第5話 調査開始

 事務所から約二時間で車は住宅街へ入った。更に三十分ほど走るとアパートや一軒家が消え、代わりに空き家や放置された土地が続く。

 道路もでこぼこした土の道に変わって車体が大きく上下に揺れた。しまいには伸び放題の雑草に行く手を阻まれてそれ以上車で進むのが困難となってしまった。


「この辺りで合ってますか?」


 シャビは窓を開けて顔を出し周囲の様子を伺った。ナビ上では確かに道が表示されているものの、実際は草原と道の判別もできなくなっている。


「そうだな、ここらで良いだろう」


 比較的草が少ない場所を探して車を停めた。足元を探りながら慎重に地面へ足を付ける。


「ここから森林地区まで徒歩で移動しながらルーグの群れを探そう。視界が悪いから気を付けろよ」


 そう言うとギュートは先陣を切って歩き始めた。

 巨体のリーダーは勿論、ユウナもかなりの高身長で背の高い草も構わずどんどん先へ進んでいく。シャビもどうにか草の間から頭を出して二人に続いた。

 しかしクロイに至っては完全に視界を遮られ、数分で皆がどの方向へ向かったかも分からなくなってしまった。途方に暮れて右往左往していた所をリーダーに助け出され、結局彼に担がれたまま移動する事となったのだった。


 太陽が高く昇り職員達の額に汗が滲み始める。

 調査開始から約一時間、辺りを警戒しながら休みなく探し回ったが、群れどころかルーグの一匹すら見つからない。


「この数時間で分散したか、他の場所へ移動したか。どちらにしろ、これ以上の調査は無意味かも知れんな」


 リーダーが中止の判断を下そうとした時、抱えられたまま双眼鏡を覗いていたクロイが声を上げた。


「ギュートさん、あれ!」


 指差す先には列を成して飛ぶルーグの群れがあった。他二人も近寄ってきて草の間に身を屈め、そっと群れを確認する。


「後を追って奴らの動きを探る。危険が無いうちは手を出さないようにな」


 一定の距離を保ちつつ、気づかれないよう慎重に歩みを進めた。ルーグ達は草の間を飛び回っては転がる石を齧ったり、互いに体をぶつけ合って遊んだりと目的無く移動していると思われた。しかしある地点で急に様子が変わり、速度を上げてどこかへ向かい始める。


「追いかけるぞ」


 ギュートの呼びかけで一斉に走り出す。職員達が隠れるのを辞めて追っても、ルーグ達は行く先に夢中でこちらに見向きもしない。まもなく森が見えてきて、群れはそのまま木々の中へと消えてしまった。

 職員達はそこで足を止めた。

 木の杭にロープを渡した柵が森を囲む様に巡らせてある。ルーグは森林地区の深部からティスアへ入ってくるとされているので、その先は危険地帯だと知らせる為の物だった。

 ギュートはクロイを肩から下ろした。それから全員でロープに沿って歩きながらルーグの行方を探す事となった。

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