第7話 捕獲
最初の一撃で木の扉は蝶番ごと千切れて弾け飛んだ。
ギュートは周囲の壁も殴りつけると通り抜けられる大きさまで穴を広げる。舞い上がる土が静まるのを待って、四人は怪しい壁の向こう側へ足を踏み入れた。
何が飛び出すのかと気を張っていたが、動くものは見当たらない。ただ狭い空間にルーグの羽音と雑音混じりのラジオの音声が溢れていた。
土の天井から吊るされたランプは弱弱しく光を放ち、カップ麺や弁当の容器が転がる床を照らしている。ラジオはゴミに埋もれかけたテーブルの上からルーグの発生状況を伝え続けていた。
ゴミを蹴散らしつつ進むと巨大な木箱があった。中には石が大量に積まれている。その山から石の欠片を手に取るとユウナは怪訝な表情を浮かべた。
「何ですか、それ」
クロイが尋ねると、彼女は欠片の断面を光にかざしながら差し出す。
「カチナ鉱。ルーグが好んで食べる鉱石よ」
灰色のくすんだ石の中に水色の結晶が混ざっている。
「餌でルーグを誘き寄せて捕獲していたんだ。見ろ、これが仕掛けだ」
傍に並んでいた金属の箱をギュートが小突いた。底にキャスターが付いていて中からルーグの羽音が聞こえている。
「オレ達が追ってきた何倍も詰まっているぞ」
「でも、何のためにそんな・・・」
ユウナが疑問を口にしかけたその時、四人が入って来たのとは別の方向からガラガラという音が近づいてきた。同時に足音と話し声も聞こえてくる。
職員達は咄嗟に箱の陰に身を隠した。
「あとは箱二つを移動して、罠を仕掛けたら今日の仕事は終わりだ」
額から角を一本生やした細身の男が金属の箱を押して入ってくる。
「はあ・・・簡単な仕事とはいえ、毎日この羽音を聞いてると耳がいかれちまいそうだぜ」
もう一人は犬の頭をした赤黒い男だった。耳栓代わりにタオルを巻いているが、ルーグ入りの箱に近づくと顔をしかめる。
「さっさと済ませちまおう」
床とキャスターの隙間から角男の足が見えた。職員達が隠れる箱の隣に空き箱が横付けされ、手前のルーグ入りの箱が移動される。
犬男はカチナ鉱を幾つか取ってくると、箱の蓋を開けて中に放り込んだ。蓋の位置は丁度あの扉の高さと同じで、蓋を開けたまま壁付けして放置すればルーグが勝手に入り込む仕組みのようだ。
準備が整うと犬男は箱を扉の前まで移動させる、が。
「あれ、どうして壁が」
言い終わらない内にギュートが素早く飛び出して後ろから犬男の長い鼻面を鷲掴みにした。男は手足をバタつかせて抵抗したが、背中に蹴りを喰らってそのまま気絶する。
「さてと、次で最後・・・」
二つ目の箱を取りに戻った角男の頭上に音もなく影が覆い被さる。
ユウナの蜘蛛脚が男の手足を抑え、叫ぶ隙も与えず口元に絡みついた。男は一瞬何が起きたか理解が追い付かない様子だったが、横でのびている仲間を見て恐怖の表情を浮かべる。
「自然対策部の者だ。ここで何をしているのか、じっくり話を聞かせて貰おうか」
穏やかな、しかし相手を威圧する重たい口調でリーダーが笑いかけた。
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