いと共に鋭い視線が向けられる。彼女の顔は右半分が前髪で隠れているが、片目だけでもティック氏を威圧するには十分だった。
「ええと、それでだ」
ごまかす様に視線を机の上へ戻す。
「あれから捜査をしたんだが、下っ端二人は指示のあった時に作業をしていただけで、他は何も知らないらしい。いつの間にか中身入りの箱が運び出されて、空き箱と入れ替わっているそうだ」
そう言ってズボンのウエストから針金状の尻尾を伸ばし、額に三つある瘤をかいた。
「ビサロンと言えば、ルーグ災害に乗じて盗みに入るっていうアレか」
角の男がようやく無言を解いて報告書を手に取った。開いたページには森林地区の壊れた柵や地下通路、罠が仕掛けられていた場所の画像が添付されている。
「ああ。だが都合よくルーグ災害に出くわすなんて、そうある事じゃない。災害を正確に予見する手段があったのか」
「あるいは、故意に引き起こしていたか」
角男の発言をティック氏は無言で肯定し、次のページを捲るよう促す。それに従った男は内容を見るなり顔をしかめ、隣の女性にも見える様に報告書を持ち替えた。
報告書を覗き込んだ女性も驚いた様子で瞳を見開く。そこにはあの金属の箱が大量に並んだ画像があった。
「君達が入った所とは別にこの部屋があった。盗みを働く日取りが決まったら、ここに集めたルーグを運び出してばら撒いていたんだ」
更にその先のページには罠の仕組みや発見時のルーグの数など細かな資料が続いた。
「それであの日以降、箱が運び出されることは?」
男が尋ねる。
「今日で約三週間、動き無しだ」
「そうか・・・」
再度パラパラページを捲って中身を確認した後、報告書は静かに閉じられ机の上に戻された。
「だがビサロンの事件について、解決の糸口が見えてきた。今後も気になる事があれば情報共有を頼みたい。もちろん、こちらも全力を尽くすよ」
半分は相手をもう半分は自分自身を鼓舞するようにティック氏は言った。
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